特別支援発達障害

子どもたちにエビデンスに基づいた特別支援教育を!④-全てのはじまりは、教員10人の小さな研究会だった

3.ルーツは10年前!徳島ABA研究会の存在

:ここからは、これなくしては「とくしま支援モデル」については語れない、と個人的に思っている「徳島ABA研究会」について、お話を伺いたいと思います。ルーツは10数年以上遡るそうですね。

田中:12、3年前の話です。私がまだ30代の頃、もっと専門性を身につけたくて、教育委員会が実施する大学院への長期派遣研修に応募しました。そこで入った鳴門教育大学の大学院に、現在もアドバイザーをお願いしている島宗先生がいらっしゃったのが全ての始まりでした。

:島宗先生のゼミは、なかなかに厳しかったという評判ですが(笑)

田中:厳しかったです(笑)正しくて尤もなことをバシっと指摘されますし、島宗先生の仕事や思考のスピードが早すぎて、ついていくのにとにかく必死でした。未だに、師匠に何を指摘されるかいつも緊張しています(笑)

でもお陰で、島宗先生から直接、行動分析学について徹底的に学べました。これは、非常に大きかったです。そして、子どもたちがどんどん変化し、きちんと成果が出ることに、私自身すごく感動したし、モチベートされたんです。

そうこうしているうちに、島宗先生が東京の法政大学に移られることが決まって、「もっと学び続けられる仕組みを作りたい!」「島宗先生のような信頼できる専門家とのつながりを続けたい!」いうことで、島宗先生にスーパーバイズをお願いし、徳島ABAの研究会主催のサマースクールを立ち上げました。

教員がABAの基本や記録の取り方などを学ぶ研修・サマースクールの様子③:行動のご褒美となる要因や刺激を分析するワーク(教員がABAの基本や記録の取り方などを学ぶ研修・サマースクールの様子③:行動のご褒美となる要因や刺激を分析するワーク)

:行政の枠を飛び出した小さな自主研究会が、今では県単位での事業の礎になっていると考えると、すごいことですね。

田中:そうですね。最初は現場の先生と島宗先生で10人前後の小さな研究会でした。今は、常時30人くらいスタッフがいます。徳島にとどまらず長野、高知、東京など色んな地域のスタッフがいます。

私自身この研究会での経験が、県庁で勤務し、各事業立ち上げのベースになっていますし、研究会に関わった先生方が、県庁に入ってきたり、指導主事など指導的な立場になってきたりしている。そうすると現場のリーダーと連携をとりやすいので、県の事業を牽引する大きな原動力になっています。

:人を育てる仕組みとしても素晴らしく機能しているのですね。現在は、どういった活動をされているのでしょうか?

田中:メインは、年1回のサマースクールと春の講座の開催です。まずオンラインで事前学習をして、その後、2日間のサマースクールで演習を通してABAの基本や記録の取り方などを学びます。スタッフは研修の講師をしたりもするので、必然的に学ばざるを得ません。その後、秋から冬にかけて各自現場で事例研究をして、春の特別講座で発表する、という流れを毎年繰り返しています。

徳島ABA研究会

春の特別講座では、応用行動分析学の考え方や記録に基づいて、現場で実践を行った事例研究のポスター発表や発表者との質疑応答を通して、具体的な支援方法を学びます。最近は、信州ABA研究会なども立ち上がり、県外のスタッフが中心となってこのサマースクールの普及が始まっています。

長野県で実施されたサマースクールでは、県の事業のアドバイザーでもある奥田先生も講義をしてくださったり、直接アドバイスを下さったりするので、学びの機会としては相当充実していると思います。

:県外にも広がっているんですね!これだけの研究会を10年近く続けるだけでも、大変なことです。秘訣はありますか?

田中:島宗先生が組織マネジメントの専門家でいらっしゃったことが大きいです。とにかく属人的でない、人が変わってもできる仕組みを作り込むよう徹底的に指導されました。サマースクール開催のためのマニュアル作成や、研修教材の開発、スタッフ掲示板の活用など。相当細かいですが、おかげで現在も活発に活動が続いていて、人が非常に育っています。非常に熱心で優秀なスタッフが大勢います。

:田中先生にとって、徳島ABA研究会はどういう存在なんでしょうか?

