自殺総合対策推進センター(JSCC)によれば、夏休み明けの9月1日前後が中学生・高校生の自殺が最も多くなる時期ということで、夏休み終盤には、多くの報道がされるようになりました。
長期休みや連休明けに、学校生活に戻ることを嫌だと思う子どもたちは少なくありません。不登校やひきこもり、高校中退などの選択をする子どもたちも多くいます。文部科学省の調査によれば、平成29年度の小中学生の不登校児童生徒数は14万人を超え、過去最多を記録しています。
学校生活に違和感を覚えた子どもたちの次のステージとして、環境を一新する海外留学という選択肢もあります。海外留学というと一般的には「ハードルが高く、意識が高い人が行くもの」とまだまだ思われているかもしれません。実際は、そんなことも今や昔なのかもしれません。環境を新たに変えることで飛躍的に成長していく若者がたくさんいます。
2004年から不登校やひきこもり、高校中退などを経験した若者のための留学プログラム「サンシャインプログラム」を行っている「ウエストコースト・インターナショナル」(以下、WIE)というカナダ留学専門のエージェントがあります。
「サンシャインプログラム」は、「その人に問題があるのではなく、当人を取り囲む現状の社会システムや社会環境に問題がある」という考えに基づいて行われています。カナダへ留学し、体験学習や野外教育、異文化交流を通じて、参加者の価値観を広げ、過去の自分自身と向き合ったうえで、自分の強み(才能)を発見し伸ばしていくことで、学校環境や社会環境への復帰や自立を支援しています。
代表の細越美和氏は、自身も高校での挫折経験からこのプログラムをスタートしています。これまで多くの若者たちをサポートしてきた細越氏から日本社会で行き詰まりを感じた若者たちが海外留学することの価値をお伺いしました。
(WIEでは、語学の勉強だけではなく、様々な体験プログラムなども用意している)
海外留学を通じて自信を取り戻す
私は、2004年からカナダで日本の不登校やひきこもり、高校中退者の留学支援をやっています。うつ病、起立性障害、発達障害、学習障害、受験の失敗、いじめ経験者、被虐待児などなど色々な診断名や経歴をお持ちの方です。
私が今まで出会ってきた方々に共通して言えることは、みなさんダイアモンドの原石のような素晴らしい人材であることです。それを磨くお手伝いをするのが私の仕事だと思っています。私が診断名や経歴より大事にしている事は、その学生さんの「孤独を癒やすこと」「才能を伸ばすこと」そして、「社会とつながりを取り戻すこと」です。
海外留学する前は、自信をなくして「死にたいです」って言っていた学生さんが、少しずつ自信をつけて、立派に成長していく姿を見るのは、まるで映画を観るような感動があります。
「生きる道からおっこちた」「つまらない人生を歩むしかない」って思っていたある学生さんは、留学中に段々と自分の好きなことに出会い、大学に行き、今では立派にカナダの建築事務所で仕事をしています。「今は生きてるって実感できる」って言ってます。
(WIEには、多彩な専門スタッフがおり、独自の野外教育プログラムなども開発している)
どうして私がこのお仕事をしているのかというと、私自身も小・中学校と優等生、高校で進学校に入学できたものの、得意な科目とやりたいことが合わなくて、成績が落ちて自信を無くし、不登校になる寸前だったからです。もし、私自身もカナダに行ってなかったら、ひきこもりになっていたと思います。
だから少しでも私と同じような自信をなくした方々の役に立つことが出来たらと思い、このお仕事をしています。今回は、そんな私の体験談も踏まえながら大事なテーマについて、お伝えしていきたいと思います。
英語が一番苦手だった私がカナダ留学へ
英語が苦手だった私がカナダ留学を決めたのは高校の時。
英語が一番苦手だった私の留学は先生全員に反対されましたが、後押ししてくれたのは私の母でした。「ダメだったら帰ってきて良いよ!」って言ってくれたのが一番有り難かったです。「どうして私をカナダに送ったの?っ」て母に質問したら、笑顔がなくなったからだよって言ってました。
