アウトリーチ

行く当てもなく街を彷徨う「難民高校生」の実態を学べる「夜の街歩きスタディーツアー」②

行く当てもなく街を彷徨う「難民高校生」の実態を学べる「夜の街歩きスタディーツアー」

本ウェブマガジン2014年7月号に掲載された『家庭や学校に居場所を失くし、孤立する「難民高校生」-難民生活から売春・性的搾取や違法労働などの犯罪へ』の記事を受けて、女子高校生サポートセンターColaboが主催する「夜の街歩きスタディーツアー」に参加してみた。

実際に街を歩きながら「難民高校生」の実態を学ぶことができるというこのツアー、果たしてどんな実態を目の当たりにすることになるのか。ツアーの様子を2回に渡ってお送りするシリーズ第2回目。ツアーに参加した本ウェブマガジン編集部・石井のレポートです。

「JKリフレ」から「JKお散歩」「JKカフェ」へ

歌舞伎町の街歩きでは、普通の女子高生をも危険な仕事に巻き込む温床となるものが街の至るところにあるということを学んだが、その後移動した先の秋葉原では、女子高生が堂々と商品化されている状況を見ることになった。

秋葉原と言えばメイドカフェやコスプレ喫茶などがメジャーであると思っていたが、今は女子高生が運営する「JKカフェ」というものも存在するらしい。名前の通り、女子高生をウリにしたカフェである。それだけ聞けば怪しくもなんともないようにも思えるが、そこにも女子高生を危険に晒している裏事情がある。

行く当てもなく街を彷徨う「難民高校生」の実態を学べる「夜の街歩きスタディーツアー」

以前「JKリフレ」という、女子高生がマッサージをしてくれることをウリにしたお店が流行った。しかし、それは犯罪の温床にもなっているとして何店舗も大量に摘発されたそう。その後、「JKリフレ」として営業できなくなったお店は、「JKお散歩」などの業態を始めたという。

「JKお散歩」はその名の通り、女子高生とお散歩ができるというもの。30分の短時間コースから長時間のコースもあるらしく、どこかの喫茶店に入ってお話 するくらいで済むこともあれば、色んな場所へ「お散歩」へ行き、「お散歩」中はどんな場所へ入ろうとも客の自由だというシステム。今までいわゆる「おじさん」と女子高生の2人組が歩いているのを目にしたこともあり、「ん?どういう関係なんだろう?」と不思議に思うくらいだったが、それはまさしく「お散歩中」だったようだ。

店舗を持たずにできるので店側にとってはリスクが少なく、お散歩している間は客と2人きりになるので、女子高生にとってはリスクが多く危険な仕事となる。お散歩中に被害に合う女子高生の数も増えてきて、こちらも摘発の対象となってきた。

そこで「JKカフェ」というものが増えてきたとのこと。「JKカフェ」には女子高生を目当てにした客が集まるため、その中で「オプション」として「お散歩」などを販売しているのだという。

ただ、「お散歩」などのオプションをメニュー表などに書いてしまうと摘発の対象となるため、女子高生たちが客と直接、接して秘密裏に販売するのだとか。危険の可能性があるものを自ら販売しているのは一体どういう仕組みなんだろう?と思うが、それについては少女たちを巧みにマネジメントする者の存在があるら しい。

スカウトは、女子高生たちの気持ちを知って巧みに仕事に誘うのと同じように、働く女子高生のモチベーションをアップさせる方法も知っているようだ。

例えば、「新しくチラシをつくりたいんだけどどんなデザインがいいと思う?」や「どう変えたらもっとお客さん集まるかな?」などを聞いて、実際に女子高生が出した案を採用し、「いい反応だよ、ありがとう」などのやり取りをして「やりがい」を演出したりするらしい。また、オプション分は成果報酬のようで、割の良い額が稼げることも理由のひとつとしてあるそうだ。

こういった「やりがい」を演出たりインセンティブを出してモチベーションをアップさせる手法はなにもこの業界に限ったことではなく、一般的な企業の人材育成のセオリーとしてもある。一般的なビジネスと同じようにして女子高生のモチベーションを上げているということに、組織的な動きが見えて怖いと思う。この 牙城を崩すには、彼らよりも強く洗練された組織的な動きが必要なんじゃないだろうか。

女子高生が堂々と「商品化」されている光景とは

仁藤さんからこういったレクチャーを受けたところで、とある通りに案内された。 大通りから一本入ったところで、メイドカフェやコスプレ喫茶などが並び、私も今まで普通に通り過ぎていた通りだった。

そこでは、メイドカフェなどの客引きと同じように「JKカフェ」で働く女子高生も並んで客引きを行っていた。女子高生の制服を着ていたので一目瞭然だった。

今まで制服を着た客引きは「コスプレかなにかかな?」と思っていたが、まさか本当に女子高生とは思ってもいなかった。裏側に危険が潜んでいるという背景を 知った上で、チラシを受け取った男性に必死に話しかける女子高生の様子を見ていると、今まで何とも思っていなかったものが何だか異様な光景に見えてきた。

行く当てもなく街を彷徨う「難民高校生」の実態を学べる「夜の街歩きスタディーツアー」

同行したメンバーの中の男性は、客引きの女子高生からチラシを受け取っていた。後で話を聞くと、「今月お金なくて!ほんとお願いします!!」と頼み込まれた場面もあったそう。危険の可能性があるとわかっていてやっているのか気になるところ。知らず知らずの内に危険に巻き込まれないことを祈るばかり。

道を振り返って見てみると、道の両側にメイドなどと混ざって女子高生が並んで客引きをしている姿はまさに少女たちを「売り物」にしているような光景だった。「秋葉原では女子高生が堂々と商品化されている」ということがどういうことか、やっと腹に落ちてきた。

