初等教育放課後

土曜日に授業の「チャイム」を鳴らさせてはいけない!①-寺脇研氏(元文部省官僚・京都造形芸術大学教授)

寺脇研氏(元文部省官僚・京都造形芸術大学教授)

2014年5月12日にNPO法人教育支援協会が主催した「今こそ、子どもたちの豊かな土曜日・放課後を創り出す!『土曜楽校全国会議』」のイベントレポートです。

今回のイベントでは、元文部省官僚・京都造形芸術大学教授の寺脇研氏、NPO法人教育支援協会の吉田博彦氏が登壇し、これまでの学校における土曜日の変遷やこれからのあり方についてお話しされました。今号と次号の2回にわたってレポートします。

「学習」と「教育」の違い

寺脇:今日、お見えになっている方々は、実際にNPOの活動として各地域で土曜日の学習だけでなく、放課後の子どもの学習活動や体験活動にかかわっておられる方々です。

また、ネットでこの会議を見ておられる公民館活動とか全国の社会教育活動している人たちっていうのは、そういうことをやっているっていう自負心はお持ちだと思うし、実際素晴らしい活動をみなさん、やっていると思うんですよね。で、今日はもちろんのこと、さらに今みなさんがやっていること、我々がやっていることを、国立青少年機構も応援してくれています。

さて、今日は土曜学習ということについてこれからどのように進めていくかという議論をするのですが、そのためには「生涯学習」ということについてしっかり理解しておく必要があります。

もう「生涯学習」って言い始めてから、1987年に始めたわけですから、もう26年も経ってるんですねぇ。この26年間における広がりっていうはすごいですよ。それは今日NPO活動なさっている若い人たち、あるいは学生のみなさんは「まだ生まれる前だよ」みたいな話でしょうけど。

私は当時からその仕事に携わってずっと日本の生涯学習状況っていうのを長く見てきていますが、非常に進んでいることは事実なんですよ。「いやぁもうこんなになってよかったねぇ」と。ただ、その実態は、進んでいる割に「生涯学習の理念」というものをわかってやっているのか、わからないでやっているのか、という話でね。学校教育に携わる人たちがあんまりよくわかっていない。

これは最初の頃から懸念されていることで、ようやくこの頃学校現場でも「生涯学習」という言葉が使われれるようになりましたけど。26年の内の最初の15年くらいはそういう言葉は使われないし、仮に使っても生涯「教育」という言葉を使ってきた。

「生涯学習」という言葉のポイントというのは、「生涯」の方にあるんじゃなくて、「学習」の方にある。もちろん両方大事ですけど。「教育」じゃなくて「学習」だっていうところにある。それを、学校教育の連中がわかんないのはもちろんのこととして、社会教育をやっている人たちにも、まだ十分に徹底されていないんじゃないのか。だから、「土曜授業やるよ」って行ったら「まぁいいんじゃないの」みたいなことになってるんじゃないかと。

つまり、「土曜授業」っていうのは「授業」だから「教育」ですよね。「土曜学習」っていうのは「学習」ですよね。「教育」と「学習」の違いは、そのことがわからないから迷走してるわけですが、「誰が主体なのか」という話ですね。

教育の主体は教師であり、まぁ皆さん方も教育の主体でしょう。だけど、学習ということになると、主体はそこに集まってくる子どもたちであり、あるいはもちろん大人の場合でもそうだけど、学習をする人が主体になってくる。この大きな転換がなにより大切なことなんです。

学習塾は教育機関なのか

1987年の7年後、私は広島県の教育委員会に行って、広島県の教育長っていう仕事をしました。私が教育長として行くと、一応、全然知らないところに行くわけですから、所管事項説明みたいなものがあって、「こういうことをやります」って言うと、県議会ですぐ質問が出てみんな困ってるわけです。「どう答えていいかわからない」と言って 汲々としているわけですね。

「どういたしましょうか、教育長。大変困ったことになりまして、どうなんでしょうか」「県会議員から質問通告があって質問が出てます」と。どんな質問かと言うと、「学習塾は教育機関なのか」と。「学習塾も教育の場だろう」「教育の機関だと思うんだけれども、どうだろうか」という話で、1994年時点ではまことに斬新な問いかけだったので、どう答えていいかわかんなくなっちゃったんですね。

普通だったら教育委員会の幹部たちは「そんなのは違います!」と答えたかったんですよ、「そんなものが教育機関であるわけないじゃないですか」と。学校は見事な教育機関だし素晴らしいところだけど、学習塾なんていうのはね、要するに「子どもを種に金儲けしてるような、不埒者の集団ではないか」「あんなところに子どもたちが行くのが悔しい」「なんで学校でこれだけ教えてるのにそんなところに行くんだ」みたいなことを言われて。

