小学校の音楽の思い出。
音楽室に集まって、歌を歌ったり、リコーダーや鍵盤ハーモニカなどを練習したり、色々な楽器を使ってみんなで演奏をしたり。
誰しもが、そんな経験をしているのではないでしょうか。
そんな音楽の授業風景が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、これから大きく変わるかもしれない状況に来ています。
まずは休校期間が終わり、学校が再開できるかどうか。そして、再開した後は、多くの子どもたちが安全な学校生活を送るために、先生たちには様々な配慮が求められることが予想されます。
第1回目(新任教員が感じる焦りと不安。今は授業の準備に注力。)に引き続き、今回は小学校の音楽の先生にインタビューを行ないました。
専科教諭という立場で、学校や子どものことについて、Bさん(東京都内・公立小学校勤務・音楽専科)にお話をうかがいました。
子どもが休校を知ったのは、金曜日の5時間目
編集部:2月末に一斉休校の要請が出されましたが、その時、どう感じましたか?
Bさん:4月初めの緊急事態宣言みたいに、「出るかもしれない…」という事前の予告のようなものが全くなく、突然の要請だったので、職員室では大騒ぎしていました。
編集部:木曜の夜に衝撃が走りましたよね…。
Bさん:金曜日の朝の時点では区として、学校としての決定はまだだったので、その日の午前中は普通に過ごしてしまいました。
「もしかしたら卒業式ができないかもしれない」ということは思っていたので、「6年生を送る会」だけは急きょ実施しましたが。
子どもの昼休みを延ばして職員会議を実施し、そこで正式に翌週からの休校決定が伝えられました。なので子どもに伝えられたのは、5時間目でした。
編集部:子どもたちの様子は、どうでしたか?
Bさん:クラス替えがあるとわかっている学年の子は、泣いている子も多かったですね。6年生は悲しいを通り越して、なんだかぽかーんとしている様子でした。
卒業式の練習もこれから…という時期だったので、とりあえず卒業式で言う言葉を印刷して「練習しておいてね!」という感じで配って。名残惜しむこともできず、あわただしく金曜日が過ぎました。
「かわいそうな6年生」にしたくない
編集部:1日で休校の準備せよ、は無理がありますよね…。その後、卒業式は実施したのですか?
Bさん:実施しました。6年生には当日と、前日だけ短い時間で登校してもらって。練習時間もほとんどなかったので、先生たちのフォローが必要でしたが。
でも、「こんな形になって残念だったね…」と送ることはしたくないと、教員間でも話していたんです。
今年の6年生って世間からも「かわいそうだね」と言われがちじゃないですか。でもそれで「自分たちはかわいそうだったんだな」と思ってほしくない。
きちんと一人ひとりに「おめでとう」と言って送ってあげたい。そう思って先生たちで準備を重ね、卒業式に臨みました。
編集部:そんな先生たちに見送られて巣立っていった6年生は幸せですね。
家庭と連絡がとれないと、子どもの様子がわからない
編集部:行事の準備以外だと、先生たちは今どのようなお仕事をされているのですか?
Bさん:週に1回は、担任から家に電話をしています。健康観察という名目で、子どもの様子や保護者の様子を確認したり。あとは、学区域を当番制でまわっています。
緊急事態宣言以降は、感染リスクを下げるため、学年や専科ごとに出勤する日が決められて、その日にしか出勤できないことになっています。その出勤した日に学年で打ち合わせをしたり、電話や見回りをしたり、という感じですね。
あとは在宅勤務です。教材研究をしたり、先の行事の準備で進められそうなところは進めたりしています。
編集部:電話や見回りをする中で、子どもや保護者さんはどのような様子ですか?
Bさん:そもそも、電話がつながらない家庭もあって。留守電機能をつけていない電話も多いので、つながらないと全く連絡がとれない状態です。
こういった状況になる前から、少々ネグレクトに近いような家庭もあったり、給食で食いつないでいるような子もいました。なので、どうしているのか…と心配になります。学校側でも、関係機関と連携してどういったサポートをしていくか検討しています。
編集部:なるほど…。連絡がとれないというのは一番心配ですね。
子どもは今、どう過ごしているのか
編集部:子どもたちについて、今、何か気がかりなことはありますか?
Bさん:生活習慣のことを、とても気にしています。学習のことも心配ではありますが、ちょっとずつ詰めて後ろ倒しにしていけば、いつかは取り戻せるのかなと。
でも、一度良くない生活習慣が身についてしまうと、元に戻るのに時間がかかる。朝起きられないとか、午前中は眠くて勉強にならない…など。
編集部:夏休み明けも、生活習慣がくずれてしまう子は多いですか?
Bさん:そうですね…夏休みも同じといえば同じなのですが、夏休みそのものが年間の決められた時期に位置付けられていて、それも含めて子どもの中で習慣になっているので、あまり大きな問題にはなっていないです。
今は学校がいつ始まるのかもわからないし、外に行くこともできない。その中で崩れてしまった生活習慣を、立て直していけるのか…と心配ですね。
編集部:生活習慣は日々の積みかさねですもんね。
制約のある中で、授業をどう工夫するか
編集部:次に、休校が明けてからのことなのですが、今の時点で心配していることってありますか?
Bさん:感染予防を防ぐためのガイドラインが東京都教育委員会から来ていましたが、それに基づくことで、授業の中での制約がどれだけ出てくるのか、心配しています。
グループ学習などの方法を取り入れてる教科もありますが、机を寄せて相談する形はだめだから、先生対子どもの一斉授業しかできなくなるのかなあ…とか。
あとは、授業で気をつけていても、休み時間はどうした方がいいんだろう…?と。休み時間で接触しては意味がないし、かといってずっと制限をするのも、子どものストレスになってしまう。
編集部:集団生活で接触を避けるのはなかなか難しいですよね。Bさんは音楽の先生ですが、音楽の授業では制約によってどのような影響が出てきそうでしょうか。
Bさん:3密を避けるとなると、歌は歌えないですよね。あと、楽器を扱う単元もありますが、たとえばリコーダーや鍵盤ハーモニカなどの吹く楽器もできない。
編集部:なるほど、確かに。でも音楽の授業で歌う、吹くができなくなる可能性があるというのは、何とももどかしい…。その中でどのように工夫しようと考えていますか?
Bさん:できないことは仕方がないので、その中でもどうにかやるしかないと思っています。たとえば、鑑賞の単元を他の単元よりも先にもってくる。吹く楽器がだめなら、打楽器や鍵盤楽器でやってみる、とか。
どうして今このような授業になっているのか、子どもにもきちんと理由を説明します。その上で、先生もがんばって工夫するからね、と伝えていきたいです。
できることの中で最善を尽くす
編集部:できることを探す。すごく大事な姿勢ですね。最後に、Bさんは「先生」という仕事に対してどのように臨んでいきたいですか?
Bさん:最善を尽くしたいと思っています。そもそも学校はいつもと違うことは苦手だし、先生たちも自分の裁量で動けないところは多いですが。
卒業式の時と同じで、「子どもたち、かわいそう…」じゃなくて、できることの中で、子どものために最善を尽くしたいと、そう思っています。
編集部:子どもたちにもその姿勢、きっと伝わります。Bさん、ありがとうございました。
Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。