現在、日本では不登校やひきこもりの方が増加傾向にあります。少子化問題も踏まえ、一人でも多くの若者が、自らの才能をいかして社会で活躍して頂けるような対策が急務です。
前編では、不登校やひきこもり、高校中退者の自立支援の一つの方法として、カナダ留学といった海外生活を通じて新しい価値観に出会う効果についてお伝えしました。
今回の記事では、カナダがインクルーシブ教育をどのように実践し、人に優しい社会作りを実現しているのか?また、具体的にどのような方法で行っているのかお伝えします。
カナダのインクルーシブ教育の特徴とは?
カナダと日本の大きな違いは、競争社会と共生社会であることです。日本からの不登校やひきこもり、高校中退者は、どうしても他人と自分を比べて、自分が出来てないことばかりに気がいってしまい、焦るけれど動けない落ち込みやすい状態になりやすいと言えます。
カナダのインクルーシブ教育の特徴は、「人と比べないで良い、好きなことで才能を伸ばせば良い」という理念が浸透しています。それがそのままカナダの社会常識となって反映されています。
実際、カナダ留学をして回復した6年間ひきこもっていた利用者さんは、この教育理念に出会うことでまずは心が楽になったそうです。今年、日本でも少しずつカナダ式の支援を日本ではじめましたが、この理念を最初に利用者様にお伝えします。
カナダのインクルーシブ教育というのは、ただ障害者と健常者が同じクラスで勉強するということだけではありません。
今、カナダが目指しているのは、障害者や健常者といった枠もなくして、個人の才能を伸ばし、お互いの違いを尊重してどうやって共生していくのが良いか学ぶことが出来る義務教育の実現です。そういった教育を受けると、自己肯定感や自尊心、協調性、相互理解を同時に向上させることが出来ます。
もし、障害を持った方と一緒に仕事をすることになったら
社会の発展のためには、社会を担っていく人材育成がとても大切です。個人の能力を最大限に活かして、人々がお互いの強みをもって協力することで社会を発展させることが出来ると思います。次に、具体的に相互理解や個人の才能を伸ばすやり方や、具体例を紹介します。
まずみなさんに質問です。ある日いきなり学習障害がある方、視覚障害をお持ちの方と一緒に仕事をすることになったとします。みなさんは、そういった方々にどんなお仕事をお願いしたら良いかすぐわかりますか?
もちろん、個人差はあると思いますが、きっとそういった方々と交流がある方は、すぐにわかると思います。障害をお持ちの方とあまり交流したことがない場合、どうしたら良いのかちょっと分からないという方もいらっしゃるかと思います。
学習障害者の支援に関係する参考例を2つお伝えします。まずは、カナダのパウエルリバーの教育委員会で教育者用の研修を受けていた日本人の大学生の方から聞いた参考例をお話します。
(ウエストコーストインターナショナル:視覚障害の学生が1人で活動するために、校舎や交通機関を一緒にまわって練習をする大学のオリエンテーションでの様子)
「自分にとって必要な勉強をしている」という共通認識
ある日、学習障害を持った学生さんに先生が「アコモデーション」といって、その学生が出来る範囲の宿題や興味のある一般の宿題とは違う課題を出していたそうです。
他のカナダ人の生徒にそのことについてどう思うか質問したところ、生徒の口から「その子にとって必要な勉強をしているからそれはそれで良い。私達は私達の課題があるからそれをやれば良い。」という返事が返ってきたそうです。
アコモデーションを受けている学生さんも、そうでない学生さんもみんな「自分にとって必要な勉強をしている」という共通認識があり、それが日常茶飯事で行われるのでそれがカナダの常識になっています。
次に私の経験もお伝えします。まず、学習障害をお持ちの学生の支援では、臨床心理士の先生のご協力を頂き、アセスメントを通じて、指示を出す時の資料の文字を18フォント以上、行間を2行以上空けると長文でも理解できることが分かりました。
