保育・幼児教育

若手保育者の満足度に影響を与えているものとは?-仕事時間の長さ、保育者間のフィードバックの少なさが影響か

2020年12月に「OECD国際幼児教育・保育従事者調査」の結果公表が報じられました。他国との差もありますが、勤務年数3年以上の保育者と、3年以下の保育者との間で差が生まれていた項目が、いくつかありました。なぜ、こういった傾向が生まれるのでしょうか。元幼稚園教諭である筆者の経験を踏まえながら、考察していきます。

悩んでいる保育者

保育者の勤務実態に焦点をあてて実施された「OECD国際幼児教育・保育従事者調査」。

前編(世界と比べて日本の若手保育者は働きすぎ?-「子どもと接しない仕事時間」が特に長い傾向)の記事では、調査結果の中からいくつかの項目の結果をピックアップし、整理していきました。

整理をしながら、気になったことがあります。もちろん、他国との差もありますが、勤務年数3年以上の保育者と、3年以下の保育者との間で差が生まれていた項目が、いくつかありました。

ここでは、勤務年数3年以下の保育者を「若手保育者」と呼びたいと思います。

端的に述べると、若手保育者の方が「より仕事時間が長く」「より子どもと接しない仕事時間が長く」「給与や仕事そのものへの満足度がより低い」という傾向があるようでした。

なぜ、こういった傾向が生まれるのでしょうか。筆者の幼稚園教諭の経験を踏まえながら、考察していきたいと思います。

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「子どもと接しない時間」は何をしてるの?

まずは仕事時間についてです。子どもの在園時間は決まっているため、「子どもと接する時間」については保育者間で大きな差はないはずです。

と考えると、「子どもと接しない時間」の差が、全体の仕事時間の差に直結しているのではないかと推測できます。

「子どもと接しない時間」の内訳を見てみます。

OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018国立教育政策研究所:OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018 )

「子どもと接しない時間の31%を占めると回答した割合」で、上位3つは以下の業務でした。

遊びや学びの活動について、個人で行なう計画や準備・・・29.9%
園の管理運営業務や職員会議への参加、一般的な事務業務・・・26.2%
園内での同僚や保護者との協働作業や話合い・・・19.7%

これは全保育者を対象とした結果のため、勤務年数によりこれらの時間に差があるのかどうか、明確にはわかりません。しかし先に述べた通り、「ここで差が生まれているのではないか」と推測はできると思います。

「経験が浅ければ何事も時間がかかるのは当然だ」という意見は、もちろんあると思います。保育者だけでなく、どの仕事においてもそういった傾向はあるでしょう。

しかしそれに加えて、「保育ならではの準備の難しさ」が若手の保育者の仕事時間に関係しているのではないかと考えました。これは、筆者の幼稚園教諭の経験からです。

悩んでいる保育者

いくら準備をしても不安を感じる

「子どもと接しない時間」の内訳の中で、「遊びや学びの活動について、個人で行なう計画や準備」が最も高い割合であることがわかりました。

この「遊びや学びの活動における計画や準備」について、若手保育者だったころ「いくら準備をしても不安」という感覚があったことを覚えています。

園の方針や子どもの年齢にもよりますが、筆者が勤務した園では、保育の準備は「好きな遊びのための準備」と、「一斉活動のための準備」がありました。行事などが近い時はその準備が加わるイメージです。

一斉活動は前もってやることを決めるので、準備はわかりやすいです。しかし好きな遊びの時間は、言葉通り子どもが好きな遊びをするため、事前には決められません。そのため、それまでの子どもの姿から予想をします。

今日はこうやって遊んでいたから、明日はこうなるかな、この材料もあったら発展していくかな…と、予想をするのですが、単に子どもの姿に合わせればよい、ということでもありません。

その時期、その週で設定している「ねらい」(目指したい子どもの姿)があり、その達成に向けては保育者の意図的な援助も必要になってきます。

「子どもの主体性の尊重」と「保育者の願い」。これらをバランスよく保ちながら保育を進めていくために、どのような準備をすればよいのか。はっきりした正解が存在しないため、いつも手探りで準備をしていました。

クレヨンの落書き

最終的には、一人で考えるしかない

準備万全だ!と思っても、子どもが全くのびのびと遊んでいない、ということは何度もありました。その姿を受けて、明日はどうしようか…と、また自分なりに準備をするのです。

