特別支援発達障害

68人に1人が自閉症!?自閉症の子どもは急増しているのか?-社会の都合によって変化する発達障害の定義

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こだわりや興味の幅の狭さ、社会的なコミュニケーションの困難さなどが特徴である自閉症。先天的な脳の機能障害であることがわかっていますが、その数は恐ろしい勢いで増えていると言われています。

米国の疾病管理予防センター(CDC)の2012年の調査では、88人に1人が自閉症スペクトラム障害であるという結果が出て、世界に驚きを与えました。その2年後、同じくCDCの2014年のデータでは、なんと68人に1人が自閉症スペクトラム障害であるという結果が示されています。

このデータを見ると、「ものすごい勢いで増えているのはなんでだろう?」という疑問がもたれた方も多いと思います。

自閉症は本当に増えているのか?

「自閉症って本当に増えているのですか?なんで増えているのですか?」という質問は、私自身もよくされます。

この答えを出すには、障害の絶対数が増えているのか、顕在化する数が増えているのかという点を考える必要がありますが、私の知る限り現段階で明確な答えやデータを持っている方はいません。

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個人的には、遺伝的要因が含まれていると言われる以上、「障害の絶対数も増えているのでは?」と思っているのですが、それでも圧倒的に後者の理由で増えた割合の方が高いと思っています。やはり、診断基準が明確になり、広く浸透してきたことと、自閉症や発達障害自体の認知が高まってきたことで、顕在化しやすくなったのだと考えられます。

啓蒙が進んだことで、専門家以外の身近な人がアクションを起こせるようになってきたことは、早期支援が重要という意味で非常に良いことです。一方で、障害の認知が進んだことで、対応に困るとすぐに発達障害にカテゴライズして安心してしまう、諦めてしまうという困った事態も起こってきています。

自閉症増加の一因は社会のニーズにある

児童精神科・小児科医の石川憲彦さんのインタビューの中で、発達障害という概念の一部は、社会側が抱えている問題に起因するという考えに共感しました。

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それはつまり、社会が良しとする基準が、産業や技術の発展、経済の仕組みの変動によって変わってきたことで、そこに合わない人を発達障害に分類するような社会の都合や、ニーズがあるいうことです。

例えば、通常の教育カリキュラムに少しでも外れるお子さんがいると、すぐに発達障害を疑う、診断名をつけないと次に進めないという考えに現場が陥っているケースがありす。「すぐに検査をして特別支援学級をすすめたいけれど保護者が受け入れてくれない、どうすればいいか?」といった相談をうけ、実際にそのお子さんと接すると、少しのサポートで十分通常級でやっていける状態にある。

そんなケースに出会うと、自閉症増加の一因は社会のニーズにあるという説には説得力があると感じます。

「障害は個性」に感じる違和。本人も、社会も成長できる支援を

ただ、この種の「障害は社会の側にある」という考えを突き詰めていくと、「社会が成熟して受け入れれば障害は障害でなくなる」という話になることがあり、そこには強い違和を感じるのも事実です。

理想的ではあるのですが、現場で出会う様々なお子さん親御さんの立場に立ってみると、そう簡単なことではないだろう、と感じるのです。

社会の側の価値観や仕組み、環境を変えていくことはもちろん重要なのですが、それだけだと、本人が適切な支援や教育をうける権利、可能性を最大限にのばす権利が見過ごされてしまう危険性があると思うのです。

発達障害に限らず、あらゆる対人支援においては、当事者と社会の相互作用の部分に介入し、改善していく必要があります。社会だけが変わってもだめ、子どもだけが変わってもだめで、双方が適切にポジティブに関われる相互作用を作っていくということが、支援するということだと思っています。

この考え方は、応用行動分析学という心理学において体系化されています。

応用行動分析学がアプローチする部分は「環境と個人の相互作用」と表現されており、この場合の環境とは、「肌の外のできごとすべて」を指しています。適切な支援をしていけば、障害を抱える本人も必ず変化し成長していくことができます。

それは決して障害や個性を認めない、受け入れないということではなく、その人の可能性をのばすという当たり前のことです。障害という言葉に踊らされず、どんな人も成長し変化していくこと、そこに周囲の人が支援や教育という形で関わっていくことの本質を見失ってはいけないと思います。

Author:熊仁美
NPO法人ADDS共同代表、慶應義塾大学社会学研究科訪問研究員・博士(心理学)慶應義塾大学大学院心理学専攻博士課程修了。
専門領域:応用行動分析、前言語期コミュニケーション、発達心理学に基づく発達障害児の早期療育、ペアレントトレーニング、療育と育児ストレスとの関連、人材育成プログラム開発など
保護者が家庭でできる療育プログラムの研究開発と効果検証を進め、28年度科学技術振興機構研究開発成果実装支援プログラムに最年少で採択。「エビデンスに基づいて保護者とともに取り組む発達障害児の早期療育モデル」の責任者として全国で療育モデルの実装に取り組む。
著書:「できる」が増える!「困った行動」が減る! 発達障害の子への言葉かけ事典

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