ところが、なんでみんなが慌ててたかというと、その質問した人が与党の有力議員だったわけですよ。で、その人に逆らうわけにはいかない。その人の求めている答えは、「学習塾もそうだよね」ということだった。その方は学習塾の経営をしている高校に関与されてる方だったんですよね。で、「どうしましょう、どうしましょう」と。

大変ですよ。ジレンマなわけですよ。「バカなこと言ってんじゃないよ」って言ったら有力議員を敵に回すことになってしまうし、かといって、この人の気に入る答えをしてしまったら、学校を否定することになっちゃうじゃないかという話がありました。

もう今はここにいらっしゃる方誰でも答えられ…ますよね?「塾は教育機関ですよ。塾は教育機関だけれども、学校教育とはまったく性質が違って、学校教育以外の教育機関、つまり、社会教育機関の一つ。営利でも『教育をやっている』ということで社会教育機関です。

これは、臨時教育審議会で「生涯学習」ということを言ったときに、『営利のものは教育機関じゃない』っていう考え方は間違っている」という風に整理をして、つまり間違ってるという意味は、「そりゃ確かに非営利だけで全部カバーできるならいいけれども、営利も入れたほうがより大きな学習機会を与えられる」という考え方。つまり「生涯学習」の理念の下にやっているんです。

なので、塾というのは社会教育の教育機関、学校というのは学校教育の教育機関、そして両方とも学習機関であるということの方が、もっと大事なカテゴライズ。

だから、「子どもたちの立場に立ってみると『学校というところで学習をする』、『塾というところで学習をする』、どれも全部彼らの生涯学習の一部だ」と言ったら、ナンバー2の学校教育部長という、私より15、6歳年上の、学校現場一筋でやってきた方が、「教育長、なにを言うんですか!生涯教育というのは(彼はつい「生涯学習」ではなく「生涯教育」と言ってましたけどね)確かに必要ですが、学齢期における生涯教育(学習)というのは、学校のみで行うものであります!」と言うので、「何を言っているんですか、生涯学習というのはいつでもどこでもだれでも学べる、いろんな学び方があるよっていう話ですよ」と返しました。

寺脇研氏(元文部省官僚・京都造形芸術大学教授)

『子どもの学習』が主役

昨日フェイスブック見ていたら学校の先生が書いていたんですけど、土曜日だかに授業参観があって、見学に行ったんですって。

今東京は「土曜課外授業」というのを推奨しているので、土曜日やるときには正規の教育課程じゃなくて地域の人たちが関われるような活動をやりなさいって言われています。たとえば授業参観とかPTAと一緒の活動とかそういうのをやりなさいって言われているんで、わりと土曜に授業参観があるみたいですね。

それで、授業参観に行ってみたら、その授業がとんでもない授業だったというのが書かれていて。まぁプロが観てるわけですからね。

とにかく、45分の間に算数をこれだけわからせなければいけないっていうことが前提になっているから、子どもたち全員がわかろうがわからまいが、「はい、これわかったかな!?」って言われると子どもたちは「わかりません!」とは言えないから、みんな「んん?」ってなっちゃって、それでも進めていくような、つまり教師のスケジュール、まさに教師が主役の授業で、教師のやりたいようにやってるんで、子どものやりたいようにやってるわけではない。

で、子どもたちは自分たちが主役として遇されてないもどかしさみたいなものを、まぁもちろん子どもだから口に出してきちんと言えるわけじゃないけれども、感じているのがありありとわかった、ということが書いてありました。

「子どもが主役」っていうとすぐ極論する人たちがいて、そんなことを言って子どもを神様だとか言ってそれに教師がペコペコしなきゃいけないとか、そういうことじゃない。

「子どもが主役」じゃないですよ。「『子どもの学習』が主役」っていうことなんで、「子どもが主役」っていうね、昔わりと進歩的な教育学者の方々が言ったような言い方っていうのは過ちであって、「子ども」が主役なんじゃなくて「子どもの学習」が主役なんですよね。

「脱ゆとり」のミスリーディング

そういう考え方で、そこをきちんと分けていけば、もちろん学校でやるべきこと、学校がやった方がいいことっていうのも当然あるわけだけど、学校以外のとこでやった方がいいこともある。

例えば、その先生の授業についていける子どもにしてみれば、学校でやるだけでなんの支障もない、それ以外のとこに行く必要もないだろうけど「ちょっとわかんなかった」っていう子に対しては、学校は対応しきれていないということになるし、「いや、もっと難しいこと考えてみたいんだけどな」っていう子どもにはもっと対応できていない、みたいなことがあるじゃないですか。

