学校教員

子どもにとって最も効果的な教師のリーダーシップとは?-クラス・学級集団の状況に応じて関わり方を変える

桜咲く4月、また新しいクラス・集団との出会いの時です。これまで「居心地のよい集団づくり」について、アドベンチャー教育プログラムのファシリテーターの視点から記事を書いてきました。今回は、Situational Leadership理論(以下、SL理論)、つまり「状況に応じたリーダーシップ理論」をベースに、教師のリーダーシップを考えてみます。

初めて出会ったクラス・集団に対して、どのようなリーダーシップをとりますか?自分の得意なリーダーシップスタイルはどのようなものですか?教師のリーダーシップは状況に応じてどう変わるのが効果的なのでしょうか?

「最善」のリーダーシップ?「最適」なリーダーシップ?

下にある二つのパターン、どちらのイメージが自分のスタイルですか?または好みですか?またどちらが、自分が関わる子どもたちの現状に適していると思いますか?

「最善」のリーダーシップ?「最適」なリーダーシップ?

私は、自分の好みとして、子どもの主体性を常に優先するファシリテーティブな(促進的な)関わりが「最善のリーダーシップ」だと思っていました。

フォロワーを下から支え、サポートし、励まし、確認するリーダーシップスタイルこそ、子どもの主体性を育てるために必要で、従来のピラミッド型で表される指示型・リーダー主導型のスタイルはもう古いと。しかし、改めてリーダーシップについて調べていくと、どちらがよいという二元論的には語れないことがわかってきます。

1960年代に論じられた状況対応型リーダーシップでは、唯一最善のリーダーシップは存在しないと言われています。

なぜならば、リーダーがどう行動するかということではなく、大切なのは「どんな状況にいて」、「どんなメンバーとするか」ということだからです。R.ストッジルは「最も効果的なリーダーは、自己の行動を変化し、矛盾する要求に適応させる多様性と柔軟性を示す」と述べています。

特定の性格、スキル、行動があれば最善のリーダーという答えはなく、「子どもたちの状況」に合わせて自分のあり方を変えることが、「最適なリーダーシップ」のようです。

「SL理論」から4月のクラスとの出会いを考える

下のグラフは、「新1分間リーダーシップ」(ダイヤモンド社)から引用したものですが、横軸は「指示型行動」(決定、指導、観察、頻繁なフィードバック)を表し、縦軸は「支援型行動」(傾聴、介入、促進、励まし)を表します。そして、それぞれの象限に当てはまるスタイルをS1からS4で表します。

SL理論

S1指示型

リーダーは具体的な指示を与え、自らやって見せ、説明し、子どもの行動を観察して頻繁にフィードバックを与える。

S2コーチ型

具体的な指示は与えるが、どうしてそうしなければいけないのかを説明し、子どもの意見を聞き出し、意思決定に関わるように促す。

S3支援型

リーダーと子どもが共同で意思決定を行う。リーダーの役割は、プロセスを円滑にすること、話を聴くこと、アイディアを引き出すこと、勇気付けること、支援すること。

S4委任型

意思決定のほとんどを子どもが行う。

そして、子どもの「発達レベル」に応じて、リーダーは関わり方を変えることが求められます。

その発達レベルを診断する視点は、①技能(内容理解、手法、時間管理スキルなど)、②意欲(自信、やる気)です。例えば、4月始まったばかりの時期では、新しいクラスになりなんとか楽しいクラスにしたいという意欲や願いは持っていても、お互いどう関わってよいかわからないということもあります。(意欲は高いが、技能が低い。)そんな状況では、S1型でリーダーが指示・頻繁にフィードバックをすることが適当です。

逆に新学期初日から、「みんなだけで決めてごらん」と委任型で関わると、子どもたちもどうしてよいかわからず苦しい時間を過ごすことになるかもしれません。

もちろん「子どもたちは力を持った存在である」と信じて関わることは教育者の前提だと思います。だからこそ、子どもが潜在能力を発揮できる「安全・安心な環境」を整えるために、クラスの形成期にはリーダーがビジョンを語ったり、丁寧な指導・指示をしたりすることが必要です。

そして、グループの発達・個人の成長とともに、少しずつリーダーは指示を減らし、支援の量を調整しながら、やがては子どもたちの主体性に委ねていきます。

関わりかたの「幅」を増やす

ここまで、みなさんにとってきっと「当たり前」のことを、小難しい理論を掲げて書いてきましたが、私がこの理論を大切だと思うのは、この理論は教師が自分自身を振り返り、関わり方を調整する基準になり得るからです。

「わたしは、体育会系王様タイプです」「わたしは、みんなで参加型ワイワイタイプです」と、人それぞれ自分の心地よいスタイルや得意不得意があります。そして、そのスタイルだけではうまくいかない場面も必ずあります。

指導が得意な教師は、一貫してS1、S2で関わることが多く、子どもたちに意思決定のプロセスを任せることに抵抗を覚えるようです。反対に、子どもの意思を尊重することを重要視する教師(特に若手?)は、クラスがまだ発達途上にあるときに指示・指導ができずに困難な状況に陥ることがあるようです。

以下の表は「リーダー行動の連続線」(R.タンネンバウム、H.シュミット、1973)を参考にしたものです。

リーダー行動の連続線

①「早く片付けなさい!」という命令も、②「片付けてごらん」→③「今片付けるのと、あとで片付けるのとどっちがいい?」→④「今から片付けるというのはどうだろう?」→⑤「散らかって見えるけれど、片付けたほうがいいと思う?」→⑥「この状況をどう思う?」→⑦「・・・・(^_^)」と、関わりかたは幅広く考えられます。

4月だからこれが正解ということはなく、クラス・集団、そして子ども一人ひとり状況はそれぞれ。子どもの様子を丁寧に観て、柔軟に関わり方を変えていけることが教師に求められているリーダーシップなのだと思います。そして、最後には「わたしたちが自分の力でやったんだ!」と子どもたちが言えるような関わりができたら素敵ですね。

Author:