初等教育中等教育

学校教員・教師の働き方改革を進めるために必要なこと-学校が何をしてくれるかではなく、学校のために何ができるか

教育現場における長時間労働の改善を目指すため、文部科学省は平成29年度に教育委員会へ「学校業務改善アドバイザー」の派遣を行いました。(平成29年度学校業務改善アドバイザー派遣事業)民間の立場からアドバイザーを務めている川島高之氏(NPO法人コヂカラ・ニッポン:理事長)から長時間労働の背景、業務改善の取り組みについて伺いました。

職員室

教職員を追い詰めている背景にある2つの精神

今や、「日本で最も多忙な業種」の一つが、学校の教師です。過労死ラインを超えて長時間労働をしている割合が、小学校の教職員で約6割、中学校だと7割以上と言われています。

多忙で人が集まらないと言われている飲食業ですら3割を切っている中、この割合は異常というか、緊急事態と言っても過言ではありません。結果、教師になりたい志望者が減り、現役教師らは疲れ切り、それはそのまま児童・生徒たちへ悪い影響を与えているのは言うまでもありません。

教職員を過労死寸前まで働かせている様々な要因

上図は、教職員を過労死寸前まで働かせている様々な要因ですが、その背景にあるのが「教育は神聖なるもの」「教師は自己犠牲」という2つの精神だと思います。

私は、三井物産系の上場会社の社長をしていた際に「職場の働き方改革」を徹底してやってきて、その経験を「イクボス」(部下の私生活にも配慮する上司)という概念を社会に広め、講演を全国で年間300回ほど行っています。

社長時代や講演歴訪で感じたのは、「我が社(自分)の業界では働き方改革は無理」「長時間労働で自己犠牲を払っても成果を出すべき」という2つのことを述べていた人が非常に多かったということです。

ここで言いたいのは、これらは「過去形」であるということです。つまり、多くの企業や自治体が「無理&自己犠牲」という考え方から、「なんとかしよう&自分と家族も大切に」に変わってきているということです。

2017年8月18日に「保護者の立場で考える!教員の長時間労働」フォーラムを行った(2017年8月18日に「保護者の立場で考える!教員の長時間労働」フォーラムを行った)

「土俵際」からの教師の働き方改革

さすがに文科省や教育委員会も、この危機的な状況に対して、本格的に改善策を打って出ています。例えば、部活動については、週に2日以上の休養日を設け、平日の活動時間は2時間以内という指針を出しました。

部活動の規制に対して、「部活動を好きでやっている教師だっているのに」「練習時間が減るとチームが弱くなる」「子ども達がかわいそう」と反対する人は、児童(生徒)の健康・安全に悪い、スポーツ科学の知見からは「長時間練習=上手」になるという図式が否定されている、生徒(児童)の学習時間や友達・家族との時間を奪っている、というような長時間(あるいは休みがほとんどない)練習のマイナス点をきちんと理解すべきです。

この部活動の規制を含め、文科省や教育委員会は「土俵際」だと思って、決死の覚悟で教師の働き方改革を進めて欲しい。

ある学校では、年間400本もの調査・報告書依頼が文科省や教育委員会からきているようです。それほどの調査・報告書が本当に必要なのだろか!?保護者や地域対応への対策として、留守番電話を入れるとかクレーム処理の窓口を作るとか、弁護士を共有化するなども必要です。

山積みの資料

「業務範囲の明確化」と「保護者の意識改革」

日本では、教師がやるべきでない仕事をやっており、過去から仕事が増えるだけで減りません。滅私奉公ではなく、学校や教師の業務範囲を明確化し、範囲外については保護者や地域に説明することも、やって良いと思います。

私は、PTA会長時代、「お祭りの見回りや週末イベントなどは、教師の仕事ではないので、我々保護者でやろう!」ということをいくつも挙げてきました。説明して納得すれば、保護者も動いてくれるものです。

学校内にも無駄な業務が多いと感じています。私は、会社の社長時代、無駄な会議や資料を徹底的に減らしてきましたが、学校でも毎朝の職員会議、そのための資料作り、毎日の学級ノート作成などが、本当に必要なのでしょうか?

職員室の雰囲気は、校長先生で左右します。学校にもイクボス上司が必要です。また、日本の公立の学校には、数百人の児童・生徒に対して事務員1人分の予算しかなく、組織を変えていくためには、一定の予算も必要です。

保護者の意識改革も必要です。「ハシの持ち方を子どもに教えてほしい」「なぜ、我が子が学芸会の主役にならないのか説明してくれ」「今のはミスジャッジで、うちのが一等賞だ」みたいな文句や過剰な要求を言う保護者も少なくありません。

一人のクレーマー対応で2時間も使ったり、メンタル不全になったりする教師の例も耳にします。前述したように、部活動時間の規制に反対している保護者も、考え直して欲しいものです。

クレーム

必要なのは経済対策よりも教育対策

教育は、世の中で最も大切な仕事です。次世代を担う子ども達に対して、人間性や道徳心を育むといった意味で教育がしっかりしていれば、犯罪が減り治安が良くなり、不登校やひきこもり、いじめなどの問題も減るでしょう。

AIが進化している中、「1+1=2」を覚えるより「問題解決能力」の方が重要です。グローバル人材になるためには「RとL」の発音練習をするより「多様性」を身に付ける方が大切です。優秀な人材が増えることで、企業も地域も国も豊かになっていきます。経済対策よりも教育対策なのです。

つまり、防犯、いじめ対応、福祉、経済対策などを一つ一つやるのと同時に、それらすべての根っこである教育を良質化したほうが効率的であることは言うまでもありません。

しかし、今、教育現場で過労死ラインを超えている教師が多数です。これは、黄色信号ではなく赤信号です。教育の質を高めるために早期にすべきことは、教育現場の環境を抜本的に改善することです。そのためには、国が教員の業務実態を国民に開示し、いかに危機的状況かを知らせ、教員の負担軽減を最優先に考えた骨太の政策を打ち出す必要があります。

さらに、それらを目や耳にした我々国民は、学校で起きている問題は我が子に直接的に影響する、子供がいない人にとっても老後に関わることだと認識すべきでしょう。国民全体が教師に対しもっと寛容な心を持ち、「過酷な環境で働いている先生たちを守ろう」「応援団になろう」と、国を挙げたムーブメントを起こすくらいになって欲しいです。

自分の人生を楽しんでいる親や先生は、子どもたちにプラスです。保護者や地域が一体となって先生のサポートをしていきましょう。学校が何をしてくれるかではなく、学校のために何ができるかにシフトさせていく必要があります。

Author:川島高之
1964年生まれ、1987年:慶応大学卒、三井物産に入社、2012年:系列上場会社の社長就任、「イクボス式経営」で利益8割増、時価総額2倍、残業1/4を達成。2016年:社長退任、フリーランサーとして独立。一方、小中学校のPTA会長(元)、少年野球コーチ、イクメンNPO「ファザーリング・ジャパン」理事、子ども教育NPO「コヂカラ・ニッポン」代表でもある。
子育てや家事(ライフ)、商社勤務や会社社長(ビジネス)、PTA会長やNPO代表(ソーシャル)という3つの経験を融合させた講演が年間300回以上。
NHK「クローズアップ現代」では「元祖イクボス」として特集され、AERA「日本を突破する100人」に選出、日経、朝日、読売、フジTVなど多数メディアに。
著書:いつまでも会社があると思うなよ!職場のムダ取り教科書
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