少年犯罪

なぜ、困窮する若者は「福祉」ではなく「闇バイト」を選ぶのか?-危険だとわかっていても「闇バイト」に手を出してしまう3つの理由

暗闇でスマートホンを操作

「高額」「即日即金」「ホワイト案件」等の「楽で、簡単、高収入」であることを強調する投稿を見つけて応募した若者が特殊詐欺の加担を強要される——。

このような「闇バイト」を発端とした犯罪への加担が社会問題となっています。中には経済的困窮を理由に犯行に及んだ若者がいたことが明らかになっています。

どんな理由であれ犯罪行為自体は許されることではありません。ですが、なぜ、経済的に追い詰められた彼らは、本来、経済的な問題に対する手立てとなりえる社会保障制度ではなく、危険な「闇バイト」を選んでしまうのでしょうか。

本稿ではその対比に着目し、社会保障制度のアクセスにおける問題を整理していきたいと思います。

特殊詐欺の背景要因とは

令和3年版犯罪白書特集「詐欺事犯者の実態と処遇」の分析によると、特殊詐欺の背景として、経済的な問題が明らかになっています。

特に現金やキャッシュカードを受け取りに行く「受け子」や、ATMで引き出しを行う「出し子」の実に70.7%が「無職・収入減」を抱えており、26.8%に借金問題があったことから、経済的な切迫が犯罪への重大な引き金となっていることが見て取れます。

電話で高齢者らをだまし、現金をだまし取る「架け子」と呼ばれる役割でも、49.1%が「無職・収入減」の状態にあり、18.9%が借金を抱えていました。「主犯・指示役」でも37.5%が「無職・収入減」の状況にあります。

「借金」の問題も「犯行準備役」で17.9%、「主犯・指示役」で12.5%と看過できない水準となっています。これらの数字は、収入の途絶や借金という経済的困窮が、犯罪への参加を促す主要因となっていることを示唆しています。

確かに「不良交友」も主要な要因として挙げられていますが(「主犯・指示役」68.8%、「架け子」58.5%、「犯行準備役」67.9%)、この背景にも経済的な問題が潜んでいる可能性は否定できません。

「申請主義」という高いハードル

日本の社会保障制度の大きな特徴の一つが「申請主義」です。

申請主義とは一言でいうなら、公的な制度やサービスを利用する際に、窓口に自ら足を運び、「利用したいので申請します」と申し出なければならないということです。以下のような深刻な障壁により、支援を必要とする人々が申請にたどり着きにくい現状があります。

生活保護申請書のイメージ

1.制度の存在自体を知らない、あるいは情報にアクセスする手段を持たない

例:高校中退後、非正規雇用を転々とする若者が、各種経済的支援の存在を知らないまま、SNSで目にする「闇バイト」の高収入広告に惹かれ、危険な仕事へと流されてしまう。

2.複雑な申請手続きに対応する精神的、時間的余裕がない

例:複数のアルバイトを掛け持ちしながら専門学校や大学へ通う若者が、ギリギリの生活費でストレスを抱える中、平日昼間しか対応していない役所への来訪や、申請に必要な書類を揃えることができず、手続きそのものを諦めてしまう。

3.「誰かの世話になっている」ことを周囲に知られたくない心理的なハードル

例:経済的困窮を周囲に知られたくない若者が、役所の窓口での申請により、その事実が知人に伝わることを恐れ、制度利用を避け、プライバシーが守られやすい「闇バイト」のような選択肢を取ってしまう。

これらの申請主義がもたらす課題が、経済的困窮状態にある若者を「闇バイト」へと向かわせる要因の一つになっていると考えられます。

社会保障制度よりも、若者が「闇バイト」を選ぶ理由

さらに、たとえ制度の存在を知り、申請する意思があったとしても、社会保障制度には「闇バイト」と比べて大きな違いがあります。

1.支払いの「即時性」

最も重要な違いは、現金を受け取るまでの時間です。社会保障制度は、申請から実際の給付まで数週間かかるのが一般的です。

一方、闇バイトは「即日払い」「今日働いて今日お金がもらえる」という謳い文句で若者にアプローチします。家賃の支払いに追われていたり、借金の返済を迫られていたりする人にとって、この「待てない」という状況が、危険性を認識しながらも闇バイトに手を出してしまう大きな要因となっていると考えられます。

2.手続きの「簡便性」

社会保障制度を利用するためには、申請書類の記入や各種証明書の準備、役所の窓口に足を運ぶなどの手続きや時間が必要です。これに対し闇バイトは、「スマホだけで完結」「難しい手続きは一切なし」という手軽さを売りにします。

3.情報への「接近性」

闇バイトの勧誘は、若者が日常的に使用するSNSを通じて行われます。「#高収入」「#副業」といったハッシュタグで情報を拡散し、困窮をほのめかす投稿をした若者に対して直接メッセージを送るなど、若者のデジタル生活圏に入り込んだ形で接近してきます。

広まりつつあるアウトリーチと、その限界

この状況に対し、自治体やNPOなどの支援団体は、支援を必要とする人々を積極的に見つけ出し、働きかけを行う「アウトリーチ」という取り組みを展開しています。これは、「申請を待つ」という姿勢から一歩踏み出した、より能動的なアプローチです。

具体的な取り組みは多岐にわたります。自治体においては、公共料金の支払い遅延情報などを活用した制度利用が必要であろう人の把握を進めているところもあります。

加えて、NPOなどの支援団体においては、若者世代の生活実態に合わせ、SNSを活用した情報発信を行ったり、インターネット広告を通じて支援情報を届けたりする試みが増えています。これは「接近性」を高めた施策といえます。具体的に若者とつながる手段も、電話やメールではなく、LINEやSNSのメッセージ機能などを用いて、「簡便性」を高めています。

しかし、こうしたアウトリーチの取り組みに限界が存在します。つながったのち、実際の社会保障制度の給付(現金など)までにタイムラグが生じる「即時性の欠如」が、切迫した状況にある人々への対応を難しくしています。

つまり、アウトリーチは支援を必要とする人々とつながるまでは効果を発揮するものの、社会保障制度自体が持つ根本的な課題を解決することはできないのです。

スマートフォンで夜ふかしする男性

この問題は、単なる啓発や教育だけでは解決できません。必要なのは、申請主義を超えた積極的な支援のあり方と、社会保障制度自体の「即時性」を高める施策です。

オンライン相談の普及や支援機関の創意工夫だけでは解決できない、制度政策レベルでの施策が必要です。次回は、こうした課題を解決するための具体的な施策について考えます。

Author:横山北斗
NPO法人Social Change Agency・代表理事。ポスト申請主義を考える会代表。
社会福祉士、社会福祉学修士。武蔵野大学人間科学部社会福祉学科非常勤講師。
神奈川県立保健福祉大学卒業後、医療機関にて患者家族への相談援助業務に従事後、NPO法人を設立。
内閣府 孤独・孤立対策担当室HP企画委員会(2021〜現在) こども家庭庁幼児期までのこどもの育ち部会委員(2023〜現在) 厚生労働省 社会保障教育の推進に関する検討会委員(2023)著書に『15歳からの社会保障』(日本評論社)

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