2020年4月、NPO法人ダイバーシティ工房は自立援助ホーム「Le Port(ルポール)」(以下、ルポール)を新たに開所しました。
自立援助ホームへの入所は、原則15歳から20歳までの義務教育を終えた子どもを対象としています。虐待などの理由により家族と暮らすことが困難になってしまったり、または18歳で児童養護施設を卒業後、行く先がなくなってしまったりした子どもたちが暮らしています。
前回の記事に続き、今回は自立援助ホームを立ち上げた経緯や、実際の運営の様子をお伝えしていきたいと思います。
無料学習教室だけでは、限界を感じて
私たちが「ルポール」を立ち上げる背景には、2017年に立ち上げた地域の学び舎「プラット」での活動があります。
このプラットを立ち上げた目的は、当時地域にはまだ存在していなかった、生活困窮家庭向けの無料学習教室を実施することにありました。
活動を始めてみると、一つわかったことがありました。プラットに集まってくる子どもたちは、少なからず日常生活での困りごとを抱えている、ということです。
家族との生活時間が合わず家で話せる人がいないため、不安になって話し相手を探している子、家族との関係が悪く家に帰りたくない子、中には一日何も食べないままプラットへ来る子もいました。
そんな子どもたちと出会うたびに、週に1回の学習や食事の支援だけではできることに限界があると感じていました。
泊まる場所を求める声
また中高生だけでなく、高校を中退してしまったり、家出をして本当に行く場所がなくなったりした子から「泊めてほしい」という連絡が不定期にありました。
約10年前、法人化する前から運営をしていた学習塾で、女子生徒たちが「今日ここに泊めてほしい」と話をしていたこともあります。彼女たちも一人親家庭など、様々な背景を持っていました。
そのうちの1人が、現在、ルポールでホーム長をしている八神です。
八神自身も虐待を受け、家出をした経験があります。無料学習教室で出会う子どもたちに、心を痛めてました。
「私のような思いをする子を一人でも減らしたい。」
彼女のそんな思いも合わさり、ルポールの立ち上げに至りました。
(学習塾で開かれた高校合格祝いのすき焼きパーティー。真ん中が当時中学生だった八神です)
次のステップに旅立つ子どもたちの拠点になるように
「Le Port(ルポール)」とはフランス語で「港」のこと。次のステップに旅立とうとする人たちの拠点となることを願ってこう名付けました。
一人ひとりの旅立ちを応援しながら、何かあったときに、もしくは何もなくても帰りを待っている場所でありたいという想いも込めています。
開所前に実施したクラウドファンディングを通じて知っていただいたこともあり、地域の関係機関からは事前に何件もお問合せをもらっている状態でした。
前回の記事でも書いたように、自立援助ホームへの入所は児童相談所長からの「委託措置」という形を取ります。
児童相談所と相談を重ねて徐々に受け入れを進め、現在のルポールでは一時的に保護する「一時保護委託」の子どもも含め、4人の子どもたちが暮らしています。彼女たちが家で暮らせなくなった事情は様々です。
子どもの自立を目指した生活を送る
ルポールに入居する子どもたちは、最終的にはここを卒業し、自立した生活を送れるようになることを目標としています。
そのためルポールでは、基本的に自分で身の回りのことをしていきます。料理を作る職員はいますが、できるときは手伝ってもらいますし、洗濯も自分で行います。
ある子は初めて自分で卵焼きを作れたことに感動し、しばらくみんなのために作ってくれました。
(入居する子どもが一生懸命作ってくれた卵焼きです)
親の代わりに、様々な角度からサポートする職員
職員は親代わりとして、様々な役割を担っていきます。
ルポールでは月に1回、子ども一人ひとりと面談する時間を設け、普段の様子や生活における困りごとについて、ヒアリングを行います。
金銭状態や貯蓄についても面談ごとに確認し、アルバイトを探すサポートをしたり、実際に仕事を始めた子はその様子についても聞いたりしていきます。
まだ機会はありませんが、学校で三者面談がある場合は職員が同行することもあります。
中には今まで学習の機会に恵まれてこなかった子もいるため、本人が希望すれば学校探しの手伝いをしたり、ダイバーシティ工房が運営する無料の学習教室等を通じて学習の機会を提供できたりすることも、ルポールの特徴です。
(同じ法人の拠点で草刈のお手伝いをしてくれました)
子ども同士の関係性の重要さ
スタッフとの信頼関係ももちろんですが、入居する子ども同士の関係性も大切です。
最初は自室にいることが多かった子たちも、リビングで一緒にテレビを見て盛り上がったり、職員に好きなアイドルを見せたりと、徐々に打ち解けていく姿が見られています。
テストで100点を取った日には一緒に喜んだり、学校で友達ができない悩みを聞いて励ましあったり、姉妹のような関係を築いている子たちもいます。
とはいえ多感な10代の女の子同士なので、気持ちのすれ違いや些細な衝突が起こることも珍しくありません。
入居者が1人増えると子ども同士の関係性が変わることもあるので、時には職員が調整に入ることも必要になります。
入居の問い合わせは次から次へときますが、現在入居している子どもの気持ちがある程度安定してから次の子を受け入れられるように、一定の期間を空ける必要性も感じています。
(リビングに集まるとあっという間に賑やかになります)
なじみのない場所での暮らしは、想像以上のストレス
時には、トラブルも起こります。
ある日、普段穏やかな子が、学校から帰る時間になっても中々帰ってこない日がありました。携帯はwifiがないと通じないタイプだったので、連絡を取る手段がありません。夜遅くになって無事に帰ってきたときは、心からほっとしました。
帰ってこなかった理由を聞くと「自分がいてもいなくても、誰も心配しないと思った。」と言います。
子どもたちは自分が生まれ育った場所から離れた、初めての場所で暮らし始めます。なじみのない場所での暮らしは、子どもにとって想像以上に大きなストレスがかかります。
地道に信頼関係を築きながら、子どもからのサインにいち早く気づく必要があると感じたできごとでした。
ちなみに携帯電話は、未成年では契約することができません。親御さんのサインをもらうために児童相談所と調整しながら進めるなど、未成年がゆえに手続きに苦労する場面もあります。
心から安心できる「実家づくり」を目指して
私たちにとっても初めて自立援助ホームの運営してみた4か月は、学ぶことばかりでした。
違うホームから実態を聞いていても、いざ経験してみて初めてわかること、決めなければならないことはたくさん出てきます。職員間の研修や話し合いを重ねながら、日々アップデートしている状況です。
試行錯誤が続く中、先日ある子がこう話してくれました。
「家に帰ってきたときの『おかえり』の声がすっごくあたたかく感じる。自分の家に帰って『おかえり』とか、本当になかったから。」
あくまで職員と入居者という立場ですが、一つ屋根の下で共に暮らしながら家族のような関係になっていく場所。それが自立援助ホーム、ルポールです。
今入居している子どもたち、そしてこれからの入居を待つ子どもたちのために、安心して過ごせる場所であり続けたい。
そんな場所を、子どもと一緒に作り上げていこうと思います。
2012年に設立した千葉県市川市のNPO法人。ひとり親家庭や不登校の子どもたち、発達障がいを持つ子どもたちとその家族に寄り添った学習環境づくり、さらに地域や行政、学校と連携し、大人も子どもも安心して暮らせるまちづくりに取り組んでいます。