当事者になれない苦しさ
前回は、学生がより特別であろうとして海外にも経験の場を求めている可能性があるという話をしました。今回は、海外で活動をする中で何が得られるかという話をしていきます。
様々な賛否両論を巻き起こしているブログ記事として、「ぼくのお父さんはボランティアに殺されました。」という記事があります。
中身は読んでいただくと分かるのですが、良かれと思って行う、一方的な支援は結果として、その地域性を壊し、関係性を減少させていくということが記載してあります。
実際、私も昨年インドネシアに家を借りて1年間いろんな場所に飛行機で飛び各地の社会課題を調べ、ヒアリングを行っていました。そこで学んだことは、どれだけ現地の社会課題を聞いても、自分が当事者ではなく、第三者として関わるのであれば、第三者の地点からの情報や印象にしかなりえないということ。
とはいえ、インドネシア人ではなく、現地の民族の人ではない、私がどう関わり、何ができるのか、わからずずっと悩んでいました。
「困っている相手を何かしら支援しないといけない。」
「事業には何かしら社会性を持たないといけない。」
今、考えるとこれ自体が大きなバイアスですが、当時は、より困っていて、悩んでいる環境を探すべきだ、それが大きなソーシャルインパクトにつながるという前提でインドネシアでリサーチを続けていました。
自分の無力さに涙する瞬間と感謝する気持ちに涙する瞬間
その後、転機が訪れます。
日本の株式会社ドアーズという企業が、アジア各国のリアルな社会課題解決を行う事業をグローバルラーニングジャーニーというカタチで企画していると聞き、ぜひインドネシアで行ってほしいと相談したところインドネシア・ジャカルタ中心地での水問題・貧困問題に向き合うプロジェクトを行うことになりました。
フィールドは、ジャカルタ近郊のKapuk Muaraという地元の大学生やタクシーでさえ、行きたがらない場所です。海に近く、海抜が低いため、洪水などの影響を直接受ける地域。Kapukでは、貧困解決を目的に地域の資源に注目し、地盤沈下したエリアの池を活用して、なまず養殖を中心としたビジネスで地域開発を行うプロジェクトも進められています。
BC CEC – Kapuk Community from BC Social Enterprise on Vimeo.
しかし、そこからわずか2kmほど行った場所には華僑や日系の企業が開発したショッピングマーケットなどが立ち並び、ゴルフ場や大統領の別荘などもあるリゾート施設があります。また、インドネシアの物価は私が行った2011年~2013年の2年間で約40%上がり、最低賃金はここ数年、毎年30%以上あがっています。
このプロジェクトにはU理論の訳者でもある、由佐美加子さんが参加され、現地のファシリテーターを務めていただきました。
結果としてはわずか1週間では、現地の社会課題はもちろん解決しませんでした。
プロジェクトの中では、社会課題の凄まじさ、そして、日本人という自分が相手に伝えてしまうバイアスを感じる中で、自分の無力さに涙する瞬間もありました。
言葉もままならない中で、そもそも分かりあえないという気持ちが生まれ、しかし、それを乗り越えたいとする感覚を持ち、本音を伝えようとする。
伝えるだけでは一方的だからこそ、それさえ手放し、相手の気持ちをすべて受け入れるという気持ちで関わる中で、得られた感覚。
参加者と地域の人たちがサークルを組み、感謝を伝えあう中では、自然と感謝の気持ちが生まれ、涙が出てくる瞬間がありました。
そこに今後関わり、もっと一緒に取り組んでみたいという大学を卒業した後の若者が生まれました。
また、私も自分が持つ日本のコンテンツをもとに、現地の子ども達が自由に職業選択をする機会がないという課題に貢献できるということが分かりました。
これは、2013年の夏にKapuk Kids Creative Cityという名前のまちづくりプロジェクトを行うことにつながります。
自分の中に揺らぎを持ち続けるということ
夏に2週間ほど、Kapukでホームステイをしながら、龍谷大学院の学生、東北支援NPO底上げの副代表、前述の若者と一緒にこの地域に何が必要か、どのようなプログラムが適しているかなどをずっと話し合ってきました。また、ホームステイをしている中で現地の人たちとコミュニケーションを行うことが増えてきました。
すると、気付いてきたことがあります。貧困と思っていた場所のほうが人が人に対して優しく、寛容的である。一方で、ジャカルタの中心部のほうがお互いのことを知り合いにくいマンションの中に暮らしており、デモや犯罪などに恐れて家やエリアの周辺に大きな壁をつくっている。
もちろん、その周辺でも貧困により売春やドラッグの売買に手を染める若者がいるという話もありました。
しかし、そこの地域はドクターがいないから、コミュニティドクターの仕組みをつくったり、CSRの資金を自分たちで獲得し、若者向けにITスクールを立ち上げるなどお互いがサポートをしあう環境をつくっていました。
「一元的に見てきた貧困解消が本当にゴールなのか。」
「そもそも、私たちはここにどのような立場でいるのか。」
結果として、プロジェクトを行った以上に地域の人たちから大きなお土産をもらったように感じます。そのお土産をさらに還元していくこと。良い循環を生み出すことが必要だと感じています。また、そのような体験を経て、揺らぎを自分の中に持ち続けることが重要だと感じるようになりました。
もしかすると、それこそが前述のグローバル人材に必要な多様性を自らに有する経験につながっていくのではと感じています。
自分と相手を分け隔てる関係性を超えて、対話を通じて、お互いの気持ちに触れてみること。
ビジネスを行うための競争に勝ち抜く存在としてのグローバル人材だけでなく、地域の人や慣習の気持ちを受け止め、より良い循環の関係性を生み出す存在としての人材こそが、今、必要とされているのではないでしょうか。そして、そのような良い関係性を生み出すことができる人材は、グローバルだけではなく、日本のローカルでも必要とされていると感じます。
Author:松浦真
大阪府出身。2007年にNPO法人cobonを設立し、関西を中心に「こどものまち」事業やアーティストの交流事業を展開。2016年4月に2人の子どもと共に五城目町に移住し、合同会社G-experienceを設立。2020年4月より、秋田県五城目町議会議員。