もちろんこれには、学校自体も少しは生涯学習的に演出しようっていうので、習熟度別授業とか双方的な学習みたいなものを入れるようにして対応してきた。その結果、2012年のOECDのPISA調査では世界 一の学力とやらを獲得していて、そのお墨付きを肝心元のOECDから頂いている。

テストを作った人が「日本が一番よかったよね」って言っているんだったら世界一だって言えば良いだろうけど、私はどうでもいいけどね。

一応そういうことになっちゃってるわけだから、それはなぜそうなったのかっていうことを考えていったときに、今の文部科学省がそう言ってるからそう言わざるを得ないけれども、つまり「脱ゆとりのおかげです」「生涯学習的でないような昔流の方向に戻したので成績が上がりました」という論理になっているんです。

でも、この論理矛盾は明らかに誰にでもわかる論理矛盾で、2012年に高校一年生でその試験を受けた世代っていうのは2003年に小学校に入った、まさに「ゆとり教育」という言葉がぼちぼち出始めた頃の子どもたちなんですね。

私は「ゆとり教育」というのはそんなに悪いとは思ってないんですよ。「ゆとり教育とかやられて困っていますよねぇ」って、同情してくれるから「はぁはぁ」とか言っているけど、いや、別にゆとり教育って悪い言葉じゃない。それを悪いと思う人と良いと思う人の違いなんでしょう。

世の中にゆとりなんかあっちゃいけないと思っている人たちがいるわけでしょ。ブラック企業なんかみんなそうじゃないですか。あるいはブラックでなくたって、大企業の方々はゆとりどころか生産性だよって思っているわけだから、それはゆとり教育って嫌いでしょうよ。私たちはそう思ってないから別にゆとり教育で実は結構なんですけれども。

まぁ、ゆとり教育をもっと正確に理念として理解してもらうためには、生涯学習的なものに切り替えていったら成績が上がりましたよっていうのが必要ですよね。

OECDが求めているのは、競争から共生へのシフト

OECDが求めているのが、20世紀的にあくせくあくせくやるのはやめよう、ということ。

「少なくとも先進30か国はそういうことから切り替えていかないと、そうでない国はあくせくあくせく、我々の先進国クラブが20世紀にやってきたようなことを今からやらないと国が豊かにならない。だからそれはやるのが当然だ。

だけど、もう先進国クラブはそういうことやめないと、世界の限られた富の配分ていうのができなくなってるじゃないか」っていうのがOECDの根本的な考え方です。

そういうふうになったときに、「競争から共生へ」という、少なくとも他の国は競争をまだしててもいいけど、先進30か国は競争主義っていうのをやめましょうよ、という基本的な姿勢があります。

経済競争とか、そういうのはありますよ。あるけど、物の考え方として、「競争から共生へ」と切り替えていこうということで、PISA調査の学力調査が始まったんですね。だから、PISA調査の学力調査の前に国際基準として利用されていたIEA調査では昔から日本がいつでも一番だったのですが、その調査では、計算が手っ取り早くできて人より速くできて「勝ったー!」という調査だったんです。

今ではそうではなくて、PISA調査では「数学的リテラシーをもって世の中のことを考えましょう」とか「科学的リテラシーをもって科学や自然について考えましょう」というような ことをやってきいてるわけだし、読解力というのも、TOEFLで何点取るような力をつけることじゃなくて、コミュニケーションが本当にできるかどうかっていうことを試していくというような形に変えてきた。

だからPISA調査のような結果が出るのは当たり前なんです。「よかったね。21世紀的な、これからの先進諸国がやっていかなきゃいけない時代の力がついたね」って喜ばなきゃいけないんだけど、やっぱりまだ20世紀の栄光が忘れられずに、それを取り戻さなきゃいけないと思ってる人たちからすれば、まだ不満なんでしょう。

そのために、そういった不満をマスコミがそのまま垂れ流してしまうものだから、国民の大多数は「あー脱ゆとりで成績が上がったのか。やっぱりゆとりじゃ良くなかったんだなー」っていうミスリードをマスコミはさせているわけですよね。

だから、まずせめて専門家であるメディアはもちろん、文部科学省とか教育委員会とか、それから我々教育に携わっている人間、ほんとは現場の教師も含めて、プロフェッショナルはまず、そこをきちんと理解して、なんのために我々がこんなことをやってるんだということを考えていかなきゃいけません。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、石井敦子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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