探究型学習・PBL

生徒の新たな気づきを生む!「Beyondミーティング」とは?-聖学院中学校の探究学習「好きを啓く」コラボ事例レポート

昨今の変化の激しい時代の中で、教育現場では「探究学習」の導入に試行錯誤しています。探究学習とは、生徒自らが「問い」を立て、その「問い」の解決に向けて、調査・分析したり、周囲の人とコミュニケーションをとりながら進める学習活動のことを言います。

教師から与えられた問題を解くのではない以上、学習を進めていくには生徒の「探究心」「主体性」が肝になります。どうしたら、生徒の主体性を引き出せるのでしょうか。そのために、周囲の大人はどのように関わればいいでしょうか。

昨年行われた、東京都北区にある私立聖学院中学校の探究学習と、NPO法人ETIC.(エティック)の主催する「Beyondミーティング」の協働プロジェクトを取材しました。

挑戦を応援する文化を育む「Beyondミーティング」

Beyondミーティングとは、挑戦する人を「全力応援」するイベントのこと。失敗を恐れず未来を描いていく担い手を育むため、日本に挑戦を応援する文化を育むことを目指しています。2018年1月から毎月1回以上開催され、これまで、のべ5,118名(2023年1月現在)が参加しています。

イベントは、ピッチ(発表)とブレストとで成り立っています。まず、社会・地域課題解決や新しい価値創造に挑む人が、自分の「やりたいこと」を数分で発表。その後、参加者と発表者でグループを組み、アイデアブレストを行います。参加者は、「こんな事もできるんじゃない?」「あんな事もやったらどう?」発表者のアイデアに上乗せする形で意見をざっくばらんに出し合うのです。

「出る杭は打たれる」のことわざが示すように、新しい事をやる時、周囲の人からの否定はつきものです。Beyondミーティングでは、挑戦者に対して、批評や一方的なアドバイスを送るのではなく、「いいね!」「面白いね!」と、応援の姿勢で臨むことを大切にしています。言わば、「出る杭は、どんどん出す」。

このBeyondミーティングを担当しているNPO法人 エティックの日出間(ひでま)は、学校教育の中でBeyondミーティングが出来ないかと模索していました。理由の1つは、「挑戦を応援する文化を育む」ために将来を担う子どもたちにこそ、応援によってプロジェクトが進むという体験を届ける重要性を感じていたから。もう1つは、挑戦者の意欲をさらに高めているBeyondミーティングの手法と、学び手の意欲が肝になる探究学習は相性が良いと考えたためです。

日出間の話を聞いて、学校版Beyondミーティングの第1号に手を挙げたのが、私立聖学院中学校の佐藤充恵(みつえ)先生でした。

聖学院中学校の探究学習「好きを啓く」

聖学院中学校の中学2年生は、「好きを啓く」をテーマに探究学習を進めています。4月からスタートして、10月末に終了する、約半年間をかけたプロジェクトです。

まず、生徒たちは春〜夏休み前にかけて、自分の価値観や個性について深く知る「自己探求」のワークを行います。その後、「自己探求」で明らかになった自分の興味・関心に添ってプロジェクトをつくり、夏休みに実行します。

Beyondミーティングの流れ

プロジェクトのテーマは生徒によってさまざまです。「ラグビーのコンバージョンキックを成功率100%にするためには?」「マインクラフトで駒込を再現する」という日常の中で見付けたテーマを深掘りするものもあれば、「海洋ゴミ問題」や「子ども食堂について」など社会課題に起因するもの、「遊ぶとは何か?」のように哲学的な問いを立てたものもあります。

生徒たちは、自分が立てたテーマに添って、最終的に作品をつくります。作品の形式は問いません。レポート、音楽、スマホアプリ制作、など生徒が好きな形を選ぶことができます。先生たちは、「生徒自身が心から熱中できるテーマになっているか」「達成出来るかできないか、ギリギリを目指して取り組んでいるか」を大切にしながら、生徒たちの学びに伴走します。

