発達障害

ABAの療育に何歳まではない!年齢に応じたご褒美の設定が重要!-言葉かけで子どもが変わる!科学的に効果のある関わり方②

特定非営利活動法人ADDS共同代表 熊仁美 竹内弓乃

特定非営利活動法人ADDS(以下、ADDS)は「発達⽀援が必要なすべての人が、⾃分らしく学び、希望をもって生きていける社会をともに実現すること」をミッションに、主に発達障害のあるお子さんを対象に「応用行動分析」(以下、ABA)という手法を軸にした、科学的根拠に基づく発達支援を行っています。

2022年4月に「『できる』が増える!『困った行動』が減る!発達障害の子への言葉かけ事典」が出版されました。この本の著者であり、ADDS共同代表の竹内弓乃さん、熊仁美さんにインタビューを行いました。前編(発達障害の有無に関わらず、子育てに役立つABAアプローチとは?)では、ABAというアプローチの基本となる部分のお話をしていただきました。本記事は中編となります。

ABAに基づいたアプローチは、何歳から始めても遅くない

-ABAに基づいたアプローチは、やはり早期に行うことが有効的なのでしょうか。

竹内:もちろん、早期に始めた方が効果が出やすいことは明らかになってきていますが、何歳までにやらないと手遅れということはないです。あくまで行動の原理なので、私たち大人も日々この原理の中で、いろんなことを新しく学習しています。

-なるほど。ちなみに年齢が上がることに付随する難しさのようなものはありますか?

竹内:それはありますね。たとえば子どもが「何かがほしい!」というときに、ひっくりかえってぎゃーっと泣き叫んだらもらえる、という状況があったとします。そういったときは「ちょうだい」のサインを教えるなど、適切な行動に置きかえていく関わりをするのですが、3歳であれば歴史が浅いので、その経験を塗り替えていくことはまだしやすいです。

でも小学校5年生で、今までずっと泣き叫ぶことで要求を通してきました、という状況だとすると、支援としては少し大変になるかなと思います。お子さんも今から大きく変わるのはしんどいですし、まわりがそれに対応していくこともしんどいですよね。

特定非営利活動法人ADDS共同代表 竹内弓乃
(特定非営利活動法人ADDS共同代表・竹内弓乃さん)

:大人の言うことを聞いてもできない、叱られる、という経験が積み重なっていればいるほど、大人からの関わりが入りにくくなるのは当然ですよね。お子さんからしたら、大人を信用できないと思ってしまっていると思います。

叱られて叱られて…本人も自信がなくなっていて、周りもどう関わればいいのかわからない状況だと、立て直すには時間が必要かもしれません。

でも無理じゃないです!小さなことでもほめて、いいことがあったという経験を積み重ねていくことができれば、お子さんも「あ、この人の言うことを聞いたらいいことがあるぞ」ということを少しずつわかっていくので、信頼関係を取り戻せないことはないです。

特定非営利活動法人ADDS共同代表 熊仁美
(特定非営利活動法人ADDS共同代表・熊仁美さん)

-年齢が小さいうちの方が、誤った学習をしている期間が短いということですね。でも、何歳から始めてもできないことはないと。

竹内:そうですね。あとは「いいこと」というのも、年齢に応じた「いいこと」にすることも必要です。小さいお子さんだったらぎゅーっとハグするところを、中学生だったらこういうご褒美が喜ぶかなと考えることが必要です。

:たとえば中学生だったら、お小遣いでも全然いいんです。本人にとって嬉しいことをちゃんと考えていくことが大切ですね。年齢によって、本人と一緒に決めていくプロセスを大事にすべきだと思いますし、いいこと選びは一人ひとりに合わせてじっくりと時間をかけて考える必要があると思います。

大人が「これ好きでしょ?」と決めつけてうまくいかないのは当然なので、主導権をお子さんと大人でちゃんとシェアすることも、ABAの考え方の中では大事にされている点です。そういった点も伝わればいいなと思っています。

