「発達⽀援が必要なすべての人が、⾃分らしく学び、希望をもって生きていける社会をともに実現すること」をミッションに活動している、特定非営利活動法人ADDS(以下、ADDS)。
ADDSは2009年の設立以来、主に発達障害のあるお子さんを対象に「応用行動分析」(以下、ABA)という手法を軸にした、科学的根拠に基づく発達支援を行っています。
ご家族がお子さんの発達支援の「実践者」となり「専門家」となれるよう、親子向けの療育プログラムを提供している他、オンライン発達相談サービス「kikotto」の運営、発達支援の実践者である「セラピスト」の養成などに取り組んでいます。
2022年4月に、ADDSの共同代表である⽵内⼸乃さん、熊仁美さんの共著「『できる』が増える!『困った行動』が減る!発達障害の子への言葉かけ事典」が出版されました。この本は、発達障害があるお子さんはもちろん、発達障害と診断されていないお子さんにとっても、よりよい発達を支援できるような考え方や関わり方が盛り込まれた内容になっています。
このたび、著者である竹内さん、熊さんにインタビューを行いました。出版に至った経緯はもちろんのこと、ABAという手法・考え方について、より理解が深まる内容をお話していただきました。
竹内 弓乃(たけうち ゆの)/写真左
特定非営利活動法人ADDS共同代表/臨床心理士/公認心理師
2007年慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業、同大学大学院社会学研究科心理学専攻修士課程修了、横浜国立大学大学院学校教育臨床専攻臨床心理学コース修士課程修了。ある自閉症児とその家族との出会いをきっかけに学生セラピストの活動を始め、大学院にて臨床研究を重ねる傍ら、2009年ADDS設立。親子向け療育プログラムや支援者研修プログラム、事業者向けカリキュラム構成システムの開発などに携わる。国立研究開発法人科学技術振興機構社会技術研究開発事業(JST-RISTEX)「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(SOLVE for SDGs)」プログラムアドバイザー。NHK「でこぼこポン!」番組委員。
熊 仁美(くま ひとみ)/写真右
特定非営利活動法人ADDS共同代表/博士(心理学)/公認心理師/日本女子大学講師/慶應義塾大学非常勤講師/法政大学兼任講師ほか
2007年慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業、同大学大学院社会学研究科心理学専攻博士課程修了、博士(心理学)。自閉症児の家庭療育をサポートする学生団体から活動を始め、2009年ADDSを設立。保護者支援や発達支援プログラムの開発と効果検証を行う。近年は、国立研究開発法人科学技術振興機構採択の研究プロジェクト代表者として、ABAに基づく早期発達支援の社会実装や科学技術の活用研究に取り組むなど、精力的に活動している。
適切な行動に目を向けて、たくさん認めて褒めていく
-まず初めに、ADDSさんの支援の特徴である「ABA」に基づいたアプローチについて、簡単にお話いただけますか。
熊:発達の特性があるお子さんを育てていく中で、その子がかんしゃくを起こしたり、物を投げたりなど、困りごとが起きることがあると思うんですね。その原因を子ども本人に求めず、環境へ求めていくという点が一番大事なポイントです。困りごとは、お子さんのせいでも、発達障害のせいでもありません。
お子さんの行動について、その行動の前にどのようなきっかけがあったのか、行動の結果どのようなできごとが起きているのか、行動の前後を客観的に丁寧に見ていくと、いろんなことがわかります。
たとえば、ただ泣き叫んでいるように見えたお子さんが、泣き叫んだ結果、周囲から慰めてもらったり、注目されたりすることが実はご褒美のようになっていて、泣き叫ぶ行動が増えてしまっていた…と、わかることがあります。
それをやめさせようとか、泣き叫ぶのはダメなことだよと伝えるのではなく、泣き叫ぶ以外の表現方法をお子さんに伝えたり、苦手なことや嫌なことを楽しくできる方法がないかと工夫したりすることで、結果的にお子さんが変わっていきますよ、という考え方がベースとなっています。
(特定非営利活動法人ADDS共同代表・熊仁美さん)
竹内:たとえばお子さんが机の上にあがって騒いで大変…ということがあったとしても、24時間ずっと机の上でそうしているかというとそうではないですよね。よく観察していると、適切な行動をしている時間も絶対にあります。
適切な行動に注目をして、たくさん認めて褒めてあげて、その行動を増やしていこうという、常にポジティブな所に目を向けるというアプローチは、ABAのいいところだと思います。
困ったときに「今何をすればいいか」を逆引きできるような本に