田中:島宗先生に教わり、徳島ABA研究会で学べたことは、全ての始まりと言っても過言ではないくらい、大きいですね。私にとっては、1人の子供を子育てしたような気持ちというか。例えば、私が10数年前に開発した研修教材が、現在もサマースクールで使われていたりします。スタッフが研修教材を改善して、学び手がうまく学べなかったりするとちょっとイラっとしたりします(笑)

:本当にお腹を痛めた子どものようですね(笑)この徳島ABA研究会の仕組みづくりや広げ方は、「NPO等がどう活動を広げていくか?」を考える時にもすごく参考になると思っていて、まだまだ学ばせていただきたいです。

教員がABAの基本や記録の取り方などを学ぶ研修・サマースクールの様子④:行動のきっかけとなる要因や刺激を分析するワーク(教員がABAの基本や記録の取り方などを学ぶ研修・サマースクールの様子④:行動のきっかけとなる要因や刺激を分析するワーク)

4.「とくしま支援モデル」が目指す子ども達の未来

:最後に、今後の「とくしま支援モデル」が目指す未来を教えてください。

田中:まずは、エビデンスに基づいた実践を粛々と県内に広め、特別支援教育、通常学級含めて定着させていくことだと思っています。全ての子どもたちが、安定して「わかった!」「できた!」を感じられる状況にしていきたいです。そして、子どもの「わかった!」「できた!」が先生方の強化子になること。そのために記録を取り、データをチームで共有する仕組みを作っていきたいです。

あと、常々、島宗先生に言われていますが、現場の先生方の煩雑な仕事を軽減するような仕掛けを入れていかないと思っています。全ては徳島県内の先生方の頑張りのおかげですから、少しでも現場の先生方の負担を軽減したいです。

その他にも研修のやり方もまだまだ改善していきたいですね。e-learningを使った事前課題を取り入れると、当日の研修がより深く学べたりもしますし、とにかく予算内で研修を充実させていきたいです。

:まだまだ、次なるアクションが楽しみです。個人的な展望としては、いかがですか?

田中:正直、「私はもっと現場にいたい」という時に県庁に異動になりました。でも今は、「縁があってここにいる」「人材の育成や県全体の施策に関われる」こんな機会は滅多にないので、頑張っていこうと思うし、ここにいる必然性があると感じます。

個人的には、全国の先駆けとなるモデルのような「日本一の学校を作りたい!」という夢があります。あとは、やはり現場が好きなので、いつか戻りたいなと考えていますけど(笑)

:それは、まだまだ先になりそうな予感がしますね!(笑)田中先生、本当に長い時間ありがとうございました。これからも、全国をリードする「とくしま支援モデル」の次なる一手を楽しみにしています!

子どもたちにエビデンスに基づいた特別支援教育を!①-全国をリードする「とくしま支援モデル」とは?
近年、特別な支援を要する子どもの数は増加傾向にあり、学校現場でも、その対応が急務な課題となっています。そんな中、全国で先端的な特別支援教育のモデルを作り上げようとしている県があります。それが徳島県です。事業の中核を担う、徳島県立総合教育センターの田中清章先生へのインタビューを通して、徳島県の取り組みをご紹介していきます。
子どもたちにエビデンスに基づいた特別支援教育を!②-いじめや学級崩壊を防ぐ「スクールワイドPBS」を日本初導入
近年、特別な支援を要する子どもへの対応は、学校現場の急務な課題となっています。徳島県では、エビデンス(科学的根拠)に基づいた仕組みや成果を全国に発信しようと、現場と連携しながら様々な取り組みを行っており、県として日本で初めて「スクールワイドPBS」が導入されました。前編に続き、徳島県立総合教育センターの田中清章先生へのインタビューを通してご紹介していきます。
子どもたちにエビデンスに基づいた特別支援教育を!③-方法や手段ではなく、データと成果でつながるチーム作り
「応用行動分析学(ABA)」という心理学に基づく方法論で、特別支援教育に取り組んでいる「とくしま支援モデル」。データと成果に基づき、根拠を示した上で特別支援教育に取り組んでいる点は、正に先進的と言えます。前編・中編に引き続き、「とくしま支援モデル」の中核を担う徳島県立総合教育センター特別支援・相談課班長の田中清章先生に、インタビューを通して伺いました。
Author:熊仁美
NPO法人ADDS共同代表、慶應義塾大学社会学研究科訪問研究員・博士(心理学)慶應義塾大学大学院心理学専攻博士課程修了。
専門領域:応用行動分析、前言語期コミュニケーション、発達心理学に基づく発達障害児の早期療育、ペアレントトレーニング、療育と育児ストレスとの関連、人材育成プログラム開発など
保護者が家庭でできる療育プログラムの研究開発と効果検証を進め、28年度科学技術振興機構研究開発成果実装支援プログラムに最年少で採択。「エビデンスに基づいて保護者とともに取り組む発達障害児の早期療育モデル」の責任者として全国で療育モデルの実装に取り組む。

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