ファシリテーション

子どもの対話や主体的な学びを阻害する4つの「症候群」とは?-教育現場での振り返りや対話を深める!ファシリテーションのヒント

子どもの対話や主体的な学びを阻害する4つの「症候群」

人と会話をしていて、「沈黙」になって気まずい思いをしたことがあるのは、私だけではないと思います。教育の場でも、授業などで子どもたちに「何か意見はありますか?」と問いかけ、沈黙の間が流れるとき。みなさんだったら、どう対応しますか?

私は、プロジェクトアドベンチャー(以下、PA)のファシリテーターという立場で、子どもたちが楽しく主体的に学ぶ場作りをしています。昔は、私も振り返り(リフレクション)での沈黙が耐えられず苦手でした。

子どもたちが、素晴らしいチームワークと学びのある瞬間を体験し終え、さあ振り返りをしようと円で座り、「今の体験で、どんなことを感じた?」と問いかけ、「・・・」沈黙。

今まで楽しそうに騒いでいたのに!?「例えばさ、◯◯とか、△△とか。僕は見ていて、××なんて思ったんだけど」と、気がつけばファシリテーターだけがしゃべっている。

で、結局、「これがチームワークだよね!」なんて、結論づけてしまったり。ああ、自己嫌悪。

どうしたら振り返りや対話の場が、子どもたちを主役に生き生きと動き出すのでしょうか?

今回は、子どもたちとの対話が学び多きものになるために、私がファシリテーターとして失敗してきた学びを阻害する4つの「症候群」を共有してみたいと思います。みなさんが教室などで子どもたちと主体的・対話的に学ぶ場を作るヒントになれば幸いです。

子どもたちと主体的・対話的に学ぶ場を作るヒント

1.「沈黙耐えられない」症候群

「静寂でありなさい。なにも起こっていないときに起こっているものはなにか?」道(タオ)の教えです。

そもそも、沈黙の中には何が起こっているのでしょうか?考え中、言葉を選んでいる、言いたくない、恥ずかしさ、だれかの意見を聞きたいと思っている、夕ご飯のことを考えているなど、思考や感情、様々なことが起こっています。

きっと私たちは、それがどんな沈黙かわからないから不安になるのではないでしょうか?「なんであの子(たち)はしゃべらないんだろう」と。

「沈黙耐えられない」症候群

10年ほど前に、ファシリテーターの青木将幸さん(マーキー)の作る対話の場で、20人ほどのメンバーが円座で座り、対話の途中に5分以上の沈黙が流れました。不思議と心地よい沈黙。みんなが言葉を探しているということを知っていて安心があったから。

沈黙を気まずいと思っているグループには、一度「沈黙の意味」を考える対話を一緒にしてみたらどうでしょうか?

2.「全員一言しゃべらなければ不満」症候群

グループで振り返りや対話をしていると、全員が必ず一言発言を「しなければいけない」という思い込みが起こります。または、いつも同じ人が発言をしていて、しゃべらない人がいるということが許せない。

PAの振り返りでは、いつでもみんなが話す「チャンス」はありますが、話すかどうかはその人の選択だと思っています。「パス」という選択肢や、聞き手に回るという選択肢があることは、場の安全を作り出します。

「全員一言しゃべらなければ不満」症候群

3.「対話のゴールはこっちですよ」症候群

体験を振り返るにせよ、対話を深めるにせよ、大人が予想している(望んでいる)答えに、場が進んでいくことを心のどこかで期待していませんか?体験を通して感じること、自分の考えることに、正解や不正解はないはず。

私の学びの(遊びも!)師匠でもある甲斐崎博史先生(KAI)の著書、「クラス全員がひとつになる学級ゲーム&アクティビティ100」の10番目のアクティビティに、「2ひきのへび」というお話があります。お互いの尻尾を咥え込んだ蛇が、どうなるか?という話。

