特別支援発達障害

子どもたちにエビデンスに基づいた特別支援教育を!②-いじめや学級崩壊を防ぐ「スクールワイドPBS」を日本初導入

徳島県では、「徳島発!発達障がい等『とくしま支援モデル』」に取り組み、全国のモデルになりうる先端的な特別支援教育のモデルを作り上げつつあります。前編に引き続き、事業の中核を担う徳島県立総合教育センター特別支援・相談課班長の田中清章先生にインタビューをさせて頂きました。

1.全国に先駆けたスクールワイドPBSの成果

:県として、日本で初めて通常学級へ「スクールワイドPBS」(School-wide Positive Behavior Support)の導入が開始されたのは、すごいニュースでした。アメリカで開発され、いじめや学級崩壊の減少などに大きな成果を上げている取り組みですよね。

田中:はい、畿央大学の大久保賢一先生に入っていただき、まずはモデル校として「東みよし町立加茂小学校」に取り組んで頂いています。かなり成果が出ていて、子どもたちの変化に私自身も驚いています。

いじめや学級崩壊を防ぐ「スクールワイドPBS」

:実際には、どういった成果があがっているのですか?

田中:加茂小学校では、「①きまりを守ろう、②自分も友だちも大切にしよう、③すてきなことばをかけよう」という「3つのたいせつ」を決めて頂き、全教職員と子どもたちが共有している状態です。

それを軸に、「具体的にどんな行動が目標になるのか?」を学校全体で見える化して教えていきます。ポイントは、「記録を取って、子どもたちにもフィードバックすること」「徹底的にほめること」です。

島宗先生のブログに詳しく解説をしてくださっているのですが、「あったかことばでお友達のよいところを見つけて褒める」という行動が増加したり、「チャイムがなるまでには自分の席に座る」、「登校時に挨拶する」、「朝礼でてきぱきと整列する」などの学校目標が改善したり、明らかな成果が示されています。

学校目標の結果を廊下で眺めている児童たち(学校目標の結果を廊下で眺めている児童たち)

:見学に行きたいです!ちょっと大変そうですが、現場の先生のアンケートで「負担が減った」と書かれているのも印象的です。

田中:スペシャルニーズがあるお子さんだけでなく「すべての児童生徒」を対象とすることで「問題の解決」だけでなく「問題の予防」に積極的に取り組めるところが良いですね。結果的にイレギュラーな対応が減ります。

この取り組みはまだモデル作りの段階ですが、これからマニュアルをつくって、30年度から研修などを組んで広く普及していこうと考えています。

:他の学校でも「導入したい!」という場合に、参考になる資料も提供してくださっていますよね。太っ腹です。

田中:はい、パンフレットや記録用紙などは、ダウンロードできるようになっていますので、ぜひ、活用していただきたいです。

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2.スゴい専門家を巻き込んで離さないとくしま力

:「とくしま支援モデル」には、全国の専門家が関わっていらっしゃいますよね。

2015年に設置された「発達障がい教育・自立促進アドバイザーチーム」のそうそうたる顔ぶれはびっくりさせられます。法政大学の島宗理先生、子育てブラックジャックの異名を持つ行動コーチングアカデミーの奥田健次先生、畿央大学の大久保賢一先生など、専門性と実績のある有名な先生ばかりです。

1つの県の事業にこれだけの専門家を集められたことに驚きます。

田中:本当にありがたいことで、専門家の先生方には頭が上がりません。発端は、島宗先生が鳴門教育大にいらっしゃったことで、そこから事業の根っこが始まったと思います。

:島宗先生と田中先生の出会いから、徳島ABA研究会が始まって、実は10年以上のストーリーがありますよね。そのあたりルーツは、後編で深く掘り下げさせて頂く予定です。専門家の先生方の役割はどのように考えていらっしゃいますか?

田中:現状は、ざっくりとですが役割を分けてチームを構成しています。

組織マネジメントがご専門でいらっしゃる島宗先生には、この事業全体のスーパーバイズをお願いしており、現場の先生方の行動やモチベーションを維持する様々な仕掛けを作っていただいています。事例研究型のコンサルテーションや成果発表会なども、その1つです。

奥田先生には、特に行動障害など困難事例の対応を、大久保先生には、通常学級の子どもたちの支援を、といった感じです。

:「いろんな専門家が入ると、調整が大変なのでは?」と思うこともありますが、徳島ではそういう感じはないですよね。田中先生にとって、専門家の役割ってなんでしょうか?

田中:とにかく、専門性や最新の知見を現場におろしていただくことです。

例えば、科学的なエビデンスがベースにある行動の見方を教えて下さることは重要なのですが、理論先行で現場が疲弊してしまうと、結局やりきることが出来ず、広がりません。必要以上の負荷をかけない記録の取り方など、現場が成功体験をつめるようにアレンジして、おろしてくれる方にお願いをしています。

あとは、主観的な指標で成果を測るのではなくて、行動面の変化など客観的な指標で成果を出して下さる方、というのも重要な条件です。

:求める成果の定義がはっきりしていて、専門家も現場もそれを共有できているから、混乱がないのですね。先生方とは、どのように繋がりを作られたのですか?

