発達障害

子どもに「ご褒美」はよくないのか?「対提示」で動機が移る!-言葉かけで子どもが変わる!科学的に効果のある関わり方③

特定非営利活動法人ADDS共同代表 竹内弓乃 熊仁美

2022年4月に「『できる』が増える!『困った行動』が減る!発達障害の子への言葉かけ事典」が出版されました。この本の著者であり、特定非営利活動法人ADDS(以下、ADDS)共同代表の竹内弓乃さん、熊仁美さんにインタビューを行いました。ADDSでは、主に発達障害のあるお子さんを対象に「応用行動分析」(以下、ABA)という手法を軸にした、科学的根拠に基づく発達支援を行っています。

前編(発達障害の有無に関わらず、子育てに役立つABAアプローチとは?)では、ABAというアプローチの基本となる部分について、中編(ABAの療育に何歳まではない!年齢に応じたご褒美の設定が重要!)ではABAの有効的な年齢やエラーレスラーニングの考え方についてお話をしていただきました。本記事は後編となります。

ご褒美と一緒に、社会性の強化も行う

-ABAは「ご褒美」を用いて適切な行動を増やしていくというアプローチだと思いますが、素朴な疑問として、ご褒美がないならやらない、となってしまう心配はないのでしょうか。

竹内:前提としては、私たち大人も行動の後にいいことがあるとわかっているから、今やっている行動が定着していると思うんですね。報酬があることで行動を維持しているのは、人間を含む動物の原理原則なんだと思います。ただ、いつまでも「はい、お菓子」「はい、おもちゃ」とはできないですよね、ということはよくわかります。

なので何をしなければいけないかと言うと、ご褒美となるもののレパートリーをいっぱい増やしていくことです。それは子どもの興味の幅を広げることであり、好きなものを増やすことでもあります。

特定非営利活動法人ADDS共同代表 竹内弓乃
(特定非営利活動法人ADDS共同代表・竹内弓乃さん)

また、私たちが支援をする際は「対提示」ということをします。「上手にできたね」と伝えるとき、ご褒美としてお菓子をあげるとして、ただあげて終わりではなく、「すごく上手にできたね」「かっこよかったね」と、社会的な強化を必ず一緒に提示しています。

なぜかと言うと、たとえば自閉症のお子さんは社会性の発達の特性から、「上手ね」という他者からの賞賛やポジティブなフィードバックが、十分なご褒美として働きにくいことがあるんです。

褒め言葉は大して好きじゃない、でもこのお菓子は好き、という状況があったとして、お菓子と一緒にいつも褒められるな、この声掛けがいつもあるな、という経験が積み重なると、お菓子への好きが声掛けへの好きに移っていくんですね。

そうすると少しずつ「あ、なんか褒められるの嬉しいな」「笑顔が嬉しいな」と感じられるようになっていき、最終的にはお菓子の必要性が徐々に減っていきます。お子さん自身がご褒美と感じる強化子のレパートリーが増やせるように、小さい時から工夫して関わることが大切です。

ご褒美は、”勢いづけ”のものとして使う

:あとは「できる」ということ自体が、実はご褒美になることはあまり知られていないですよね。

たとえばパズルをはめる、という動きは、できない段階だと楽しくないですね。それが、お菓子やおもちゃをご褒美にしながら一つひとつはめる練習をして、できるようになったとします。するとお子さんにとっては少しずつ「はめられた!」ということそのものがご褒美になります。つまり、外発的な動機付けから、内発的な動機付けへと移っていくんですね。

できるところまで、達成感を感じられる段階までは外発的なものを使いながらサポートして、ぐっとひっぱってあげるイメージ。できるようになると「できて楽しい!」と自然にその行動が増えていき、内発的なもので維持されていくようになります。

特定非営利活動法人ADDS共同代表 熊仁美
(特定非営利活動法人ADDS共同代表・熊仁美さん)

-外発的な動機付けが高すぎると、内発的な動機付けが下がる心配をしていましたが、「できる」「楽しい」自体がご褒美になっていく、という考え方は新しい発見でした。

:確かにタイミングが大事で、内発的な動機付けがあるものに外発的なものをくっつけてしまうと、あまり良くないですよね。自らやっていることにご褒美を使う必要はなく、内発的なものが下がってしまうという逆効果になる場合もあります。

なのでご褒美はきっかけとか、勢いづけのものとして使ってあげるといいと思います。勢いづけができないところで諦めて、本人もつまづいてそのまま…ということがすごく多いです。行動のきっかけとしてご褒美は結構いいもので、子育てでもうまく活用していいものだという認識が広がってほしいですね。

子育てそのものの価値観を変えていく

-日本の中では「がんばって苦労すれば得られるものがある」という考え方がまだ根強いように思います。エラーレスラーニングやご褒美を用いるABAの手法は、発達障害かどうか以前に子育てにとって必要な考え方ですよね。ABAのエッセンスがもっと広がっていくために、どのようなことが必要だと思いますか。

:とても難しいですよね。親御さんたちは「がんばって苦労すれば得られるものがある」という社会の目にさらされていたり、ご自身もそういった教育の中で育てられてきた経験があったりします。ご褒美を使ったらうまくいくこともわかるし、ストレスなく子どもも大人も過ごせて嬉しいけれど、何となく罪悪感がある…と感じる方も多いと思います。やはり子育てそのものの価値観を変えていかないといけないことは、すごく感じています。

