中等教育保育・幼児教育

課題先進地から教育先進地へ!全国から子どもや若者が集う離島とは?(後編)-「島留学」を推進!未就学児から高校生まで島全体が学びの場に!

島根県隠岐島前。日本で最も過疎が進んでいる島根県の、さらに離島であるこの地域は、少子化・過疎化・高齢化など、日本の多くの地域がこれから直面していく課題を先取りしている地域、いわゆる「課題先進地」です。しかし今、この地域は、教育を魅力化することで島の再興を図る取り組みによって、全国から注目を集めています。

今回の記事では、2月6日~8日で3日間で行われた教育視察ツアー「EDUTRIP in 島根・隠岐」をレポートします。前編では、「教育魅力化プロジェクト」の概要、知夫村立知夫小中学校での総合学習「ふるさと教育」についてお伝えしました。後編の記事では、前編に引き続き「教育魅力化プロジェクト」の具体的な取り組みをお伝えします。

EDUTRIP in 島根・隠岐

島外から通う「島留学生」を地域全体で支える

知夫村立知夫小中学校では、授業見学や学校施設見学もさせていただきました。

学校図書館は、地域の方々にも開放されていて、誰でも利用することができます。小さいお子さんが遊べるスペースやほっと一息お茶を飲めるスペース、寝っ転がれるスペースなどありつつ、地域交流の場となっているとのことで、とてもリラックスできる空間だと感じました。時々イベントなども行われるそうです。

知夫村立知夫小中学校

島前高校と同様、知夫小中学校にも、島外からの「島留学生」が通っています。現在は小6~中3の6名。みんな寮生活です。1年間を基本として知夫の学校に在籍します。

寮には、ハウスマスターと言われる大人たちがいて、親元を離れて過ごしている子どもたちが安心して暮らせるようサポートするとともに、島留学中に彼ら彼女らがいろんな経験をできるように促すのが役割です。ハウスマスターは現在4人。実際に寮を訪れ、見学もさせてもらいました。

膨大な時間を費やしながら、役場職員や教育関係者、保護者など、様々な立場の人たちが一緒になって島留学の取り組みを進めていることに、知夫村の人たちの、教育魅力化、そして地域に対する熱い想いを感じました。

島留学生の寮

高校生を対象としたキャリア教育の独自授業「夢ゼミ」

フェリーで海士町に戻り、夜は、学習センターにて行われている「夢ゼミ」に参加しました。これは、高校生が自分自身を振り返ったり、様々な大人と出会い、その人たちと話す時間を通して、自分を知る・見つめることができる、独自のキャリア教育の授業です。私たちが参加させてもらったこの日は、今年度7回目の夢ゼミということで、中身はこんなふうに進んでいきました。

●ここまでの振り返り。(過去6回にやってきたことを確認)

●今日すること・テーマの説明。(この日のテーマは「行動にうつしてみる」でした)

●名刺づくり|名前+興味あること、悩み、趣味を紙に書く。
我々大人たちも、名前+自分についての3つのキーワードを紙に書きます。
(職業や肩書きは書かないで、好きなものや最近の悩み、大事にしていることなどを書く)

●名刺のキーワードを見て、心惹かれた人のところに高校生が行き、話をする。
※ここがメインです。

●その日の様子を即座にまとめたリフレクションムービー。

●全員で丸く輪になってチェックアウト。

メインのお話の部分では、もともとは20分ごとにメンバーを変えて、いろんな人と話す予定だったのですが、生徒からの提案で、「ずっと同じ人と話す」のでもOKになりました。同じ人と話し込んでいる生徒もいれば、いろんな人から話を聞いている子もいます。高校生も私たち大人も、本気で話す2時間はあっという間に終わり、部屋には熱気が溢れていました。

高校生を対象としたキャリア教育の独自授業「夢ゼミ」

「視察で訪れている大人と話して、自分の行動を始めよう」という励ましがある一方で、「今日はどうもそういう気分になれない」という生徒のために、パーテーションで区切られた静かになれるスペースも用意されており、「学び」が強制されていないところが印象的でした。

一人ひとりの生徒さんのことを、よく考えて見ているからこその、夢ゼミスタッフさんたちの進行の仕方からは学ぶものが多くありました。濃く長い一日でしたが、その分吸収できるものも多い2日目でした。

未就学児のための「お山の教室」

あっという間に最終日。朝食を済ませて宿を後にし、まずは「お山の教室」へ。ここは、NPO法人隠岐しぜんむらが教育委員会の委託を受け運営している「森のようちえん」です。平成26年に開園。対象は満3歳~就学前の子どもたちです。

