子どもにどんな幼稚園でどんな幼児教育を受けさせたいですか?これまでの記事では、「自由遊び」の時間の重要性や行事の多さについて述べていきました。
今回は、「学級の適切な子どもの人数」について述べていきます。
チェックポイント3:一学級の子どもの人数が多すぎないかどうか?
幼稚園における一学級の人数は、結論から申し上げると「多すぎないほうが良い」と考えます。未就学児に関しては25人前後、多くても30人以内が適切だと思います。もちろん、年齢により適切な人数は変わってきますが、ここでは主に4~5歳児について述べていきたいと思います。
国で定められている幼稚園の一学級の人数は?
幼稚園の設置にあたって根拠となる省令があります。それが「幼稚園設置基準」です。
「幼稚園設置基準」は、学校教育法の第3条の規定に基づき、幼稚園を設置するのに必要な最低の基準を定めている文部科学省の省令です。この「幼稚園設置基準」の「第二章編成」の「第三条」には、「一学級の幼児数は、35人以下を原則とする」と示されています。国の基準としては「35人」が上限のラインとなっています。
しかし、私が問題だと考えるのは、「この上限人数は、本当に守られているのか?」という点と、「35人という人数が本当に適切なのか?」という点です。
幼稚園ごとに異なる一学級の人数
国の基準では「35人」とされている一学級の人数ですが、これがどこまで遵守されているのかは疑問です。自分がこれまで勤務した園や、研修等で訪れた園だけを見ても、園によって一学級の人数は大きく異なっていました。1学級の人数が20人以下の場合もあれば、40人の園もありました。
設置基準では「35人」となっているものの、それはあくまで基準であり、それを遵守するかどうかは、各園や自治体に任せられているのが現状です。各園の規模や保育室の数、地域住民のニーズなど様々な事情があると思いますが、「35人」という国の基準を超えて学級を編成するのは、やはり問題があると感じます。
人数が多すぎると丁寧な保育ができない
私は、40人クラスの担任をしたことがあります。40人もいると、子ども一人ひとりのことを丁寧に見て関わっていくのは、非常に困難です。
さらに、第一回目の記事で述べた「自由遊び」の時間も確保するとなるとさらに大変です。まだ同じ教室に40人がいて、集団指導をしていく形なら可能だったかもしれませんが、自由遊びの時間は子どもが色々な場所で遊ぶので、それぞれの場所を行ったり来たりして、遊びに関わる必要があります。
しかし、それだけの人数がいると、丁寧な関わりや援助はできません。安全に遊べているかどうかを見るのと、トラブルの仲裁に入るだけで精一杯でした。もちろん、経験も浅かったのと、努力不足だった点もあると思いますが、子ども一人ひとりを丁寧に見ることができる数に、限界はあると思います。
「子どもが多い方が教師に頼らなくなるから子どもが育つ」という意見も聞いたことがありますが、それはよほど経験を重ねていて、熟練した教師しか無理でしょう。
他の国と比較した際の日本の一学級の人数
もう一つの「35人という人数が本当に適切なのか?」という点について考えるにあたって、諸外国と比べてみたいと思います。文部科学省から出ている「学級規模の基準と実際」という資料を見てみます。これは主に小学校以降の教育段階の比較になりますが、学級編成の基準の人数は、諸外国と比べると日本は多いです。
小学1年生~3年生においては、多くても30人か、それよりも少ない国が多いようです。一学級の上限40人という人数は、世界的に見ても稀です。現在は、小学一年生のみ35人という基準となっていますが、それよりも年齢の小さい幼稚園も同じ35人というのは、やはり無理があるように思います。
もちろん、副担任がいたり、特別な配慮を要する子どもの対応のため、加配の先生が学級に入ったりする場合もあり、教師一人に対する子どもの人数としてはもう少し下がるかもしれません。しかし、私のこれまでの経験の中では、複数教師がいてもあくまで責任は担任にあり、担任が見なければならない子どもの範囲は変わりませんでした。
異なる幼稚園と保育所の人数基準
ここで、保育所と比較をしてみます。保育所の設置の根拠となっているのは「児童福祉施設最低基準」という省令ですが、それによると、保育所では「0歳児は児童3人につき1人、1~2歳児は児童6人につき1人、3歳児は20人につき1人、4~5歳児は30人につき1人」という基準になっています。一日の保育時間に違いはあるものの、「同じ年齢の子どもを預かっているのに、なぜ、保育所と基準が違うのだろう?」と思います。
3歳児から入園できる幼稚園も増えてきていますが、「幼稚園設置基準」だと35人定員なので、極端に言ってしまうと3歳児でも35人までは入れることになります。保育所の3歳児は20人、幼稚園の3歳児は35人と、同じ3歳児なのに15人もの差が生まれます。この辺りの基準は、やはり今後揃えていくべきではないかと考えます。
子ども一人一人の多様性を尊重するためには?
同じような環境で育ち、同じような考えを持つ子どもだけではなく、様々な背景をもち、異なる考え方や価値観をもつ子どもと共に過ごし、関わり合っていくことが、子どもの成長過程においてとても重要だと思います。
しかし、教師側として、子どもの人数が多すぎると、子どもの多様性を尊重しながら保育をしていくことがとても難しいです。子どもをコントロールし、画一的な保育をすることしかできなくなってしまいます。「先生にわが子の成長をよく見てほしい」と思っている保護者の方は、一学級の人数は、一つの大切なチェックポイントになると思います。
次回の記事では、幼稚園に見学に行った際のチェックポイントについて、お伝えしていきたいと思います。
Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。