(photo by Powell river school district)
カナダでは、インクルーシブ教育が人に優しい社会づくりや個人の才能教育を行ううえで、大きな役割を果たしています。日本がこれからインクルーシブ教育を進めていく中で、参考になる仕組みをご紹介します。前編の記事では、カナダでインクルーシブ教育に力を入れている背景、最前線の学校教員・教師を支える仕組みなどについてご紹介します。
「みんな」で社会をつくるためのインクルーシブ教育
日本とカナダで大きく異なる点はカナダでは、90%以上の学生が住んでいる地域の公立の小学校や中学校に通学するという点です。
つまり、みんなが同じ地域の学校に行くので、どの学校でもインクルーシブ教育が行われています。カナダのインクルーシブは障害者、健常者という分け方だけでなく、国籍、英語を母国語でない学生、LGBTなどすべてのことを指します。(今回の記事では、主に障害者と健常者のインクルーシブについてお伝えします。)
(graph by Shelly Moore)
カナダがインクルーシブ教育を大切にしている理由は、実際の社会を構成するのは、健常者も障害者も全員だからです。カナダでは、高校までしっかり卒業している人の方が、精神病、生活保護、犯罪等につながりにくいという統計をもとに、「みんなで社会をつくっているんだよ!」という認識を持っています。だから協力することでより効率的に色々な事が実現できるということを授業で教えていきます。
国全体を考えた場合、できる限り全員が社会参加をする方が生産効率を上げ、個人の幸せレベルも高くなります。現在、日本では不登校、ひきこもりの問題がよく取り上げられますが、多くの若い人が社会参加していないということは、税金での福祉・医療的なサポートも必要となります。社会参加していない、出来ない人が増えれば増えるほど、社会にとっては大きな負担になります。
当事者自身も本当は社会で活躍されたいと思っている方もいらっしゃると思います。それが実現できない場合、鬱病、不安障害等の精神的なダメージも起こる可能性が高くなります。
教員養成課程からインクルーシブ教育を徹底する
インクルーシブ教育といわれると一番に「障害を持つ学生をどう指導するべきなのか?」という点がフォーカスされますが、カナダの場合、基礎知識は先生になるための教員養成課程で先生になる前にしっかり学びます。
カナダの先生達が一番大事にしていることは、生徒、保護者に対して、なぜ、インクルーシブ教育が大切なのかしっかりと説明することです。インクルーシブ教育が成功するには、教師、学生、保護者、地域、国家が重要性がわかっている必要があります。先生がその必要性や大切さを分かっていないと、子どもにも伝わりません。
先生達も生徒に一人ひとり得意な事、苦手な事があって良い。お互いの違いを尊重しながら協力する大切さを伝えるスキルが大切です。
(photo by westcoast international)
学校教員を支える継続的な学び
カナダの先生は、2カ月に1回、研修日があり、自分が学びたい事を色々なセミナーから選び受講できます。例えば、発達障害の学生のサポートや、技術教育の導入についてなど、トピックは様々です。同じ悩みを持つ先生と交流したり、専門家から指導を受け、先生自身のスキルアップを図り、自信もつけていきます。
さらに、この数年でカナダはインクルーシブ教育の次のステップとして、より個人の才能を伸ばす「Individualized Culliculam」を導入しました。「健常者と障害者という分け方を無くし、個人を伸ばす教育をしていきましょう!」という取り組みです。そういった新しいシステムの導入において多くの説明会やワークショップが教育委員会で行われます。
(photo by Powell river school district)
「個人指導計画書」を軸とした専門家チームのサポート
カナダの場合、幼稚園から高校まで義務教育で、個人指導計画書(Individualized education plan)は、基本的には各教育委員会で作成されます。
教育委員会には、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、ギフテイッド専門カウンセラー、発達障害支援専門カウンセラー、ユースワーカーと呼ばれる生活面の指導をするスタッフなどが常駐しています。各学校に、スクールカウンセラーも複数名が常駐しています。
個人指導計画書は、基本的には教育委員会の専門家がチームで作成し、学期中に何回もそのチームの方々が保護者、先生、エデュケーション・アシスタント(EA)、生徒、ユースワーカーを含めて相談しながらご本人の自己理解と周りでサポートするスタッフの理解を深めます。障害の診断名より、どうやったらその生徒が将来、社会で自立できるようになるか徹底的に色々な方向から対策を練ります。早期発見、早期対応です。
(photo by Inclusive NB community effort)
私が出会った大学生の発達障害、ADHDといった障害をお持ちの方々はみなさん、ご自身の診断名だけでなく、どういった個性を持っていて、どういった支援が必要で、そういった支援があったらどんな事が出来るのか把握していました。自己理解を幼少期から専門家とのチームサポートで、当事者自身もかなりご自身の個性について詳しくなっています。
次号では、カナダのインクルーシブ教育に不可欠なエデュケーション・アシスタント(EA)、アコモデーション、教育環境などについてご紹介します。
Westcoast International Education Consulting in Canada Ltd. 代表。
2004年にカナダ・バンクーバーにカナダ留学を支援するウエストコーストインターナショナルを設立。質の高い英語教育、多文化理解、才能教育に力を入れ、これまでに4,000人以上の留学生をサポート。15年間に渡り、発達障害や視覚障害を持つ留学生もカナダのインクルーシブな教育環境で支援経験あり。
さらに、カナダの教育システムの研究・広報活動として、カナダ州立教育機関の正式な日本窓口としてカナダと日本の教育機関の提携業務や日本の教育者向けのカナダ教育機関見学ツアー、カナダ大使館フェアでの州立教育機関のサポート等を行っている。