韓国

韓国の学校や市民が取り組む「民主的な教育」とは?③-子どもや青少年の性教育や相談に取り組む「アハセンター」

日本では、まだまだ家庭や学校でもタブー視されがちな性教育ですが、望まない妊娠や性暴力など、若者の心身に関する大変に重要な教育の一つです。

「性に関する教育」を家庭や学校などで、どのように行っていくべきなのでしょうか?韓国では、ソウル市が公立施設として設置している「アハ!ソウル市立青少年性文化センター」の取り組みが注目されています。

2020年2月8~11日に、「EDUTRIP in 韓国」が開催されました。「EDUTRIP」は、「世界の教育に学ぶ旅」がコンセプトで「Demo」が企画運営しています。今回、「EDUTRIP in 韓国」のツアーに参加し、韓国の教育について学んだことや感じたことをより多くの人に発信したいと思い、ツアーの内容をレポートします。

これまでの記事に引き続き、今回も訪問した施設の内容をレポートします。実際にワークショップなどを体験することを通して、韓国の教育について、より理解を深める時間となりました。

「アハ!ソウル市立青少年性文化センター」の外観(「アハ!ソウル市立青少年性文化センター」の外観)

ソウル市が運営する性の専門機関

三日目の午前中は「アハ!ソウル市立青少年性文化センター」(通称「アハセンター」)に訪問しました。

アハセンターは、ソウル市が運営している青少年のための性・ジェンダー教育、性の相談専門機関です。

子ども・青少年の性に関する悩み相談やワークショップを行ったり、ジェンダーの平等への感受性を高める野外キャンプなど、様々な体験型、参加型プログラムを提供しています。

アハセンターでは、青少年が自分の性に対して気楽に自由に話し、すべての人が尊重される平等で平和な性文化を築くことを目的としています。

今回は施設の中を見学させていただきながら、ワークショップを通じて性教育の在り方について学びました。

壁の色や照明が変わっていたり、壁に性の悩みについて書かれたポストイットが貼ってあったり、本やタブレットを用いて性の悩みを解決できるようにしていたりと、部屋ごとに様々な工夫がなされていました。

また、性器の模型やコンドームやピルなど実物を用いて説明ができるような工夫もされていました。

「アハセンター」でのワークショップの様子(「アハセンター」でのワークショップの様子)

性について学ぶワークショップ

今回、体験させていただいたプログラムの中から、いくつかを紹介していきます。

①小学4年生対象:「カバンの持ち主」

「カバンの持ち主」のワークショップの様子(「カバンの持ち主」のワークショップの様子)

カバンの中に入っている複数の持ち物(写真)を取り出して、グループごとに議論しながら、持ち主の職業と性別を当てるゲームです。(このカバンの中身は、実在する韓国の有名人の持ち物だそうです。)

カバンの中には、生理用品や髭剃りなど特定の性別を判断できる持ち物と、メイク道具やネクタイなど、一見性別を判断できるようにみえて、実は性別を判断できない持ち物の両方が入っています。また、バレエシューズやボクシンググローブなど、職業や性別を判断してしまいそうな持ち物もカバンの中に入っています。(実際には男性のバレリーナもいれば、女性のボクサーもいます。)

このワークショップでは、持ち物や職業は性別を安易に判断できないことを理解することができます。カバンの持ち物を推理することで、無意識のうちに性別を分けてしまうような偏見に気づかせる働きかけをしています。

②小学5年生:宇宙ステーション

「宇宙ステーション」のワークショップの様子(「宇宙ステーション」のワークショップの様子)

プロジェクターから円卓に宇宙人が投影され、地球人が抱えている悩みについて議論するよう指示されます。子どもたちは金星やオリオン星など、惑星の住人になりきり、悩みを抱えている地球人にアドバイスをします。

・思春期の体の変化について
・思春期の恋愛について
・友人間の性暴力について
・オンラインのエチケットについて
・性的表現、ポルノについて

5つから好きなテーマをひとつ選ぶことができます。(思春期の恋愛についてのテーマが一番人気だそうです。)

