災害・復興支援

今もなお見えない不安が続く福島の親の心境とは?-静かにゆっくりと現実化していく子どもへの影響

震災直後の状態のままとなっている福島県・JR富岡駅(いまもなお震災直後の状態のままとなっている福島県・JR富岡駅)

昨年の10月26日に福島県知事選が行われました。これからの福島の重要な舵取りをする知事選でしたが、投票率は45.85%にとどまり、投票権のある160万人の半数以上、約86万人が棄権したのです。

「もはや誰が知事になっても同じ事」と思っていた人も少なくないのではないでしょうか。揺れ動く政治に翻弄された経験をもった県民は、新しい知事に期待感はそれほどでもなく、精神的に疲れ果てている。本来は強いリーダーが求められるところですが、これが現状です。

次の3月11日で東日本大震災から4年が経ちます。2014年12月26日付で復興庁が公表しているデータでは、福島県では75,440人の方が今もなお避難されており、そのうち45,934人の方が県外へ避難しています。自主避難者などを含めればその数はもっと多いはずです。

復興に向けた動きは、どこの地域でも決して早くありませんが、中でも今もなお切迫した福島第一原発事故の対応をしている福島県の状況は明らかに他の地域とは異なります。

今回の記事では、震災から4年を目前にした福島の子ども達や保護者の声をお伝えしたいと思います。主に原発事故直後に立ち上げた長期宿泊体験プログラム「ふくしまキッズ」の活動に参加経験のある子の親に現在の心境を聞きました。

行き場のない除染廃棄物が町のいたるところに積み上げられている(行き場のない除染廃棄物が町のいたるところに積み上げられている)

我が子に小児甲状腺がんが見つかるかしれないという不安

1986年のチェルノブイリ原発事故では4~5年後に子どもの甲状腺がんが急増しました。

2014年12月には、甲状腺検査で事故直後の1巡目の検査では「異常なし」とされた子ども4人が、4月から始まった2巡目の検査で甲状腺がんの疑いと診断されたと報じられました。

1巡目で、がんの診断が「確定」した子どもは2014年8月公表時の57人から27人増え84人に、がんの「疑い」は24人(8月時点で46人)になったことも新たに判明したということでした。

事故直後と同様に、放射線に対する不安は新たに高まっています。A1、A2、B判定など、診断結果を聞かされ、「それは何が原因なんだろうか」「原発事故の影響と、遺伝での発症の違いはわかるのだろうか」と、苦悩する親の気持ちは計り知れないのです。

「震災からもうすぐ4年が経つ今、放射能に関連する不安は尽きません。本当にここで生活をしていて良いのか?後悔することにならないだろうか?この葛藤は今も消えない。福島に暮らす。という事は、目に見えない何かの重さを背負い、そして復興と現実、賠償と妬み、言葉と不信、沢山の矛盾を抱えること。そんな感じがする4年目です。飲食物の不安、食品の産地、水の購入、給食など本来気にする事がないものに気を使っている。気分がどうしてもすっきりせず、モヤモヤ感がつねにある。これは、目に見えない重さと矛盾なんだろうな。」(中学1年生の父、Nさん/南相馬市)

日頃から仲良く付き合っているママ友でも、夫婦間でも、放射能への意識・認識・知識の差はかなりあります。目に見えない壁のようなものがあり、その話になると、とても神経をつかって会話をしなければならずとてもつかれます。結果、放射能や原発問題について、話さなくなります。話さなくなるので、当然、忘れていくのか、目をふさいでいるのか。でも、目を背けることが、悪いことだとは思わないです。私たちは、日常をこの福島で生きていくのだから、毎日毎日を神経すり減らしては生きていけない。とくに、子どもを育てるお母さんは、笑っていられる環境がないと、すぐ子どもに影響が出ると思います。」(小学6年生・3年生の母、Rさん/三春町)

「放射能問題から目を背けている人達が多くなりましたよね。だから、放射能問題を気にする人達が異常者のような感覚でとらえられるような気がします。それが子供たちにもしっかり伝わっていて、人と違う事をすると意地悪されるのかもしれませんね。 私の願い。これからはかわいそうな福島の子供たちと言う目では見てほしくないなと思うこと。」(高校2年生・中学3年生・小学6年生・3歳の母、Hさん/郡山市)

「ふくしまキッズ」の参加者説明会の様子(「ふくしまキッズ」の参加者説明会の様子。長期休みの間だけでも放射能の影響を受けない環境で子どもを過ごさせたいと今もなお多くの家庭が集まっている。)

運動能力・体力の低下と高まる肥満傾向

影響は、甲状腺がんのような原発事故による直接的なものだけではありません。事故直後から屋外活動が制限されたことで、体力・運動能力が著しく低下し、子どもの心身の成長にも間接的な影響を及ぼしています。

文部科学省が公表した2014度の全国体力・運動能力、運動習慣等調査(全国体力テスト)によると、福島県は小5の男子が前回(10年度)の32位から43位、女子が19位から27位、中学生も同様に順位を下げています。

12年末に公表した学校保健統計調査速報(12年4~6月)で肥満の傾向がある子供の割合は、福島県が5~17歳のうち7つの年齢層で全国最多でした。

福島市の鳥川保育園の園児調査では、土踏まずのくぼみがない扁平(へんぺい)足の幼児の割合を調べたところ、震災前の2.5倍に増加したという結果も出ています。

「室内で生活する事に親も子も慣れてしまった。集団登校がなくなり、通学が車となった。短い距離でも歩きや自転車を使わないのが普通となってしまった。」(Nさん/南相馬市)

「まず、歩いて登下校している子どもが少ないです。もちろん、事故後1年位は放射能を意識してかもしれませんが1キロ2キロの距離を送迎する保護者は多いです。歩くことは体力の基本ですから。子どもの体力が落ちているのは、そういうことも一因があるのでしょうか。・・・県内のあちこちで車登校が増えたのは事実です。」(Rさん/三春町)

誰も経験したことのない、低線量被爆下での生活をしている中で、今後、子ども達が独り立ちし、大学進学、また就職、そして結婚を考える時に差別を受けるのではないかという不安をもっている親は少なくありません。

福島県内で報道されている内容と首都圏をはじめ他の地域で報道されている内容にも違いがあり、現在進行形の震災復興や原発事故の話が風化していく早さには驚かされます。

福島の子どもや親が今、求めていることやその願いは普通の環境、普通の安心、普通の町にある「普通の暮らし」なのです。

Author:進士徹
NPO法人あぶくまエヌエスネット理事長。体験民宿「WARERA元気倶楽部」運営。農地を取得し、今や農家でもある。1956年、東京都品川区生まれ。駒澤大学文学部社会学科卒業。社会福祉専攻。社会福祉法人「ねむの木学園」の生活指導員として勤務後、31歳で福島県鮫川村に移住。ふるさと留学施設を同時に開設。38歳で「土、自然から学び共に生きよう」をテーマに自然体験学校を主宰。子どもから大人までを対象に農山村の生活体験をプログラム化し、地域と連携して都市との交流事業に取り組む。文部科学省の委嘱事業「子ども長期自然体験村」などを数多く展開し、次世代に農山村の伝統文化のバトンタッチを、と提唱。講演、執筆、ラジオ・テレビ出演、人材育成など活動の幅は広い。
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