中学2年生の聖学院中学校版Beyondミーティングは、2022年7月30日の「中間発表会(オンライン)」で行われました。通常のBeyondミーティング同様、生徒は「自分のやりたいプロジェクト」を2分程度で発表。その後グループで「発表者のプロジェクトがもっと面白くなるためにはどうするといいか?」を参加者同士でブレストします。

そして何より画期的だったのは、この場に生徒の保護者も参加したことです。

Beyondミーティングによる、保護者の変化

保護者の役割は、応援ファシリテーター。社会人としての自らの感覚・ひらめきでブレストに参加し、生徒のプロジェクトを応援します。また、グループの生徒同士も意見を言いやすいように場の雰囲気をつくり進行することも求められます。

保護者の面々は「誰々さんのお父さん/お母さん」ではなく、一人の社会人として、日頃の仕事や家事の中で培った視点を携えて、場を作る側に回ります。保護者参観や発表会参加など、用意された場を見に行くことがほとんどな日本の学校教育現場では非常に珍しい、保護者の学校運営参画です。保護者に希望を募り、手を挙げた20名弱の方々が参加しました。

「ブレストは、遠慮不要、ぶっとびアイデアOKです!」

当日は、周りの目を気にしがちな思春期の生徒や、Beyondミーティングに初めて参加する保護者でも進めやすいよう、日出間がデモンストレーションを交えながら、丁寧に説明します。

Beyondミーティングのコンセプト

筆者も参加しましたが、デモンストレーションでは簡単そうに見えるブレストも、いざ自分がアイデアを出そうとすると、なかなか思いつかないもどかしさを体感しました。

終了後の保護者のアンケートの回答では、「活発な意見が出ない時があり進め方に苦労した」という声や、「生徒の声に耳を傾けながら、進行のタイムキープもしなければならないのが難しかった」という運営上の難しさを挙げた声が見られました。

それ以上に目立ったのが、子どもの可能性に気付いた、というコメント。「視野を広くもって世界を捉えている子どもたちに感心しました」「『所詮、中学二年生』と侮っていましたが、子どもたちの潜在能力は想像以上でした」などの声が上がっています。

興味深いのは、子どもの可能性に気づいたことで、保護者の育児観にも影響を与えていたこと。「このプログラム前後で自分の子どもへの見方が変わったことはありますか?」の問いには、

「至らないことばかりに目が行きがちですが、彼(我が子)もがんばっていると気が付きました。自分の接し方を工夫しなければと思いました」

「子ども扱いせず、一人の人間として対応すべきだなと思いました」

「今後はもう少し子供の興味ある話に耳を傾けようと思います。もしかしたら、新しい可能性に気づけるかもしれないと感じました」

などの回答が寄せられていました。

子どもたちにとってのBeyondミーティングの効果

では、肝心の子どもたちはどうだったのでしょうか? 保護者を交えた「自由研究 中間発表会by Beyondミーティング」は、子どもたちにどう影響を与えたのでしょうか?

2022年10月22日に行われた自由研究発表会では、生徒たちは教室や廊下などに用意された会場でパソコンを広げ、約半年間をかけて研究してきたプロジェクトを発表しました。

自主研究会タイムライン

途中、筆者が「中間発表会by Beyondミーティング」で一緒のグループになった生徒を見つけたので、話を聞いてみることに。彼の研究テーマは「恐竜」。あまりの詳しさに、「よく知ってるね!」「すごいね」と舌を巻くことしか出来なかったのを覚えています。

「保護者も一緒に参加した、中間発表会Beyondミーティングあったでしょ? Beyondミーティングが、自由研究に影響を与えたことはありました?」

筆者がたずねると、彼はこう答えました。

「一般の人の知識がどれくらいなのかを知れたのが良かった。どういう見せ方をすると人に伝わるのかを考えるきっかけになったと思う」

生徒たちの発表が行われた校内スペース
(生徒たちの発表が行われた校内スペース)

彼のように、中間発表会での聞き手の反応が自分のプロジェクトに影響を与えたケースは他にもあります。「お寿司」の探究をしていた生徒は、「歴史を調べてみたら?」という意見をきっかけに深堀りを始め、意外な事実をいろいろ発見できたと言います。