その後、大通りを回り、仁藤さんのレクチャーを受けながら秋葉原の街を移動する。駅近くの交差点で信号待ちしていると、女子高生とスカウトが男性に話しかけて実際に客引きをしている場面に遭遇した。聴こえる範囲で話を聴いていると、どうやら「添い寝」のプランを持ちかけていたようで、スカウトは「行っちゃ いましょうよ!!」とテンション高めに男性を誘っていた。

話がどうなるかわからない内に信号が変わり、その場所から離れることになったが、反対側の歩道から見てみると3人で歩き出したので交渉が成立したようだ。交渉中はあまり話していなかった女子高生が、客となったら男性と笑顔で話していたのが印象に残っている。

家庭や学校で問題のある子ばかりではなく、「普通の子」も3割

秋葉原の街歩きの後、座って落ち着いて話せる場所に移動し、じっくりと仁藤さんのお話を聞く。 どんな女子高生が危険に巻き込まれていくか、危険な仕事から抜け出せなくなる背景はなにか、接点のある女子高生のリアルな声がどういったものなのか、などを詳しく聞くことができた。

話の中で印象的だったことをいくつか。

まず、巻き込まれやすい子のイメージは、「家庭環境が良くなく、家庭にも学校にも居場所がなくて…」というものだったが、今や「家庭環境も良くて友達もい て将来の夢もあって…」といういわゆる「普通の女子高生」が3割くらいはいるとのこと。それは、「JKカフェ」などの業態が表向きにはダークなイメージが 少なく、「割の良いバイト」として友達から口コミで広がることも背景にあるそう。

そして、その仕事を続けていて、中にはまったく性被害に合わずに済んでいる子もいれば、始めてすぐに被害に合って苦しむ子もいるという。自らが被害に遭っ ていなければ「いいバイトだよ」と言って友達を誘い、「○○ちゃんもやっているなら」と広がっていく。逆に、被害に遭った少女に聞くと「自分と同じ目に遭 わせたくないから友達には紹介なんかしない」というのがほとんどらしい。

危険に遭うまで実態を知らずに働いている少女が多い現状があるのであれば、こうして知り得た情報を、出会う女子高生たちに伝えていくことも私たち大人ができることの一つなんだろうと思った。

また、被害に合った少女たちは「他の人が同じ目に遭わないようにしたい」という想いから、子どもと関わることに興味がある、というのも印象的だった。

自分が辛い立場にあっても、次世代のことを考えられるのはすごいことだと思ったが、彼女たちが知っている「子どもと関わる職業」が「先生」「看護師」「保育士」くらいしかないらしく、「先生になりたい」という子が多いらしい。

行く当てもなく街を彷徨う「難民高校生」

この日のツアーに参加した者はみな、普段はSEや事務などの仕事をしながら子どもと関わるボランティアを行っているメンバーだったため、「そういう関わり方もあるんだということを知ったらとても驚くと思うし、夢が広がる。『子どもと関わりたい』という子たちと話してもらいたい」と仁藤さんは言っていた。

考えてみれば、学生が関わる大人は両親と先生くらいで、普通のバイトをしていれば、普通の生活をしている大学生やフリーターなど「人生の先輩」に出会える こともあるが、JK産業で働く女子高生が出会うのは、スカウトや店長、そして女子高生の性を求めて店にやってくる男性客くらい。

自分のロールモデルとなり得そうな女性の先輩と出会う機会はそうそうなく、仁藤さんと話して「女の人と久しぶりに話した!」という女子高生もいるのだとか。

そんな中で将来像を描くのも困難だろうと想像すると、色んな大人と接する機会をつくることは大切なことなのだろうと感じる。

支援や問題解決には課題も

被害に合った女子高生は「家族に知られたくない」という子も多い。家族に言えず、帰る場所をなくしていろいろなところを渡り歩くしかないのに、警察が補導して家族に伝えてしまい、家族関係や状況が悪化するケースもあるという。「なるほど、そういう問題もあるのか」と納得しつつも、話を聞けば聞くほど何をす ればいいか、何ができるのかを特定することが難しく感じる。

また、女子高生を商品としてやり取りしている大人たちが、なかなか捕まらない場所にいるということも問題だという。

女子高生は深夜に徘徊しているだけで警察に補導されるが、その女子高生たちに声をかける大人たちは深夜に徘徊していても捕まらない。客が捕まるのは買春の決定的な証拠があったときくらい。店は摘発を逃れようと次々と業態を変え営業し続けている。

悪いことをする大人たちは安全なところにいて、女子高生たちのリスクだけが高くなるような仕組みになっている。そうして女子高生は誰にも相談できなくなっていき、自立する術もわからずその世界からなかなか抜け出せないという状況もあるようだ。

今回この「夜の街歩きスタディーツアー」に参加してみて、女子高生に対する意識が大きく変わったように感じる。今まで夜に1人で出歩いている少女を見ても気にも留めなかったし、自分にできることは何もないと思っていた。

しかし、仁藤さんからのお話を聞いて、同じ女性としても、「普通の」大人としても、彼女たちに気づいて接するだけでできることがあるかもしれないと初めて思った。そして、彼女たちに気づくためのポイントもこのツアーで知ることができた。

色々と話を聞いて、「社会で子どもを育てる」という言葉が頭をよぎった。

何が根本的な解決に繋がるのかはわからないが、問題を抱えている少女に気づける大人を増やすためにも、このツアーに参加したり、情報を広めたりということから始めることは重要な一歩だと思う。

実体験として、ツアーの数時間で今まで気づけなかったことに気づけるようになったと実感できる。この問題に関心がある人はもちろん、視野を広げたり新しい世界を知りたいといった気持ちからでも参加する人が増えるといいなと思うツアーだった。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、石井敦子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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