前編では、「脳神経を全身運動から刺激するアプローチ」を通して、「自分の考えたことを実現する身体」を育むための支援に取り組んでいる、キタハラタツヤさんのインタビューをお伝えしました。
後編は、実際に3ヶ月間、筆者の長男6歳が運動発達プログラムに取り組んだ記録です。長男が、これからの人生で楽しく生きられるように、身体という器を整える手伝いがしたいという想いで、夫婦で対話を重ねながら取り組みました。
お子さんの発達の凸凹を感じながらも具体的な手立てがないという方や、教育現場で働く方たちのヒントになることを願って共有させてください。
運動発達プログラムに取り組んだ私たち家族背景
夫婦で教育オタク(?)な私たちは、「人の育ち」や「自分自身のあり方」などの学習欲が高いです。私は職場で「子育て支援」に携わっていることもあり、子育てについて本を読んだり、学びの場に出たりしています。
もちろん、イコールで「子育てが上手い!」ということはなく、シュタイナー教育に出会ってようやく落ち着いてきた今日まで、妻が産後うつの一歩手前になるほど夫婦で紆余曲折してきました。
傾聴と共感が大切と知っていても、ある瞬間には、ふと学びをすべて忘れ「巻き舌」で息子を叱っては後悔・・・そんな日々でした。
長男6歳は、よく「くるくるそわそわ」しています。傾向で言うとADHD(注意欠如・多動性障害)という表現もありますが、「それほどでもない」という感じでしょうか。
朝は、歌いながらスキップして起床。
食事のときはモグモグしながら立ち歩くこともしばしば。
自信がなく他人の顔色を伺ったり、「おれできないから」と挑戦することを避けたり・・・
もちろん、優しくて歌が上手で、想像力・創造力が豊かで、いいところだらけの自慢の息子です!
(ロープに沿って、壁の周りをぐるぐる走る「電車ごっこ」)
エールプログラムとの出会い
さてそんな長男を、発達の「ポテンシャルチェック」としてタツヤさんに診ていただいたのが去年の夏。
タツヤさんと長男が、息でティッシュを飛ばしたり、首の力で頭を持ち上げたり、転がったり、腹這いになったり、くぐったり、よじ登ったり・・・一緒に遊ぶ中で見えてきた、発達の抜け(別名:伸びしろ)は、①呼吸、②首のすわり、③体幹でした。
「もしかしたら、赤ちゃんの頃からの身体の発達に“抜け”があったのかもしれない。」
それが、運動発達によって「埋まる」ことで、今ある「困りごと」が解消するかもしれない、ということでした。そして、改めて見えてきた私たち夫婦の悩み(別名:願い)は、長男に
①姿勢保持で座れるようになってほしい
②自分に自信をもってほしい
③他人への共感力を高めてほしい
④始めたことを最後までやり抜いて欲しい
ということでした。そして、その願いが叶うことで、
①家族みんな安心して食事ができ、消化もよくなる
②「登れない」「できない」ではなく、いろんなことに挑戦できるようになる
③弟や友だちが嫌がることをするのが減り、一緒に楽しく遊べる
④自分でやりとげることで自信が育つ
と、家族の明るい未来が!?