英語が苦手なのに留学するのは、とにかく不安しかなかったです。「ダメだったらどうしよう?」という不安がいつも自分をつきまといます。最初は英語のクラスについていけないし、毎日居残り。でも先生がすごく優しくて私のために毎日1時間の特別授業をやってくれました。そして、「もう少し勉強したい」と思っていた時に家庭教師も紹介してくれました。
(大自然に囲まれたカナダ。美しい風景も魅力の一つ。)
ご紹介を頂いた先生は、サラ先生でベトナムからの孤児で、カナダの家族に養子縁組で育てられました。そんな彼女は、両手両足が不自由で両方に杖をついて足をひきずって歩いていました。とにかく細くて小さい方で、笑顔がとても素敵な女性でした。
英語の先生としては丁寧でしたが、厳しい先生でした。夜遅くなっても、宿題のやり方はしっかり教えてくれますが、手伝ってはくれませんでした。夜中2時過ぎてちょっとぐらい手伝ってくれてもなんて思いましたが、「アナタなら出来るからやってごらん」の一言でした。
(細越氏のカナダ留学当時の様子。右下は、サラ先生)
人と比べるのではなく、自分の持っている才能を伸ばしたい
ある日、冬の寒い雪が降っている時、先生の家にお邪魔して勉強していて、お菓子を買いに近くのコンビニに行こうとした時、道路が凍っていて滑りやすくなってました。
思わず私が先生に「車椅子に乗ったら押すよ!」って伝えると、笑顔でこう答えました。
「アナタは、どうやって私がこの体重を維持しているのかわかる?この体重なら私は杖をつくけど、自分の足で歩けるからなんだよ!」と。
時に雪で滑って転びます。でも彼女は自分の力で力強く立ち上がって堂々としていました。
サラ先生は、自分が持っている才能を存分に活かして生きることを満喫していました。英語の先生の他に、手話の通訳や、パラリンピックの水泳の選手でした。とにかく彼女の生きる姿はものすごくカッコよくて、本当に素敵な先生でした。英語だけでない、生きる上で大切なことを学ばせてもらったと思います。
(WIEでは、視覚障害の学生の留学もサポートしている。写真はスキーを行った時の様子)
「新しい価値観と出会う」ということ
彼女との出会いから私の考え方、価値観は変わりました。
私も人と比べるのではなく、自分の持っている才能を伸ばしたいと思うようになりました。それから自分と向き合うことを楽しめるようになったと思います。英語が苦手だった私がカレッジもトップ10%で卒業、バレーボールもやっていて州の大会で2位。スポーツと勉強の両立が出来る大学生に送られるオンタリオ州の賞も頂戴しました。
もしかしたら、この「新しい価値観に出会う」ということが不登校、ひきこもり経験者の自立支援で一番効果がある事かもしれません。きっとカナダ留学をしている学生のみなさんは、私みたいに何か新しい価値観を学ぶ出会いがあるはずです。一人ひとりそれぞれに自分と向き合って取り組んでいます。
サラ先生の生き方って素晴らしいと思いますし、自分の持っている能力を最大限に伸ばして人生を満喫する姿ってカッコいいと思います。そして、それを実現できるのがカナダのインクルーシブ教育と社会です。
個人の才能ってどうやって伸ばしていくのが大切か、インクルーシブ教育がどうして人に優しい社会作りに役立つのか今後の記事でお伝えします。
Westcoast International Education Consulting in Canada Ltd. 代表。
2004年にカナダ・バンクーバーにカナダ留学を支援するウエストコーストインターナショナルを設立。質の高い英語教育、多文化理解、才能教育に力を入れ、これまでに4,000人以上の留学生をサポート。15年間に渡り、発達障害や視覚障害を持つ留学生もカナダのインクルーシブな教育環境で支援経験あり。
さらに、カナダの教育システムの研究・広報活動として、カナダ州立教育機関の正式な日本窓口としてカナダと日本の教育機関の提携業務や日本の教育者向けのカナダ教育機関見学ツアー、カナダ大使館フェアでの州立教育機関のサポート等を行っている。