「法務教官」と聞いて、どんな仕事をしている人か思い浮かびますか?刑務所(成人が収容される刑事施設)で働く「刑務官」のような非常に厳しいイメージを持っている人も少なくないと思います。
実際に「刑務官」と「法務教官」では、大きく異なります。法務教官は、少年院に入ることとなった少年たちにとって、非常に大事な存在です。法務教官とは、主に少年院に勤務する法務省の専門職員のことです。幅広い視野と専門的な知識をもって、少年たちを健全な社会人として社会復帰させるために、日々きめ細かい指導や教育を行っています。
「少年院の○○先生に出会って自分は変わりました」「将来、成功して○○先生に会いに行きたい」これは少年院を出たときに何人もの少年たちが言うセリフです。この言葉からいかに法務教官が重要な存在かはわかっていただけると思います。
しかし、少年院に入る子は、周囲の大人に心を開くことができないことが多いのですが、それにもかかわらず、なぜ、法務教官がここまで少年にとって大事な存在になるのでしょうか?今回は少年院の中の少年たちや法務教官の実際の様子を紹介しながら、その理由について迫っていきたいと思います。
少年院での生活とは?
そもそも少年院に入った子たちの在院期間は、少年院の種類によっては半年ほどのところもありますが、その多くは、約1年前後になります。在院生は、3級、2級、1級のいずれかの級に属しており、入院したばかりの子は3級から始まります。そして、個人ごとに決められた教育目標を達成することで2、1と進級が許され、最終的に1級の子が出院を許されることになります。
(引用:法務省・少年院のしおり)
級に応じて、受ける教育の内容も異なります。入ったばかりの3級では院内で集団行動するための動きを身に付ける「行動訓練」や「体育指導」による体力つくり、内省を深めるための「課題作文」や担任との面接などこれらを通じて基本的生活の習慣づけが行われます。
この時、教官は行動訓練や体育を少年たちに教えるだけでなく、自らも少年たちと一緒になって訓練し、運動したりします。入院当初、社会での生活や価値観が抜けきれず、反発する少年もいますが、そういった教官の姿を目の当たりにし、指導を受けることでそういった少年も次第に自らを見つめ直すようになります。
2級に進級すると、教育内容も多岐にわたります。学校の教育に沿った一般的な「教科指導」、社会で働くための知識や価値観を養う「職業指導」、「体育指導」、その子の特性に応じた「特定生活指導」(家族関係に問題のある子は「家族関係」、薬物依存の子は「薬物離脱指導」等)などがあります。学校と同じように集団単位で実施されますが、理解が深まっていない子や、より注意が必要な子に対しては、担任が後で個別にフォローします。
最後の1級は、出院準備期間となります。2級での指導内容に加えて出院後の生活について具体的に考えたり、就職活動を院内で行ったりするなど出院後に自主・自立した生活が送れるような精神を養います。
以上が各級ごとの教育内容になりますが、これら以外にも農園芸を教育の一環で行ったり、少年院ごとの土地柄の特色を生かした伝統工芸(染物や彫刻など)の教育があったりします。
(引用:法務省・少年院のしおり)
院内で少年たちがやることはこのように多種多様で、これらの全てを法務教官は一通りできなければなりません。さらに、この裏では少年たちが暮らす寮の担任を任されており、担任となった少年の生活の様子を昼夜把握し、指導するほか、運動会などの年中行事の運営準備等なども全て法務教官が担っています。
真正面から向き合う大人の存在が変わるきっかけに
ここで最初の話に戻ります。少年院に入った子たちにとって、なぜ、ここまで法務教官が大事な存在なのでしょうか?
ここまで述べたように、法務教官は少年の生活全般から種々の教育指導、行事など全てにわたり法務教官が担うこととなっており、それは常に少年たちと一緒に行動し、指導し、生活することを意味しています。それはつまり、いつも少年たちのそばにいてくれる存在ということです。
時に厳しい指導をして、少年はそれに反発することもありますが、どんなに反発されても教官たちはその子を見捨てることなく、とことん最後まで向き合います。少年たちはここまで自分を見捨てずに真正面から向き合ってくれる大人の存在をこれまで知りません。
平成29年度版犯罪白書によれば、少年院に入る子どもたちのうち、実父母がいる子どもは、男子で32.5%、女子で25.8%となっています。ゆえに、それは少年にとって貴重な出会いとなるとともに、変わるきっかけとなるのです。
(引用:平成29年度版犯罪白書)
現場の法務教官は、少年たちの退院後の更生を願っており、この子をなんとか立ち直らせたいという熱い気持ちを持って、日々少年たちと接しています。少年院が「育て直し」の場と言われる所以は、親のようにいつもそばで少年たちを見守り、指導してくれる法務教官の存在があればこそではないでしょうか。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。