それから3ヶ月間、年末年始もほぼ毎日、登園の車での「あいうべ体操」や「吹き戻しでピロピロ遊び」、帰宅後の外あそび、夕方や就寝前の「らっこ」「あざらし」などの「たいそう」や、「トンネルくぐり」「人間登り」など、親子で触れ合いながらの運動あそびをしてきました。
「呼吸、タッチ、揺れ、回転、バランス、リズム」など、発達のエッセンスを教えもらいながら、わが家でも色々な新しい遊びが開発されました。
(ブランコは、回転や揺れの刺激は平衡感覚を養う)
決して訓練ではありません。信じて、遊んで、笑って、喜んでいます。
あの頃の愛情を取り戻すかのように、ごくごく、メキメキと変化している長男の姿に、私自身が励まされながら、ピュアな瞳を見つめ、ふれあう毎日です。
ふれあい?スキンシップ?わかってるよ。そんなのいっぱいしてる!…そう思っていました。
でも、プログラムを始めてみたら、あれ、こんなコトしたことなかった、こことここで触れると、こんな感じなんだ…と、新鮮な驚きの連続です。
認めたくないけれど、認めるしかありません。全然足りていなかったんだと、愕然としているところです。
(始まって1週間目の妻のnoteより引用)
結論から言うと、息子の成長と変化にたくさん気がつけた3ヶ月になりました。
(著者がエールプログラムに取り組んだ3ヶ月間の成長発達を記録しているnote:エールforくるくるそわそわなムートくん)
エールプログラムを通しての変化や学び
3か月間のプログラムを通して感じた息子の変化、そして親として得た学びを、下記に整理したいと思います。
「息子の変化=成長」を感じた場面
・ロウソクがうまく吹き消せなかったのが、勢いよく消せるようになり、さらに風船を膨らませられるようになった
・仰向けで寝た状態で、首だけを持ち上げる動きができなかったのが、膝を抱え、首を起こし、「ゆりかご」の運動ができた
・下の学年と穏やかに遊ぶ場面が見られるようになった
・父の身体をよじ登るのを怖がっていたのが、公園で木登りに挑戦するようになった
などなど、挙げればまだまだ出てきます。
親として学んだこと
①息子の行動を受け入れる視点
悪気があって立ち歩くのではなく、衝動的に立ってしまうことに対して、「イスに座ります」と、言葉で伝えることも大事だけれど、それ以上に身体で伝えることが大事だとわかりました。
震えが止まらない人の手をそっと握って、その震えを少しでもおさめてあげるようなイメージです。花粉症のくしゃみが止められないのと一緒なのかもしれないと思うと、こちらのイライラも緩和されます。
②生活環境と生活リズムの改善
・食事の際におもちゃや物を片付ける習慣や食べる向き
・就寝前の照明の明暗
・食事→体操→風呂→就寝の流れ
など、子どもが安心して過ごせる生活環境の改善に、意識を向けることで、子どもの行動が安定するということを体感できました。
③親自身の日々の健康と幸せの大切さ
子育てで何よりも大切なことは、「親がごきげんでいること」。どんなに「子どものため」と思ってしていることも、親が追い込まれていたり、不機嫌になっていたりすると本末転倒です。
睡眠、胃腸の様子、仕事やプライベートのストレスなどをまず解消しようとすること。幸せになるのは、自分→パートナー→親子関係の順番です。時間をかけてイライラ作るご馳走よりも、笑顔で一緒に食べる一杯の味噌汁の方が幸せです。
(「あの木登れそう!」と、最近は木に登ることが好きになりました)
運動を改善することは、すべての人に当てはまる発達支援
子どもの発達障害や発達の遅れからくる「問題」を、運動あそびが全て解決してくれるわけではありません。もちろん、療育の分野でより専門的な支援が必要な場合もあります。
しかし、親子のスキンシップを増やしたり、生活環境を工夫したり、生活習慣を整えたり、大人がチャレンジしている姿を子どもに見せたりすることは、すべての子どもにプラスの影響を与えます。
シュタイナー教育では、0~7歳では、触覚、生命感覚、運動感覚、平衡感覚の4つ(12感覚の内)を養う時期と言われていて、それらは身体を動かすことで育まれます。そしてその土台の上に、やがて思考や言語、自我の感覚が育っていくそうです。
また、運動と脳の発達の関連性についても様々なことがわかってきて、身体を動かすことが認知能力・非認知能力を高めることもわかってきました。
さらに、発達の「伸びしろ」は大人になってからでも伸ばすことができます。今は、発達障害の“グレーゾーン”という言葉もあるように、実は生きづらさや疑問を持って暮らしている人も少なくありません。
運動(食事や生活習慣も)を改善していくことが発達支援となるという視点は、すべての人に当てはまる支援の形だと思います。
運動や食事の大切さは、当たり前だからこそ意識しづらいもの。
でも、特別な支援を受ける前に、まずは身近なところから見直してみませんか?
学校法人藤樫学園矢切幼稚園理事。玉川大学文学部外国語学科英語専攻卒業。米国ニューハンプシャー州 Plymouth State University K-12 Education、Adventure Education 修士課程修了。大学卒業後は米国に留学し、アドベンチャー教育を専門に学ぶ。帰国後、玉川大学学術研究所「心の教育実践センター」で、 大学助手として、体験学習プログラムの実践・開発・研究に携わる。学校教育プログラム、社会教育プログラム、企業研修、教員研修など様々な領域をフィールドとし活動。現在は、矢切幼稚園で主事を務める傍ら、アドベンチャー教育のファシリテーターとして、チームビルディングやリーダーシップ研修などの活動を行っている。