今、私たちの法人では、支援が必要なお子さんと親御さん向けにABAのプログラムを提供しているのですが、産前・産後の教室やパパママ講座などの場でABAの手法を共有できる枠組みを作れると、結果的に虐待などの予防にもつながるのではないかと考えています。法人全体としても、子育てと融合していくことの優先順位は上がってきています。

学校や、スポーツ指導の場でも

-家庭もそうですが、学校でもエラーレスラーニングやご褒美の考え方を取り入れていけるといいですよね。

:そうですね。ご褒美の使い方については、学校の先生からの質問がすごく多いです。

竹内:ご褒美としておかしやおもちゃをあげることは難しいから、シールならどうでしょうか…など、つどつど相談ですね。工夫して、うまくいった事例が一つでもできれば、広がっていくきっかけになるのかなと感じています。

:学校現場へ行くと、校長先生がすごく理解があって柔軟な考え方をお持ちの場合もたくさんあります。また、私たちが開催する研修にいらしてくださる先生たちの中には、理解のある方々もたくさんいます。

大きなムーブメントにはなっていないけれど、ABAの考え方が以前よりは確実に広がってきていることは感じています。先生がバラバラと一人ずつ取り組むよりも、トップが意思決定して全体へ下ろしていく方が、考え方としては浸透しやすいのではないかと思います。


(NPO法人ADDS:療育プログラムの様子)

-ちなみに、ABAはスポーツの指導にも通ずる考え方なのでしょうか。

竹内:スポーツコーチングに使われている、という話は聞いたことがあります。スモールステップで目標を細かく決めて、達成したらお菓子ではないですが何か報酬を設定して…と。そのようにステップアップしていくほうが、上達する効率がいいと考える指導者もいると思います。

:ABAを学んでいなくても、子どもたちのモチベーションをうまく高めながら、自発的に取り組めるように…と促している先生や指導者の指導法にはやはり、理論的には説明がつくところはありますね。

どちらかというと、うまくいっている方の実践を理論的に紐解いていくアプローチも必要なのかなと思います。ABA的に解説することができると「ああ、そういうことか」とわかっていただけることもあるのかなと。

一人で悩まずに、専門家へ相談しよう

-最後に、本書を手に取る方はお子さんの発達に関して悩んだり困ったりすることがあると思うのですが、ADDSさんに相談できるような窓口などはありますか?

竹内:ADDSでは「kikotto」というオンライン発達相談サービスを運営しており、12歳までのお子さんの発達について、LINEのチャットやzoomのビデオ通話で気軽に相談できるようになっています。相談員はADDSのメンバーを中心に、臨床心理士や作業療法士、保育士などの専門家が担当し、親御さんのお悩みに伴走しています。

ぜひお一人で悩まずに、こういったサービスを活用してもらえたらと思っています。お子さんがよりよく成長していけるように、一緒に支えていきましょう。

-遠方にお住いの方でも、オンラインでつながることができるのは心強いですね。

こちらでインタビューは終了となります。ここまでお話を聞かせていただき、ありがとうございました。ABAというアプローチが本書を通じて正しく理解され、悩んでいる親御さんや支援者さんの味方に、そして子どもたちの発達の手助けになることを心から願います。

発達障害の有無に関わらず、子育てに役立つABAアプローチとは?-言葉かけで子どもが変わる!科学的に効果のある関わり方①
発達障害のあるお子さんを対象に応用行動分析(ABA)という手法を軸にした、科学的根拠に基づく発達支援を行っているNPO法人ADDSの共同代表である⽵内⼸乃さん、熊仁美さんへのインタビュー記事の前編です。2022年4月に、「『できる』が増える!『困った行動』が減る!発達障害の子への言葉かけ事典」を共著で出版されました。前編記事では、応用行動分析(ABA)のベースとなる考え方についてお話を伺いました。
ABAの療育に何歳まではない!年齢に応じたご褒美の設定が重要!-言葉かけで子どもが変わる!科学的に効果のある関わり方②
発達障害のあるお子さんを対象に応用行動分析(ABA)という手法を軸にした、科学的根拠に基づく発達支援を行っているNPO法人ADDSの共同代表である⽵内⼸乃さん、熊仁美さんへのインタビュー記事の中編です。2022年4月に、「『できる』が増える!『困った行動』が減る!発達障害の子への言葉かけ事典」を共著で出版されました。中編記事では、応用行動分析(ABA)の効果的な年齢、スモールステップやエラーレスラーニングについてお話を伺いました。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

「できる」が増える!「困った行動」が減る! 発達障害の子への言葉かけ事典

療育現場や親御さんの間で、絶大な効果があると今、大評判!画期的方法論ABA(応用行動分析学)をもとに、その子の特性に合わせた教え方、伝え方を大公開!

本書ではこのABAをもとに、様々な声かけやアイデアをご紹介していきます。著者の2人は、これまで約20年にわたり、現場で実際に取り組み培ってきたプロ中のプロ。あらゆる状況を想定した、そのノウハウはどれも説得力があるものであり、かつ、効果があるものばかりです。

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