エラーレスラーニング、失敗から学ぶ体験、どちらも必要

-ABAでは「エラーレスラーニング」(誤りや失敗をさせない)という学習方法を重視していると思いますが、世の中では「失敗から学ぶ」という考え方もある程度浸透していると思います。やはり失敗させないことは重要なのでしょうか。

:エラーレスラーニングできちんと学ぶ時期と、試行錯誤しながら自分なりに探索していく時期、両方あっていいと思っています。

お子さんが失敗して達成感を感じられない、そして叱られるという状況の多くの場合は、お子さんがどのように振る舞っていいかベースとしての行動の手札を持っていないことが多いです。

たとえば要求の手段を何も持っていないお子さんが代わりに「泣き叫ぶ」という行動をしているとして、その状況で試行錯誤しなさい、自分で考えてどうにかしなさいと言われても、本人が持っている幅で対応するしかなくなってしまいます。

子どもが考えられる他の方法は、物を投げる、くらいかもしれません。そして叱られたり、「どうしてできないの?」と言われても、手札がない状況では失敗体験を重ねていくだけです。

なのでエラーレスラーニングを通じて、いくつか行動の手札を増やしてあげる、ということが大事です。泣き叫ぶ代わりにこういうふうに要求するんだよと教えて、いくつか行動の手札が増えていった後であれば、適切な行動の中で本人が選ぶというステップに行けるので、そこで初めて試行錯誤が活きていくと思っています。

なので、エラーレスラーニングも試行錯誤も両方大事です。決して対極にある考え方ではなく、同じ流れの中にあるものです。初めにエラーレスラーニングがあって、次に自分なりに試行錯誤したり、探索したりするステップがあると考えていただくと、取り入れやすいのかなと思います。

NPO法人ADDS:療育プログラムの様子
(NPO法人ADDS:療育プログラムの様子)

-なるほど。別物、対極にある考え方ではなく、ステップとして考えればいいのですね。

竹内:失敗体験しかないと、失敗から学ぼうとはならないですよね。失敗体験を上回るたくさんの成功体験があるからこそ、前回ダメだったけど次はいけるかも!というガッツにつながるのだと思います。

:失敗させないと伸びない、苦労させることが成長につながるという価値観がやはりあると思うのですが、エラーレスラーニングはその前段階だと思ってもらえたらと。いろんな行動の手札が増えるとお子さんは自分から試行錯誤していくことができますが、最初の一歩でひっかかっているお子さんに関しては、ちゃんとサポートしてあげたいなと思いますね。

今、できていることは何か?を探すこと

-本書では支援の方法がスモールステップで載せられているのですが、本書には載っていない困りごとに直面したときに、スモールステップを設定するコツはありますか?

竹内:目標となる、”こうなってほしい”と思う行動に一番近い、今できている行動は何かを探すことです。

たとえば、”プリントをちゃんと解いて提出してほしい”、という思いがあったとします。お子さんが全然解かないで出してしまう、白紙で出してしまう、という状況だったとしたら、「白紙で出している」という行動が、目標に一番近い行動ですよね。それをまず認めて、ほめるということをしましょう。そうすると、それが一度定着します。

次はいきなり全部解いて提出することを目指すのではなく、一問解いたらOKにするとか、プリント自体を切って一問だけにしたらできるのかなとか、ステップを考えます。このステップの区切り方は、お子さんをよく観察して、お子さんの身になって考えることが必要です。ケースバイケースにはなるのかなと思います。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

「できる」が増える!「困った行動」が減る! 発達障害の子への言葉かけ事典

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本書ではこのABAをもとに、様々な声かけやアイデアをご紹介していきます。著者の2人は、これまで約20年にわたり、現場で実際に取り組み培ってきたプロ中のプロ。あらゆる状況を想定した、そのノウハウはどれも説得力があるものであり、かつ、効果があるものばかりです。

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