田中:信頼できる専門家に紹介していただくことが多いですが、まずは単発の研修会などをお願いしたり、私自身が学会発表を聞きに行ってそこで出されているデータを見たり、本を読んだりして、現場が求める成果にコミットしてくださる方かを判断の軸にしています。

とにかく結果にコミットして下さる方であれば、遠方からでもお願いして来ていただいています。逆に言うと、そう確信できる方でないと、どんなに近くてもお願いしていません。本当に少ない予算で成果を出さないといけないので、なんとなくの理由では選べないですね。

:専門家のコミットの長さ、深さが圧倒的で、当事者として事業に取り組まれていますよね。私自身、徳島のファンになり、記事まで書きたくなってしまって、良い意味で巻き込まれました。その秘訣はなんでしょうか?

田中:なぜでしょう?(笑)本当にありがたいことで、先生方には感謝してもしきれません。現場に年数回入っていただくほか、掲示板で現場の先生へ直接フィードバックなどもお願いしています。

例えば、スクールワイドPBSの開発掲示板では、年間に300回以上のやりとりがありますし、大変なことをお願いしていると思います。みなさんおっしゃるのは、「2回目のコンサルテーションで、きちんとデータがあり、結果が目に見えて出ているのは徳島だけです」ということです。

結果にコミットを徹底してお願いすることが、専門家の方々のやりがいや喜びにも繋がっているのではないかとは思います。これは現場の先生方も同様で、やったことの結果がちゃんと子どもたちの変化や成長で返ってくるので、「少し大変だけどやってみよう」と感じてくださるのだと思います。

3.予算をかき集めるのは指導主事の役割

:ここまで色々な事業を積極的にやっていらっしゃって、「予算が潤沢なのかなぁ?」と思ってしまうのですが。

田中:そんなことはないですよ!特別支援教育課は、予算が足りなくて困っています。課長の最近の口癖は、「お金がない課だからこそ尖ったことをやらんと!」です。県予算だけでは到底できないため、文科省の予算を積極的にとってくるようにしています。

:そんな仕組みがあるんですね。どこも予算の確保に苦労していると思いますが、何か特別な努力をされているのですか?

田中:そうですね、特別支援教育課は国費事業の活用もできている方だとは思います。文科省の事業は、計画書の作成や報告など、事務処理など大変な面も多いので、取りに行かない所も多いです。

うちは昔から積極的に「取りにいけ!」という姿勢の課長が多かったので、指導主事が予算を取りに行くノウハウや文化が根付いているかもしれません。皆、労力をさいてでもやるもの、という意識は高いです。

:鍵となるのは、指導主事の方々なのですね。確かに、出会った時は、田中先生も指導主事でいらっしゃいましたね。

田中:そうですね、指導主事の立場の人がやるかやらないか、その覚悟は本当に重要だと思います。同じことを他の県でやろうとした時に、まず問題になるのは予算です。指導主事が動ける状態か、お金を取りに行く姿勢があるかどうか、は大きいですね。

徳島は知事が発達障がいに力を入れているのも大きいです。予算も、きちんと成果が出ていないと、次年度に減らされたりするので、毎年新しい成果を積み上げるのに必死です。

:指導主事の先生方は、現場もそういった事務処理もなんでもやっていらっしゃって、大変にお忙しそうですが、裏にそのような努力があったとは、本当に頭が下がります。

次編では、応用行動分析はなぜ現場に浸透したか、ルーツは10年前「とくしまABA研究会」とは?、支援モデルが目指す徳島のみらいとは?、などをまとめていきます。

子どもたちにエビデンスに基づいた特別支援教育を!①-全国をリードする「とくしま支援モデル」とは?
近年、特別な支援を要する子どもの数は増加傾向にあり、学校現場でも、その対応が急務な課題となっています。そんな中、全国で先端的な特別支援教育のモデルを作り上げようとしている県があります。それが徳島県です。事業の中核を担う、徳島県立総合教育センターの田中清章先生へのインタビューを通して、徳島県の取り組みをご紹介していきます。
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子どもたちにエビデンスに基づいた特別支援教育を!④-全てのはじまりは、教員10人の小さな研究会だった
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Author:熊仁美
NPO法人ADDS共同代表、慶應義塾大学社会学研究科訪問研究員・博士(心理学)慶應義塾大学大学院心理学専攻博士課程修了。
専門領域:応用行動分析、前言語期コミュニケーション、発達心理学に基づく発達障害児の早期療育、ペアレントトレーニング、療育と育児ストレスとの関連、人材育成プログラム開発など
保護者が家庭でできる療育プログラムの研究開発と効果検証を進め、28年度科学技術振興機構研究開発成果実装支援プログラムに最年少で採択。「エビデンスに基づいて保護者とともに取り組む発達障害児の早期療育モデル」の責任者として全国で療育モデルの実装に取り組む。
著書:「できる」が増える!「困った行動」が減る! 発達障害の子への言葉かけ事典

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