もちろんベテランの先生に相談することはできます。しかしクラスの実態が異なるため、準備といっても一概ではなく、同じ準備をしたとしても子どもがのびのび遊ぶかというと、全くそうではありません。

経験が浅い分、子どもの姿を見とる力や、遊びの援助をするスキルもまだ身についていない状態です。つまり「どのような準備を、どのくらいすればいいか」がよくわからないのです。わからないからこそ、時間をかけてしまう傾向にあるのではないかと思いました。

自分で気がつけることには、限界がある

先の部分では、「準備の難しさ」により仕事が長時間化する傾向があるのではないか、という推測をしました。もう一つ、注目したい点があります。それは「保育者間の協働」についてです。

こちらも若手保育者にしぼったデータはないため、全保育者を対象とした結果になりますが、保育者同士で「話し合う」割合に比べて、「フィードバックし合う」割合が、著しく低いことがわかります。

国立教育政策研究所:OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018国立教育政策研究所:OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018

私が勤務していた園も、研究保育以外で保育者同士の姿をフィードバックし合うことはほとんどありませんでした。というか、できないのです。

それぞれ担任を受け持っている状態では、子どもがいる時間に他クラスを見に行くということは、物理的にできません。管理職の先生が時々様子を見に来てくれることはありましたが、事務仕事も多い中、見る場面は部分的にならざるを得ません。

他者からのフィードバックがないために、悩みや課題を感じたとき、何をどう改善したらいいかわからない、ということが多々ありました。

もちろん、自省は常にしていました。「保育者は反省的実践家」という言葉がある通り、常に自分を省みることは大切だと思います。

しかしどうしでも、自分では気づけないこともあります。相談はできても、それは自分が気づいて課題を感じている範囲内のことになります。つまり、気づかないと相談できない。気づかない人に「気づきましょう」と言うのは無理な話です。

自問自答は必要だけど

他者からのフィードバックは気づくきっかけを与える重要なものです。それが頻繁に行なわれない環境で、自問自答し続けることに苦しさを覚えた記憶があります。

保育者の関わり方に、正解はありません。子どもの姿に合わせて柔軟に変化させていく必要があり、やりがいはとても大きいです。しかしまだ経験を積んでいない若手保育者にとっては、難しいことでもあります。

こういった部分が悩みやストレスにつながり、保育者の仕事への満足度にも影響しているのではないか、と考えました。

保育者と幼児

若手保育者が一人で抱え込まないために

調査結果から、若手保育者の方が「より仕事時間が長く」「より子どもと接しない仕事時間が長く」「給与や仕事そのものへの満足度がより低い」ことがわかり、そうなっている背景について、筆者の経験を踏まえながら考察していきました。

一つの結果に対して明確な要因があるというよりは、それぞれが複雑に関連し合っていると考えます。

おそらく若手保育者は「一人で頑張りすぎてしまう」のではないでしょうか。

保育の仕事、特に担任を受け持つ場合は、安全管理も含めて相当なプレッシャーがかかります。その中で「クラスのことはクラスで」と言われてしまう、もしくはそんな雰囲気を感じてしまうと、遅くまで残って準備をする、家に持ち帰る、一人で悩み続ける。そんな働き方になるのではないかと考えます。

もちろん、若手保育者であっても責任はあります。しかし一人に責任を背負わせるのではなく、園全体がチームとなり、うまくいかないときはフォローし合い、子どもの育ちを支えていく体制をつくることは、必要だと考えます。

たとえば、若手保育者に対しては一定期間「メンター」のような存在の教員がつき、相談したり、フィードバックをもらえたりするような体制が取れるといいのではないかと考えます。

園の人員に余裕がないと不可能です。しかし、ある程度人員に余裕のある体制の中でないと、経験の浅い若手保育者をフォローし、育てていくことは難しいのではないでしょうか。年齢の小さな子どもたちを預かる場としても、もう少し大人の数がいた方がいいと個人的には感じています。

当時、「失敗できない」というプレッシャーがいつもありました。もちろん「人」相手ですので、失敗はできません。しかし失敗を意識しすぎてのびのびと保育できないとしたら、本末転倒です。

若手保育者が、子どもと一緒に成長していけるような余白を保障してあげられるような環境や体制がつくられること、そういった中で保育者たちがいきいきと働けることを、元保育者としては願うばかりです。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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