児童虐待・マルトリートメント

増え続ける子どもへの虐待は、一体誰が起こしているのか?-児童虐待を生み出し続ける日本の社会システム

学習支援の様子

はじめまして。今回から記事を書くことになりました森山と申します。私は普段、特定非営利活動法人3keysで働いております。

家庭の事情などで、自立において必要なあらゆる力が十分に備わらないまま一定の年齢になると突然自己責任になってしまい、低学歴、意欲の低さ、ニートやフリーターとなってしまったり、さらにはホームレス、望まない形での水商売や妊娠などを繰り返している若者たちがそうなる前に支援が行きわたるよう、現場では経済的理由等で学習サポートが得られない子どもたちへの学習支援をし、その現場で見えてきたことを基に、講演やこのような執筆などを通じて社会に現状を発信する活動をしています。

現場にいながら感じているのは、日本における教育格差の課題は、単純な機会不足ではなく、愛情や安心の基盤のなさや、生活力のなさなど、もっと根深い問題とつながっていることを実感します。

特に私たちが主な学習支援の対象としている児童養護施設で暮らしている子どもたちは多くが虐待や育児放棄の中で、何をやっても怒られるか無関心であったり、深刻な家庭においては親が家に帰らず食事やお風呂もままならない中、自信や意欲をなくし、気の強い子は授業妨害やいじめに、気の弱い子は不登校や自傷行為に走り、子どもたちの学びにおいてとても大事な小中学生から十分な基礎学力や、学習習慣がないままになっていることが少なくありません。

今回はこのような育児放棄をも含む「児童虐待」は一体誰が起こしているのかについてみていけたらと思います。

児童虐待数は10年間で60倍に?

虐待相談件数の推移

新聞やニュースなどで児童虐待による事件などが報じられており、年々児童虐待問題は深刻化しているようにうつります。

図1の表に平成2年では1101件だった相談件数は約10年後の平成23年には59,919件という約60倍もの増加になっています。この数字だけを見ると、虐待は現在の世代で生じた問題のようにみえますが、実は平成12年度に制定された児童虐待防止法によって、市民による虐待の通報が義務となり、これまで隠れていた虐待問題が明るみにでたと解釈する方が正しいのです。

親によって虐待を受け、子どもの愛し方がわからず、親という頼る人もいない中で自分の子どもを余裕を持って育てることができないことで虐待が連鎖してしまうなど、虐待は何世代かに渡る根深い問題と言えます。

子どもは虐待から逃げたくても逃げれない

虐待の種類

実は暴力だけが虐待ではありません。虐待には図2のように4種類があります。

自身の子どもに虐待をしている親のほとんどが「しつけのため」と自分の行為を正当化します。しかし、子どもに言葉や教育でも伝えるということができるにも関わらず、暴力や暴言といった簡単な方法でかつ子どもに深い傷を負わせる方法で行うことは、親の怠慢や力不足であり、決して正当化して良いものではありません。

そのようなしつけをしてしまうのは親自身がそのような体罰の中で育ったという生育環境に影響している場合もあります。

子どもには選択できる力がありません。

親をはじめとした大人に守られ、教えられ、色々なものを与えられる時期に、親が自分に理不尽な扱いをしてくるからといって子どもは自分たちの意思で親元を離れることも、親や大人側が悪くて自分は間違っていないと思い続けることも難しいです。

暴力に限らず、罵声を浴びせ続けられる、関心を持ってくれない、十分な食事を与えてもらえないなどが続くと、子どもたちはそこから逃げることもできず我慢したり、自分を責めつづけ、「私は生まれなきゃよかった」「私は何をしてもダメ」と思い込んでしまいます。

ある程度の年齢になったら、援助交際をしたり、アルバイトをしたお金で家に帰らないようにするなど、子どもなりに親元から逃げて、自分なりの人生を歩もうとしても、今度は社会から「今時の子どもは」と責められてしまい、お金や恋人にしか居場所を見いだせなくなる子どもも少なくありません。

虐待は豊かすぎる社会の副作用

育児で抱えるストレス

虐待自体先述のように正当化されるべきではないけれど、決して虐待する側だけが悪い問題でもありません。これは何世代にも渡る根深い問題であり、親自身もどのように子どもをしつけ、教育したら良いかわかっていないケースが多いのです。

図4のように、虐待をしてしまったり、虐待をしたことがあるのではと思い悩んだことのある母親は、母子世帯で実に半分程度、父子世帯や二人親世帯でも3割はいるのです。

育児の挫折経験の有無

無業主婦の場合、地域や親戚などとの繋がりが希薄になってきた中、頼る人もいない中で「密室の育児」が行われ、精神的なストレスや、孤独感を虐待や暴言などで子どもにぶつけてしまっています。

有業主婦の場合には、女性の社会進出が進む中で家事や育児の分担はまだ十分に進んでおらず、母親は仕事も家事・育児も行い、相談する相手や助けてくれる相手もいなく欝やノイローゼなどになってしまうことも少なくありません。

図5のように日本では先進国諸国と比べ、依然として家事などを女性の役割としています。最近だとメールやSNSにそのはけ口を求め、育児放棄になってしまうというケースも出てきています。

6歳未満児のいる男女の育児、家事関連時間

確かに社会は物質的に豊かになってきていますが、それの引き換えに何かを失っていることをこの「虐待数」が示してくれているのではないでしょうか。

またこれは単なる経済的な問題や、親一人の問題ではなく、社会のシステムを総括的に振り返らなくてはような大変根深い問題であることを忘れてはいけません。

Author:森山誉恵
認定NPO法人3keys代表理事。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会幹事。東京都の「共助社会づくりを進めるための検討会」委員。慶應義塾大学法学部卒。大学時代、塾講師や家庭教師の経験等から教育格差の現状を知り、児童養護施設で学習ボランティアを開始。在学中、大学生を 中心とした学生団体3keysを設立。2011年5月に内閣府の雇用創出のための支援金を基に内閣府の認証の元、NPO法人化し、代表理事に就任。同年社会貢献者表彰。現在は現場の支援に加え現場から見える格差や貧困の現状の発信にも力を入れている。
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