初等教育中等教育

学校で子どもが掃除するのは当たり前ではない-世界の教育をリードする日本の学校清掃

掃除をする子ども

学校清掃を児童・生徒が行う国の方が少数!?

日本の小、中、高等学校で毎日のように行われる「生徒(児童)による学校清掃」は、長年実践され日本文化に深く浸透しています。

この私たち日本人には馴染み深い学校清掃ですが、実は世界の国々では生徒が掃除を行っている国よりも、プロフェッショナル(Janitors:掃除を受け持つ用務員)が掃除を担当する国の方が多いとのデータがあります。少し古いデータですが、世界105ヶ国を調べたところ以下のような結果が出ています。

児童・生徒が掃除を行う国 34.3%
掃除を専門家に任せている国 58.1%
(学校清掃-その人間形成的役割:沖原豊編著)

生徒が清掃を行っている国では、日本の様に使っている場所を綺麗にする目的以外に、その中にある教育的効果をも求めている国は、少ないと言われています。

Janitorの人件費を削減するために生徒が清掃を行っているところもあるようです。

日本の掃除文化はどこに起源があるのか?

さて、日本の生徒による掃除文化はどこに起源があるのでしょうか。

大きく分けて二つの歴史があります。

一つ目は日本に昔からある「道」の存在。静の要素が強い茶道や華道、動の要素が強い柔道、剣道、などの武道。特に武道は自分たちが使う場を自ら綺麗に保つことを大切にします。

剣道を例にとってみましょう。剣道は武士の時代から剣術の習得と共に、その剣を使って心を磨くことが大切とされていました。そのため稽古の前後にかならず心を込めて自分たちが使う道場の掃除をする。これは心の修行のひとつとされています。剣の達人になる=人としての奥義を極めることだったのです。そのための一つが道場の掃除とされています。

日課に未明からの稽古や道場の掃除をするも修行の一環である。面倒だと思うことをあえて行うのは、懈怠の心に打ち勝ち自己を律する心を養うのが目的である。道場にいる時のみが修行ではなくあらゆる局面に対処できる心がけを身につけさせた。(剣術と剣客)

お寺で読経

二つ目は仏教。僧侶の修行は昔から一に作務、二に勤行、三に学問と言われています。

一番初めにくるのが体を使い汗して行う作業である作務。その中でも庭や境内の掃除が作務の代表とされています。

二番目に来るのが座禅を組んだり、お経を読むといった仏教のお勤め。三番目に来るのが勉強。現代人が聞いたら驚きそうな順番ですが、僧侶の世界では勉強よりも掃除が大切。

どのお勤めもとても大切なものとされていますが、直接人格教育に関係ないと考えられそうな「掃除」が心を磨くためのとても大切な要素であると位置づけられ、掃除を含む作務が一番の修行とされているのです。

柳生新陰流に「剣禅一如」という言葉があるように剣と禅は方法は異なるが目指すところは同じと考えられ、精神を鍛えることが剣の真髄に達することにつながるとした。無外流の祖の辻月丹のように、剣術と並行して禅を修めることもあった。禅の修行を行い、雑念を打ち払うことで自己の心を治められれば、どのような時でも平常心で臨み、持てる力を充分に発揮することができる。禅は江戸時代のメンタルトレーニングという位置づけだった
(剣術と剣客)

このように剣術を起源とする剣道を含む「道」と仏教の世界での「禅」とは方法は異なりますが同じ目的と方向性を目指していたことが見て取れます。

「掃除をする人の仕事を取ってはいけない!」という考え

アメリカの学校での掃除

海外の学校はどのようになっているのでしょう。

アメリカを例にとってみると、大部分の学校掃除は、Janitorの仕事です。生徒たちは学校の掃除をすることはありません。

アメリカには、”Janitorは、学生が本分とする勉学に集中するために存在し、もっとも煩わしく感じる清掃いう重労働を受け持ってくれる。

彼らの存在があるために学生は勉学にいそしむことができ、将来、社会に貢献する人間となる教養を得る”という考えが根本にあります。

そのためにそもそも生徒や学生には自分で掃除をするという考えはありません。

昨今は、それが与える影響を危惧する意見が聞こえてきています。

アメリカの学校に行ったことがある方はお気づきかと思いますが、しばしば机や椅子の裏に貼りついているチューインガムに出会うことがあります。もしくは、ゴミが落ちていても拾わない。これは決して彼らに常識が無いということではなく、「掃除をする人の仕事を取ってはいけない!」と言われて育ったという背景もあります。

しかし学校教育の現場では、自分たちの使用する場所を生徒たち本人で綺麗にすることにより、そもそも汚すこと自体が無くなるのではないかとの声が上がり始めています。そこからモラル教育にも繋がるとの意見も多くなっています。

1995年から1999年の間に同国の下院議長を務めた保守派の政治家、共和党のニュートン・リロイ・ギングリッチはモラルを学ぶために、学校清掃をアメリカでも導入すべきだと提言しています。

掃除というモラル・人格教育

東日本大震災の後、日本人のモラルの高さが多くの国から評価されました。

自分の手で学校掃除を行うというとても小さな一歩から、自分の使う場所を綺麗に保ち、物を大切にする気持ち、一つの事を他者と協力してやり遂げる協調性、自分が卒業したあとに同じ場を使う他者を思いやる気持ちを長年日本人は掃除から学んで来ました。

その大切さを海外も認めている現在、この「掃除教育」が今後世界の教育をリードする一つに流れになっていく、そんな時代が近い将来やってきても不思議はないのです。

Author:坂井公淳
多文化共生子どもサポート団体「感環自然村」代表/通訳・翻訳家
南イリノイ大学農学部森林学部野外教育科卒。J.A.ローガンカレッジ救急救命士過程卒。イリノイ大学消防大学卒。
幼少期から野外活動に親しみ、22歳で渡米。米国イリノイ州立南イリノイ大学で野外教育を学ぶ傍ら、J.Aローガンカレッジにて救急救命法を習得し、同国にて救急救命士国家資格を取得。大学卒業後、米国消防署にて救急救命士/消防士として勤務。帰国後子どもキャンプ企画運営に携わり、2010年地域の子ども達が言語、国籍、障がいの有無に関係なく集える場として感環自然村設立。
主な通訳歴:ニューヨークヤンキース、ボストンレッドソックス、シアトルマリナーズ、日米野球ディスカバリーチャンネル、BBC、トラベルチャンネル、ブラジルバブーンフィルムズ、国際スキー連盟、イリノイ州政府森林局、FIPS国際会議、他
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