北海道伊達市で、発達支援に携わるキタハラタツヤさんと出会ったのは、2018年夏に、家族で参加した「人智学共同体ひびきの村」のサマープログラムでした。
わが家の息子たちが、シュタイナー教育の幼稚園に通っており、念願叶って参加できました。そのとき、体操の先生として関わってくださっていたのがタツヤさんでした。
2年経ち、現在は長男の発達をタツヤさんが応援してくれる3ヶ月間の「エールプログラム」に、10月11日から家族でチャレンジ中です。
前編は、タツヤさんの「身体の安心感」をテーマにした発達支援の仕事や想いについてのインタビュー記事。後編では、わが家の6歳の息子の成長発達の取り組みについてご紹介したいと思います。
発達の凸凹はだれにでも(大人にも!)あって、運動を通してそれを埋めたり、伸び代を伸ばしたりすることはだれにでもできて、だれにでも必要ということを、みなさんに届けたいと願ってこの記事を書きます。
長野県伊那市出身。千葉大学教育学部スポーツ科学課程卒。
児童発達支援・放課後等デイサービス「まぁぶる」児童発達支援管理責任者。
全国で子どもたちへ運動あそびを通して脳神経を育てるお手伝をいしながら、講演活動を実施中。簡単なエクササイズで「カラダ」の安心感を育むと、子どもは成長発達がぐんと加速し、生きづらさを抱えている大人は人生を好転できることを、専門知識がない方へわかりやすく伝えている。
「自分の考えたことを実現する身体」を育むための運動療育
藤樫:まず、タツヤさんのお仕事について教えてください。
タツヤさん:「まぁぶる」という児童福祉施設で7年前から働いています。ここでは合計60名程のお子さんへ「自分の考えたことを実現する身体」を育むための運動療育をしています。
働き始めた当初は、子どもの発達や発達障害についての知識がなく、日々子どもたちに向き合うのに精一杯でした。でも、子どもたちの凸凹について深く学び、有効な手立てを探して取り組む中で、発達のポイントが「脳神経を全身運動から刺激する遊びのアプローチ」にあり、その子の発達段階に必要な動きの刺激が足りないのならば、それを満たせばいいことが見えてきました。
そして同時に子どもたちの困りごとが、「あれ、これって自分の子ども時代と一緒だ」と、自分の中に発達の伸び代があることに気がついてしまいました。そこで自分のカラダでも試したところ、40代でも変われたのです!
さらに子どもたちの中にも、毎週1回の活動だけでなく自宅でも取り組むとぐんと成長発達が進むことが見えてきました。「これならもっとたくさんの子どもたちをラクにしてあげられる!」、そう直感しました。
でも、「まぁぶる」(児童福祉の制度)には定員があり、さらに自宅での取り組みには踏み込むことが難しい状況がありました。そこで、会社と相談して個人で「エールプログラム」を始めたのです。家族と直につながるオンラインの個別のサポートは、効果が早く見え「通えない距離の方も応援できる」。もちろん「まぁぶる」と併用もできます。
自分の身体を安心して乗りこなせるように
藤樫:「自分の考えたことを実現する身体」とは、どのような状態なのでしょうか?
タツヤさん:できない身体を乗り慣れない車の運転に例えるなら・・・ブレーキが効きすぎたり、少しのアクセルで急発進してびっくりするとか、車幅がわからずこすってしまうとか、そんなイメージがわかりやすいでしょうか。
自分の操作感覚と、実際の動きがずれていたら怖いですよね。常に緊張しての運転になるから、隣の人に夕陽がきれいだねとか言えない。さらに普段の道ならまだいいけれど、初めての街で交通量が3倍だったらもっとずっと怖い。
そんな状態が、子どもたちの体に起きています。スピードが出すぎていたら「止まれ!」と言われても急には止まれない。動きが多く乱暴な男の子は、もしかしたらブレーキが効きづらいのかもしれない。
できればそんなことなく、自分の身体を安心して乗りこなせるようにしたいですよね。
「人間が発達する順番」は、時代や人種が違っても変わらない
藤樫:運動発達の支援で、大切にしていることは何でしょうか?
