特別支援

20年で倍増!急増し続ける特別支援学校の児童生徒-対応が追いつかず足りないものだらけで困惑する現場

挙手

先日、文部科学省が毎年発表している学校基本調査の平成26年度版の速報値が公表されました。日本社会が少子化傾向にあることは、よく知られておりますが、幼稚園、小学校、中学校、大学と在学者数は軒並み減少しており、高校もほぼ横ばいが続いています。小学校・中学校においては、過去最低を更新しており、保育所や学童が不足しているという一方で、社会全体では、確実に少子化に向かっていることは明らかです。

多くの学校教育機関でこういった減少傾向が示されている中で、唯一、過去最高の在籍者数を更新し、この10年間で40%近くも増えた学校があります。それは、特別支援学校(「盲学校」「聾学校」「養護学校」:2007年から特別支援学校に一本化)です。では、なぜ、今、特別支援学校に通う子どもが急増しているのでしょうか?

特別支援学校・学級とは?

特別支援学校は、知的障がいや身体障がいがある子どもが通う学校です。また、通常の学級に在籍しながら週に1~8単位時間程度、障害の状態等に応じた特別の指導を特別な場で行う特別支援学級という形態もあります。特別支援学級の呼び方は、養護学級、学習室、総合学級、個別支援学級、なかよし学級、あすなろ学級など学校によって異なります。

特別支援学校・学級では、子どもたち一人一人の実態に応じたきめ細かな指導を行うため、少人数で学級が編制されています。普通学校では、1学級あたり標準で40名(平均で小学校:28人、中学校:33人)ですが、特別支援学校(小学部・中学部)では標準で6人、平均で3人となっており、特別支援学級(小学校・中学校)では、標準で6人、平均で3人となっています。

学校教育法第73条、第81条に下記のように定められています。

第73条 特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高 等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。
第81条 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び中 等教育学校においては、次項各号のいずれかに該当する幼児、児童及び生徒その他教育上特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対し、文部科学大臣の定 めるところにより、障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うものとする。
2 小学校、中学校、高等学校及び中等教育学校には、次の各号のいずれかに該当する児童及び生徒のために、特別支援学級を置くことができる。

一 知的障害者
二 肢体不自由者
三 身体虚弱者

四 弱視者

五 難聴者

六 その他障害のある者で、特別支援学級において教育を行うことが適当なもの

3 前項に規定する学校においては、疾病により療養中の児童及び生徒に対して、特別支援学級を設け、又は教員を派遣して、教育を行うことができる。

平成26度版学校基本調査

平成26度版学校基本調査によると、現在、約13万5千人が特別支援学校に通っています。20年前の1993(平成5)年度の在籍者数と比べると、特別支援学校または特別支援学級に通う小学校段階の児童は2.1倍、中学校段階の生徒は1.9倍になっています。

特別支援学級に関しては、制度がはじまった1993(平成5)年度は小学校で1万1,963人、中学校で296人でしたが、2006(同18)年度に学習障害(LD)や 注意欠陥・多動性障害(ADHD)が対象に加わり、小学校は5.9倍の7万924人、中学校は実に23.5倍の 6,958人に上っています。(教育再生実行会議資料:学制の在り方にかかる論点基礎資料集)

なぜ、増え続けているのか?

では、なぜ、特別支援学校・学級に通う子どもが増えているのでしょうか?大きく2つの理由が考えられます。

一つ目は、発達障がいについて、広く認知されるようになり、診断される子どもが増えたこと。二つ目は、一人ひとりの子どもの状況に応じたきめ細かい対応を求めて、保護者が特別支援学校・学級を選択するようになったことです。

これまで黙認されてきた子どもの状況が正しく理解され、適切な対応が図られるようになったいう一方で、普通学級では理解されない、対応を不適切に感じているケースもあると推察されます。

特別支援学校・学級を希望する子どもが増えていることによって、学級数が増え、施設設備が足りなくなっている状況が深刻化しています。特に教室が足りないという学校は多く、特別支援学校の校長で作る団体が、2012年の学校施設の実態を調べたところ、約90%にあたる1,004校が回答し、「教室が足りない」と答えたのは541校で、全体の54%に上りました。

一つの教室を仕切りやつい立てで仕切って、複数の学級が使ったり、本来必要な作業訓練の部屋をつぶして教室にしているケースもあります。このような過密状態が続けば、結局、子ども達に適切な対応を取ることが難しくなってしまいます。

なぜ、このような状況になっているのかというと、普通学校には、校舎の広さや必要な施設を定めた国の設置基準があります。しかしながら、特別支援学校には、この設置基準がありません。

また、特別支援学校・学級は、生徒1人当たりに対する教職員数が普通学校に比べて多く必要であり、医療上のケアが必要な子が多く在籍しているため看護師が常駐している場合もあり、特殊な教材・施設設備が必要となってきます。また、広域から通う関係もあり、複数の送迎バスなども必要です。

そのため、特別支援学校は、普通学校と比べて、児童生徒1人当たりに必要となる経費が10倍程度となっています。 国は支援学校の建設に補助金を出し、自治体に整備を促していますが、それでも子どもが増えてもなかなか必要な対応が取られていないというのが現状です。

障がいをもつ子どもが適切な診断とケアを受けながら学習し、就職へ結びついていくことは、その子自身はもちろんのこと、社会全体にとっても大変に有益なことです。少子化の中で、統廃合などの合理化を進める必要はありますが、きちんと人や予算をかけていくべきこともあります。

将来、労働人口・生産人口が減少していく中で、一人ひとりが自分に合った形で活躍できるように障がいをもった子ども達を支えていくべきだと思います。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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