発達障害

コロナ禍に必要な発達障害の子どもと親の支援とは?-家庭状況に応じた支援ができる柔軟な制度運用の継続を

外出自粛が続く状況で、誰もがストレスを感じやすい日々が続きました。特に発達障害のある子どもたちにとっては、決まったリズムやルーティーンが崩れることは大きな負担になりやすく、それを支えるご家族も経験したことのない状況に戸惑いが大きかったことでしょう。「withコロナ」の時代がしばらく続く中で、発達障害の子どもやそのご家族への支援はどうあるべきなのでしょうか。

新型コロナウィルスの影響で、当たり前の日常が大きく変わったこの数カ月。これまで発達障害あるいはその疑いのあるお子さんとその保護者向けの療育プログラムなどに取り組んできた当法人も、この数カ月、オンライン療育の提供や、自治体の相談窓口の運営、STAY HOMEヒント集の発行などに奔走してきました。

少し落ち着いてきたものの、いまだ日常を取り戻せずにいる人は多いことでしょう。この記事では、そんな状況で発達障害の子どもたちやそのご家族がどう過ごしていたのかを考えながら、「with コロナ時代」の新しい支援の在り方について、考えていきたいと思います。

子どもと先生

発達障害の特性×コロナ渦のしんどさ

障害の有無に関わらず、外出ができないあの日々に、様々な不自由さやストレスを感じた方は多いはずです。私自身も様々な制限下での在宅勤務や子育ての両立に、「しんどかった、、、出来れば二度と戻りたくない」と感じます。ましてや、発達障害のあるお子さんやそのご家族は、どのように過ごされていたのでしょうか?メディアでは、以下のように報じられていました。

発達障害の子どもたちは、決まったリズムやルーティンで過ごすことを好むことが多く、それらが崩れることは大きな負担になります。また、活動や遊びのレパートリーが少ないことも多く、外出できない日々をどう過ごすか、親子共に、非常に難しいことだったと思います。私たちのもとにも、

「睡眠リズムが崩れて、親子とも疲弊している」

「癇癪がひどく、子どもに暴力をふるってしまいそう」

といった悲痛な声が届きました。

「障害特性×コロナ」のような社会的危機がかけ合わさる状況は、当事者や、保護者に対して、特性に十分配慮した施策が望まれます。実際にフランスでは、マクロン大統領が、自閉症児者の特性に配慮し、自閉症の人と付き添い人を対象に特別な証明書を発行し、外出制限を緩和することを発表しました。

当法人が公開した「発達障害のある子のSTAY HOME ヒント集」もたくさんのダウンロードをして頂きました。障害特性に配慮しながらどう自粛生活を乗り切るか、今後のヒントにして頂けると大変うれしく思います。

発達障害のある子のSTAY HOME ヒント集

支援や教育、相談の機会の損失

コロナ渦では、支援や教育、相談の機会の損失も、非常に大きな課題でした。

例えば学校の休校。発達障害の子どもがいる保護者に対する「新型コロナウイルスによる休校措置についてのアンケート」(LITALICO発達ナビ)によると、休校中の保護者の困りごと第1位は、「お子さんの学びの機会の損失」でした。

乳幼児健診の停止や、様々な教育・福祉の受け皿の縮小、自粛呼びかけなどもあり、多くの社会的インフラが機能不全に陥りました。様々な支援の手や目が届きにくい状況に、不安を感じる親御さんは多く、様々な声が届きました。

「乳幼児健診がなくなったけど実は発達が心配」

「せっかく成長を感じていたのに、療育がストップしてしまって不安」

「相談したいけど、窓口がしまっていて、いつまで待てばいいか分からない」

感染リスクとの隣り合わせの中、相談や支援を受けることに、余計に足踏みをしてしまう親御さんは多かったと思います。以前からあった社会課題が、この状況下で一気に表面化し、当事者へのしわ寄せとなって押し寄せたともいえるでしょう。

対応が早かった厚労省。非対面型・オンライン支援の可能性

今回、良いニュースもありました。当法人は、児童福祉法に基づく児童発達支援事業所を運営していますが、コロナ渦の厚労省の対応はとてもすばやく、支援の制度を柔軟に解釈し、規制を緩和して運用することができるようになりました。危機的状況下で、親子への支援を途切れさせないための後押しをして頂けたと強く感じています。

多少、自治体によって通知の解釈は異なりましたが、家庭訪問や非対面型支援(電話やWEB会議システムを活用した支援)が報酬算定の対象となった地域は多く、当法人でもはやくからオンライン相談・療育で親子とのつながり、支援をつなぎ続けることができました。もちろん、本来は対面でできるのに越したことはないですが、今回のような社会的危機においては、通所しなくても受けられる支援が重要であることは間違いありません。

現在も、この規制緩和の状態は継続しており、「また危機的状況に陥っても、多様な支援を用意できる準備状態にある」と感じられることが、本当に心強いです。

厚生労働省:新型コロナウイルス感染症に係る障害福祉サービス等事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて

NPO法人ADDS:AI-PACシステムを利用した保護者向けオンラインコンサルテーションの様子(NPO法人ADDS:AI-PACシステムを利用した保護者向けオンラインコンサルテーションの様子)

コロナ前には戻らない。危機に強い社会的インフラの整備を

コロナ渦を通じ、オンラインなども含めて多様なアプローチを駆使して支援できるということが、当たり前の世の中になることの重要性を痛感しました。コロナ渦で多くの人が経験した不自由さは、普段から弱い立場にいる人々が当たり前に感じていることとも、共通しているからです。

例えば、親御さんご自身のご病気やご事情により、通所が負担である方。共働きや、ひとり親家庭で、平日の日中はなかなかサービスが利用できない方。離島などで、支援資源自体が少ない方。多胎家庭で、出かけること自体が大変な方など。

家庭のありかたが多様化しているからこそ、通所だけでなく、電話やオンラインの相談・療育など、多様なサービスを選択できる社会になれば、制度の恩恵をうけられる人は増えていくでしょう。

今、懸念していることは、コロナ収束に伴い、コロナ前の通所型ベースの状況に逆戻りしてしまうことです。せっかく制度の柔軟な運用を行ったわけですから、成果や課題点を洗い出し、ぜひ、今後の施策に活かして頂きたいと強く願います。それが、様々な危機に強い、しなやかな社会的インフラとなっていくはずです。

筆者にとって、コロナ渦は、危機においても発達障害の親子を支えられる社会づくりを考える大きなきっかけとなりました。同じ痛みを繰り返さないために、社会全体の在り方を考えるきっかけとしても、重要な意味をもたせられることを願いつつ、出来ることをすこしでも積み上げていきたいと思っています。

Author:熊仁美
NPO法人ADDS共同代表、慶應義塾大学社会学研究科訪問研究員・博士(心理学)慶應義塾大学大学院心理学専攻博士課程修了。
専門領域:応用行動分析、前言語期コミュニケーション、発達心理学に基づく発達障害児の早期療育、ペアレントトレーニング、療育と育児ストレスとの関連、人材育成プログラム開発など
保護者が家庭でできる療育プログラムの研究開発と効果検証を進め、28年度科学技術振興機構研究開発成果実装支援プログラムに最年少で採択。「エビデンスに基づいて保護者とともに取り組む発達障害児の早期療育モデル」の責任者として全国で療育モデルの実装に取り組む。
著書:「できる」が増える!「困った行動」が減る! 発達障害の子への言葉かけ事典

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