タツヤさん:もっとも大事にしているのは、発達する順番です。赤ちゃんが動けない状態から、興味に向けて徐々に動き出し、やがて自分の力で立ち上がって歩けるようになる・・・という順番。
また脳の成熟や、筋肉の発達、機能的にも内側(体幹、背骨に近い部分)から外側へ(手先足先)向かって発達する順番があります。この「人間が発達する順番」は、たとえ時代や人種が違っても変わらないはず。
だから、お子さんの姿勢や動きだけでなく学習や対人面の苦手さについても、その原因が発達の順番をスキップしているからではないかと、遊びの中で動きを丁寧に観察しています。
もう一つは、子どもの身体は、自分が発達する遊びを知っているということ。だから、砂場遊びがやめられない子どもは、砂のサラサラや運ぶときのズシリなどの肌触りや重さの感覚刺激が、その子の身体が発達するにあたって必要なのではないかと考えています。
言い換えると、子どもの体を信じるということ。身体が必要としている刺激だからこそ、本人が楽しいと思って取り組めるという考え方をすごく大事にしています。
親が子どもの伸び代に気付けると子どもへの接し方が変わる
藤樫:家庭での取り組みの効果は大きいのでしょうか?
タツヤさん:経験的に感じるのは、支援者に委ねたいご家族よりも、できることに取り組もうとするご家族のほうが、成果が早い傾向にあります。なぜなら、親が子どもの伸び代に気付けると子どもへの接し方が変わり、子どもも何度も怒られていた劣等感を手放せるようになるからです。
例えば、姿勢が崩れやすい子は、子どもの態度が悪いのではなく、身体に伸び代があると考えれば、注意だけでは改善しないことが見えてくる。だから「何度言ったら分かるの!」と注意に使っていたエネルギーを、親子で楽しく遊ぶことに向けて、結果として姿勢を保てるようになるのです。
藤樫:以前、タツヤさんが「手が震えている人にそっと手を添えてあげる感覚」とおっしゃっていたのを思い出しました。立ち歩く子に「座りなさい!」というのは、「花粉症のくしゃみを止めろ!」と言っているような感じ・・・と考えると、大人の見方が変わりますね。
タツヤさん:立ち歩く子に「座っていなさい」と指導するのは、まだボールを蹴れない子にサッカーの戦術を教えるようなもの。もちろん、「立ち歩かない場面」を伝えることも必要だけれど、「なぜ、立ち歩いてしまうのか」を理解して、その原因にアプローチすることが大切です。
同じ様に、発達の順番を考えるとボディイメージが未熟で見えない背中側を想像できない子に、相手の立場に立って考えなさいというのもまだ早いように感じます。
その子の「身体が理解できない状態」を大人が「理解できない状態」なら、大人が先に見方を広げて、新しい手立てに取り組んでいくお手本になることは、子どもたちができないことにチャレンジすることに必ずつながっていくはずです。
(インタビュー前編終了)
次回の後編では、わが家の具体的な取り組みについてお伝えします。
学校法人藤樫学園矢切幼稚園理事。玉川大学文学部外国語学科英語専攻卒業。米国ニューハンプシャー州 Plymouth State University K-12 Education、Adventure Education 修士課程修了。大学卒業後は米国に留学し、アドベンチャー教育を専門に学ぶ。帰国後、玉川大学学術研究所「心の教育実践センター」で、 大学助手として、体験学習プログラムの実践・開発・研究に携わる。学校教育プログラム、社会教育プログラム、企業研修、教員研修など様々な領域をフィールドとし活動。現在は、矢切幼稚園で主事を務める傍ら、アドベンチャー教育のファシリテーターとして、チームビルディングやリーダーシップ研修などの活動を行っている。