その一方で、「テーマが明確に決まっている子には良かったと思うけど、自分のやりたい事が定まってない子にとっては、もらう意見の的がずれている感じがした」という生徒の意見もありました。

Beyondミーティングは、「やりたいこと」の萌芽がある子どもには上手く機能しますが、「何をやっていいのか分からない(何となくテーマ設定したけど、あまり関心を持てていない)」という子どもには、上手くはまらなかった一面も伺えます。

モチベーションが下がっていたり、上手くプロジェクトが進められない子に対しては、先生たちは似たようなテーマを掲げている子同士を集めて、意見交換する機会をつくっていたそう。また、先生が、発表を終えた生徒に対して「何でこのプロジェクトに興味をもったの?」「すごく面白いところに目をつけたね!」「何でこういう違いがあるんだろう?」と生徒に共感しながらたくさんの問いを投げかけていたのも印象的でした。

自主研究会のコンセプト

探究心に火がつくタイミングは、人それぞれです。「夢中になれ」と言われて夢中になることが突如見つかるものでもありません。それでも、さまざまな人と対話し、問いを投げかけられる中で、子どもたちの「対話的で主体的な学び」は時間をかけて育まれていくのだと思います。

学校版Beyondミーティングの価値とは?

一連の取材を経て、学校版Beyondミーティングが教育にもたらす価値は、3つあるように思いました。

1つは、子どもが多様な大人と関わる機会になること。親や先生ではない、第三者の大人からのフィードバックは、子どもたちに新たな気づきをもたらしているケースが見られました。ツーカーで会話が通じてしまう相手ではないからこそ、発表する子どもたちにも言語化力が問われますし、もらうコメントも新鮮な気持ちで受け止めることが出来るのではないかと思います。

2つめは、どんなアイディアも尊重する姿勢や協働する価値を体感できること。学校の試験では、1人で考え抜いて「正しい答え」を出すことが求められます。ところが、Beyondミーティングのブレストはこの試験のやり方とは正反対。複数人で、ある意味「無責任」にアイデアを出し合う経験をします。

社会に出たら1人だけで働くことは出来ません。「誰かの小さなアイデアが、また他の誰かのアイデアと掛け合わさって、新しい気づきが生まれていく」という実体験は、いつか生徒たちが社会で働くときに、協働や創発の礎になってくれるのではないかと思います。

3つめは、保護者と学校の目線がそろい、学習者(子ども)を真ん中にした協力体制ができることです。保護者のアンケートの回答に、「ようやく『好きを啓く』のコンセプトが分かってきました。」というものがありました。

保護者が受けてきたこれまでの教育と、探究学習はあらゆる点で異なります。

「マインクラフトで駒込を再現する」というプロジェクトの成果物に夢中になる生徒たち。
(「マインクラフトで駒込を再現する」というプロジェクトの成果物に夢中になる生徒たち。協賛企業を募りながらメタバース世界で駒込を再現しています。)

「百聞百見は一験にしかず」という松下幸之助さんの言葉がありますが、Beyondミーティングで「人の意見を肯定的に聴き、応援する」経験をしたり、生徒たちの可能性を目の当たりにすることで、保護者の方々が、探究学習のコンセプトに腹落ちできる側面があるように思います。

上述のように、探究心に火がつくタイミングは人それぞれです。長期的に子どもの学びを見守るには、先生と保護者、双方の協力が必要だと感じます。どんなに学校で「好きを啓く」を進めても、帰宅したら「そんなくだらない事やらないで勉強しろ!」と親が叱っていたら台無しです。先生と保護者が同じ方向をみて、子どもの興味関心を応援できる体制がつくれることもまた、Beyondミーティングの価値ではないでしょうか?

子どもを「応援」することを通じて、日本に「挑戦を応援する」文化が広まっていく。私たちは学校版Beyondミーティングの先に、そんな未来を夢みています。

執筆:乗越貴子

元記事:DRIVE 2023年1月20日

Author:DRIVEキャリア
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