海に囲まれ、山もある、周囲は自然いっぱいの隠岐島前地域。ですが、意外にも子どもたちが自然と触れ合う機会は少ないのだとか。それはもったいない、もっと自然の中で遊んでほしい。そんな保護者の声があり、自然体験会の形式でスタートしたのがお山の教室のはじまりです。

未就学児のための「お山の教室」

その後、しぜんむら、森のようちえんを希望する保護者、教育委員会、健康福祉課でほ半年以上かけて協議。そのプロセスメイクにおいては、島前高校の魅力化プロジェクトが始まった時のスタイルを参考にされたのだそうです。

今では、週1、週2、週5の3つのコースがあり、合わせて18人の子どもたちがお山の教室に通うようになりました。これは、島の子どもたち(対象年齢)の約3分の1に当たります。この4月からは週5コースのみになるのだそう。

島まるごとが遊び場!生きる根っこを育む!

ここでは子どもたちが自然をただ見るものとして捉えるのではなく、「遊びこむ」ことを大切にしながら、島をまるごと遊び場として自然の中で様々な経験をすることで「生きる根っこを育むこと」を目的としています。ドイツやデンマークで生まれた「森のようちえん」という幼児教育のスタイルは、日々場所を変えながら、森や自然の中に出かけて行って遊びつくすというもの。

お山の教室も、月ごとに海士町の色々な集落におでかけしています。

未就学児のための森のようちえん「お山の教室」

過疎によって、日常的には子どもの声を聞くことが少ない高齢者の人たちにとって、お山の教室の子どもたちが集落にやってくることは、子どもの元気に触れられる機会にもなっているのだそうです。また、お山の教室の存在は、この島の幼児期における「教育魅力化」に一役買っています。それで人口も増えているのだそうです。

どうすれば行政や地域から理解・支援を得られるか試行錯誤しながら「森のようちえん」のニーズを育ててこられたお話や、一日の始めと終わりに「今日何がしたいか」「どんな気持ちか」「何が楽しかったか」を子どもたちに投げかけ共有してもらう時間を設けているお話など、一時間半という短い時間にぎゅっと詰め込んでたくさんのお話をしてくださいました。

「大人は先生ではなく、見守り寄り添う人」と理事の前田さんが仰っていたことが心に残っています。

説明をしていただいた後は、森を歩きながら子どもたちの遊んでいる様子も見せていただき、島の豊かな自然を感じながら、お山の教室を後にしました。

いつでも自由に誰でも遊び来られる「あまマーレ」

そのあとは「あまマーレ 海士町のあそび場」に伺いました。ここは以前保育園だった場所をそのまま活用したコミュニティスペースです。

あまマーレ 海士町のあそび場

「いつでも自由に誰もが遊びに来られる場所」という通り、お子さん連れの方も安心して利用できる子ども部屋や遊戯室から、ワーキングルームや調理室、ちょっとしたセルフカフェコーナーも。

不要になったまだまだ使えるものたちを町の方々から回収しリサイクル販売しているお部屋(古道具屋さん)があったり、月に2、3回のペースでイベントも開催しています。各部屋を貸切予約することできます。温かみのある空間でした。

あまマーレを最後に、今回の視察先訪問は全て終了となりました。視察を終えた後は港に戻りこれまた美味しい昼食を食べ、いざ出港!

旅の終わりに

船が出るときには、海士町観光協会の方々やこの3日間大変お世話になった魅力化コーディネーターの方々が紙テープを持ってお見送りに来て下さり、私たちも島の皆さんの姿が見えなくなるまで大きく手を振りながらお別れをしました。

船の中では最後の振り返りとして、参加者の方それぞれに「旅が終わってから起こしたいアクション」「今後も考え続けたいこと」を発表してもらいました。3日間というとても短い期間ではありましたが、視察と参加者同士での振り返りワークを通して、それぞれスッキリ!と掴めたものや、新しく湧いてきたモヤモヤがあったようです。

EDUTRIP in 島根・隠岐

本土に戻り疲れを感じつつも、実際に行って見ることができて良かったなあと思える、良い旅でした。今回のツアーに参加してくださった皆さま、そして大変お世話になった海士町、知夫村の皆さま、本当にありがとうございました!

(レポート:石原光夏・中谷さつき、編集:武田緑)

Author:武田緑
人権教育・シティズンシップ教育・民主的な学びの場づくりをテーマに、企画や研修、執筆、現場サポート、教育運動づくりに取り組む。主な取り組みは、全国各地での教職員研修や国内外の教育現場を訪ねる視察ツアー「EDUTRIP」、多様な教育のあり方を体感できる教育の博覧会「エデュコレ」、立場を越えて教育について学び合うオンラインコミュニティ「エデュコレonline」、学校現場の声を世の中に届ける「School Voice Project」など。
著書に「読んで旅する、日本と世界の色とりどりの教育
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