また、その学生さんがデザインの能力が高いことも分かったので、その能力も活かしてできるだけ文字の説明ではなく、一緒に手先を使うプロジェクト、動画の編集や写真の加工をやってもらいました。とても美的センスのある学生さんでしたし、ご本人も好きなことだったのでとても上手で自信をつけられたと思います。
その学生さんがそういったプロジェクトを楽しんでいると、今度は徐々の他の学生さんも写真撮影や動画についてその学生さんに質問したり、イベントの時の撮影をお願いしたりするようになりました。一般の学生さんはその方が学習障害を持っているとはわからなかったと思います。
日本での成績はあまり良くなく、対人恐怖だった学生さんも今では、たくさんお友達が出来て、日本でしっかりお仕事に就いています。
視覚障害の学生さんに支援を手伝ってもらった経験
視覚障害の学生さんとの交流については、どちらかというと私が支援したというより支援を手伝ってもらった経験があります。
2004年会社を立ち上げて、すぐに久美さんという視覚障害の学生様のサポートをさせて頂くことがありました。私も視覚障害をお持ちの方のサポートをさせて頂くのは初めてで、道案内をするのも、話しかけるのも随分ぎこちなかったと思います。
1カ月、半年、1年と過ぎていくうちに、彼女がずば抜けた能力を持っていることが分かりました。記憶力、スケジュール管理、整理整頓力は目を見張るものがあり、私がその年に行った教育者向けのツアーをコーディネートするのも手伝ってもらいました。視覚障害の方のサポートをしながら、視覚障害の方からもたくさん学ぶことがあります。お互いにとって、素晴らしい学びがあります。
(ウエストコーストインターナショナル:野外教育のプログラムで、視覚障害をもっている学生さんのサポートを行っている様子)
そして、なにより不登校、ひきこもり経験者の支援がとても上手だったのです。目が見えないからっていって、なにげなく不登校経験者で対人が苦手な学生を誘ってよく街に繰り出して下さいました。戻ってくると、お手伝いしたその学生さんは自分が久美さんの役に立てたということで、すごい笑顔で戻ってきました。自信にもなってました。
彼女との出会いから、私が学んだことは、その人本来の魅力や能力を分かることで、その人の長所や強みをいかして一緒にお仕事をさせて頂くのは楽しいということでした。そして、久美さんも楽しかったって言ってくださいました。今でも大切な親友です。
個人の才能を伸ばし、お互いの違いを尊重して協力すること
日本の教育でもきっと目指していることは似ていると思いますが、もう少し社会全体が「全員に社会で成功してもらいたい!」という目標と、個人の才能を伸ばす事、お互いの違いを尊重し協力する事の大切さがもう少し浸透したらいいのかなと思います。
カナダ留学は費用的な事もあり誰にでもということではないのですが、これまで15年間カナダで日本人の不登校、ひきこもり、高校中退者の支援を通じて気づいたことは、カナダ社会の取り組みの一部は日本でも実施可能ということです。
研究のために、少しずつ日本でカナダ式の支援を始めていますが、かなり効果があります。今、10年引きこもっている複数名のご支援を日本でさせて頂いてますが、少しずつ活動時間も、笑顔も増えてきました。
カナダのインクルーシブ教育の理念をご紹介しながら、今後より安価に、誰でも参加できるようなプログラムを日本で実施し、人材育成を通じて社会貢献出来たらと思っております。
Westcoast International Education Consulting in Canada Ltd. 代表。
2004年にカナダ・バンクーバーにカナダ留学を支援するウエストコーストインターナショナルを設立。質の高い英語教育、多文化理解、才能教育に力を入れ、これまでに4,000人以上の留学生をサポート。15年間に渡り、発達障害や視覚障害を持つ留学生もカナダのインクルーシブな教育環境で支援経験あり。
さらに、カナダの教育システムの研究・広報活動として、カナダ州立教育機関の正式な日本窓口としてカナダと日本の教育機関の提携業務や日本の教育者向けのカナダ教育機関見学ツアー、カナダ大使館フェアでの州立教育機関のサポート等を行っている。