お互いが飲み込みあって一つになる、痛くて離す、1匹が勝つなど、子どもたちは色々な答えを考えます。結論として、この問題の正解は「正解はない」ということ。強いて言うならば、「それもあり得るかも!」「その考えも面白い」と、たくさんの可能性を考えられる人が一番正解に近い。

「それはあり得ない」「それは馬鹿らしい」と否定することが、答えから一番遠い。色々な学校やグループと関わっていて、模範回答(大人が喜びそうな)を答えようとする子どもたちによく出会います。

「自分が考えること・感じることに正解はない」ということをグループで共有することと、まず大人が率先して子どもたちの可能性に満ち溢れた意見を面白がることは、対話の場での発言を活性化させます。

「対話のゴールはこっちですよ」症候群

4.「対話は言葉でしなきゃ」症候群

PAでの振り返りの場は、言語での問答(Q&A)だけではありません。

ハワード・ガードナー博士による多重知能理論にもあるように、①言語的知能、②論理数学的知能、③音楽的知能、④身体運動的知能、⑤空間的知能、⑥対人的知能、⑦内省的知能、⑧博物的知能と、子どもたちの得意とすることは一人ひとり異なります。

また、クラスやグループの関係性がまだ安心感でない場合、全体の場で、言葉での対話をすることに難しさを感じることがあります。そんな時には、まず言葉で話すこと以外の表現方法を選んでみてはどうでしょうか。

例えば、紙に書く、ポストカードや言葉のカードを選ぶ、色・数字・高さ・温度で表すなど。最近はレゴを使って自己表現をする研修も盛んのようです。プロジェクトアドベンチャージャパンのホームページには、PAで使われるリフレクションのカードなどもありますので、参考になるかもしれません。

身体運動的知能が得意な、私が好きな表現の方法を一つご紹介します。「ハブユーエバー」というアクティビティで作る対話のきっかけです。全員が円に並んでいて、「○○したことある人?」と質問をされ、フルーツバスケットのように該当者が席(場所)を代わるというアクティビティで、お互いを知り合うことを目的にアイスブレークとして使われることが多いものです。

この質問を少し変えて、「今日、チームで協力した瞬間を見た人?」「クラスのことでモヤモヤしている人?」「プラスチックゴミが気になっている人?」など、対話を開くためのきっかけをまず実際に動くことで意思表示することができます。表現した後に、「さっき動いていたけれど、理由を教えてくれる」と聞くこともできるかもしれません。

「対話は言葉でしなきゃ」症候群(ポストカードを活用したふりかえりの様子)

いかがだったでしょうか?手法を工夫しても、対話がただの「おしゃべり」になってしまうこともあります。20組のペアトークをして、おしゃべりの渦の中に1組でも意義のある対話がなされて、それが全体に共有されたとき、池に投じられた一石の波紋のように学びが伝わっていくこともあります。

対話を通して学ぶと、自然と子どもたちの主体性が育まれます。対話をコントロールすることを大人が手放すことは勇気がいりますが、目指すべきは子どもたちが生き生きと話したくなる場です。この場は安心安全か?そのテーマや問いは子どもたちにとって魅力的か?日々考えていきましょう。まずは、私たちが大人同士で対話を大切にすることが大事なのかもしれませんね。日々是修行なり。

Author:藤樫亮二
学校法人藤樫学園矢切幼稚園理事。玉川大学文学部外国語学科英語専攻卒業。米国ニューハンプシャー州 Plymouth State University K-12 Education、Adventure Education 修士課程修了。大学卒業後は米国に留学し、アドベンチャー教育を専門に学ぶ。帰国後、玉川大学学術研究所「心の教育実践センター」で、 大学助手として、体験学習プログラムの実践・開発・研究に携わる。学校教育プログラム、社会教育プログラム、企業研修、教員研修など様々な領域をフィールドとし活動。現在は、矢切幼稚園で主事を務める傍ら、アドベンチャー教育のファシリテーターとして、チームビルディングやリーダーシップ研修などの活動を行っている。
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