音声とともに、円卓に議題や質問が映し出され進行していきます。スタッフはファシリテーターとして子どもたちの意見をまとめつつ、議論を進行させていきます。

今回は「思春期の恋愛について」少しだけ体験させていただきました。地球に住んでいる中学生の男の子が好きな女の子にプレゼントを渡すためのアドバイスを求めることから始まり、次第に告白のタイミングや方法など、質問が変わっていきました。

惑星の住人として丁寧な言葉づかいを心掛けるなどといった、いくつかのルールもありました。子どもたちは各惑星の住人になりきることで、普段なら話しにくいようなことや自分が抱えていた悩み話すきっかけになるそうです。

③小学6年生:思春期サイコロ

「思春期サイコロ」のワークショップの様子(「思春期サイコロ」のワークショップの様子)

サイコロの中に性にまつわる単語が書かれていて、その意味を説明するゲームです。生理や包茎手術など男女で分けることなく、性に関わる用語を説明します。

ここでのテーマは、性にまつわる用語を他者に説明することで、男女間で知識量のギャップや認識のズレがあることについて修正をしたり、正しい知識を習得するねらいがあります。

正しい性の知識を伝えること

実は、現在、日本では歯止め規定により「性交については教えない」ということになっています。

この理由は様々だと思いますが、一番の要因は、教師が性に関する正しい知識をもっていなかったり、正しく伝えることができず、かえって子どもたちの性に関する情報を間違った方へ助長させてしまうことを懸念しているのではないかと思います。

一方、教えない教育により望まない妊娠や性感染症、デートDVで苦しんでいる少年、少女たちが一定数いることも事実です。現在の日本の教育は、苦しんでいる彼ら彼女らに目を向けていないのではないかと思います。

「アハ!ソウル市立青少年性文化センター」内でのお話(「アハ!ソウル市立青少年性文化センター」内でのお話)

妊娠は女性だけの問題?

また、ほとんどの中学校、高校では保健の授業が男女別に行われています。ナイーブでセンシティブな面が非常に大きいので、男女別にわけることも理解できます。

しかし、異性の体のことを勉強することも将来的にはとても必要なことではないかと考えます。男女を分けて性教育を行うことは、「女性は自分の体を自分で守らなくてはならない」と教えているようにも捉えることができます。

妊娠するのは女性であり、望まない妊娠により人生を変えてしまうのは女性であるため、このことは当たり前なことかもしれません。女性だけが教育を受けるのではなく、望まない妊娠をさせてしまわないように、また性暴力の加害者にならないために、男性が学ぶべきこともあるのではないでしょうか。

私は、学校教育でもっとお互いの体や性について議論するべきであるように思います。女性が自分の体を守るために避妊やピルの使い方を学ぶ教育ではなくて、お互いがお互いの性を理解し合えるような教育が必要であるように思います。また、個人的な意見としては、男性が女性を傷つけないため、大切にするために、男性がもっと性について正しい知識を学ぶ必要があるように思いました。

「アハセンター」の皆さんと「EDUTRIP in 韓国」の参加者での集合写真(「アハセンター」の皆さんと「EDUTRIP in 韓国」の参加者での集合写真)

パートナーとよりよい関係を築いていくために

アハセンターでは、男女分け隔てることなく性について学び、議論し合うことを大切にしています。

性について正しい知識を得て議論し合うことは、中絶や望まない妊娠などを防ぐことだけでなく、自分の気持ちを相手に伝えたり相手の気持ちを考えるうえでもとても重要であるように思います。また、議論を重ね性について積極的に話す機会が増えれば、パートナーができた時にもよりよい関係性を築くことができるのではないかと思います。本来、恋愛や性行為はお互いの愛情を深めたり、お互いの命、新しい命を大切にするポジティブなものであるように思います。

アハセンターでの学びは、今後の自分の人生でとても大切なものになるように思いました。

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Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、流矢武旺が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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