-発達障害のお子さんはもちろん、発達障害ではないお子さんにとってもすごく大切なアプローチですね。本書は、どのようなきっかけで出版することになったのでしょうか。
熊:2021年6月にAERAという雑誌で「発達障害特集」があり、その特集でADDSを取り上げてもらいました。その特集を読みました、と大和出版の編集者さんからご連絡があり、本を書かせていただくことになりました。
法人で発達支援をするときは、目的とする課題(ターゲット)が600程度もあるカリキュラムを開発し、それをベースにお子さんへ発達支援を提供するのですが、困りごとを抱えている方が「今、何をすればいいのか」を逆引きできるような本が求められていると提案していただき、こういった事典のような形の本になりました。
-全部を読まなくても、自分が知りたい箇所を選んで読める形になっていますね。
竹内:「方法が一つじゃないことを伝えたい」ということは、編集者さんもくりかえし言っていました。お子さんは一人ひとり特徴が違うので、一つのいい方法だけが書いてあってもうまくいかないこともあり、あれ?うちの子には合っていないのかな?となってしまいます。
Aという方法がだめでもBがあり、BがだめでもCをやってみようという、たくさん選択肢があることをもっとたくさんの人に伝えたいと、編集者さんと話しながら作りました。
他のABAの本と比べても、関わり方が超具体的に書いてある点が特徴ですね。
(特定非営利活動法人ADDS共同代表・竹内弓乃さん)
-一つひとつの支援も具体的で、さらにスモールステップに分けて書いてあるので、取り組みやすいと感じました。本書は特にどういった人に活用してほしいと思いますか。
熊:想定していた読者としてはやはり親御さんですね。家庭で具体的に実践できるような本にしたいなと。一つやってもうまくいかないことは絶対あるので、とにかく試してみて、ダメだったら次、ダメだったら次、とやっていけばいいんだよというメッセージを、本を通して伝えたいと思っていました。
保育園や幼稚園の先生、療育に関わる現場の支援者さんから、読んで勉強になったという声を寄せてもらうことも多く、結果的には支援者の方々にも手に取っていただけているのかなと感じています。
根気強い関わりで見られた、子どもの変化
-ABAに基づいたアプローチによって、実際にお子さんが変わっていく様子は感じられますか?
竹内:そうですね。いろんな変化が日々感じられます。ある現場のケースをお話しますね。出会ったときは人に対しての興味を全く示す様子がなく、目が合う瞬間もほとんどなく、どのように関わったらいいか…ととても悩んだお子さんがいました。
声をかけてもなかなか反応を引き出せず、でも本人的に何か不快なことがあると泣いてしまったりして、それに対してもどうしてあげたらいいのかわからない…という感じで、親御さんも同じように悩んでいらしたんですね。年齢が小さいお子さんだったからこそ、少しでも対人的な興味を育てていきたい、という思いがありました。
(NPO法人ADDS:療育プログラムの様子)
なのでその子がやることなすことを見守りながら、全部ナレーションと、あとは大人がまねをしていったんです。「あ、こうやってやったね。とんとんとんってやったね。あれ?今度はブーブーをさわるのかな?…と思ったらさわらない!」という感じで。その子のそばでナレーションしたり、まねをしたりということを、他のセラピスト含めずっとやっていたんですね。すごく根気のいる関わりでした。
ずっとやっていると、その子が「あれ?自分が何かやるとまわりが何か言ってくるな」「こう動かすと、こっちでも動かすな」と気づいて、ふっとこちらを見ることがあるんですね。見てくれたら「うわー!見てくれたの!」とたくさん褒めていました。
2~3か月ほど経って現場に行ったら、その子が私の顔を見てにこにこしてくれるようになっていたんです。他にも要求のサインが出てきたり、座って一緒に活動できるようになっていたりと、いろんな変化がありました。お子さんの行動を根気強く見て、こちらが反応を返して…と、適切な反応が出る環境を整えていくと、やっぱり子どもは変わるんだなとよく見えたケースでした。
Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
「できる」が増える!「困った行動」が減る! 発達障害の子への言葉かけ事典
療育現場や親御さんの間で、絶大な効果があると今、大評判!画期的方法論ABA(応用行動分析学)をもとに、その子の特性に合わせた教え方、伝え方を大公開!
本書ではこのABAをもとに、様々な声かけやアイデアをご紹介していきます。著者の2人は、これまで約20年にわたり、現場で実際に取り組み培ってきたプロ中のプロ。あらゆる状況を想定した、そのノウハウはどれも説得力があるものであり、かつ、効果があるものばかりです。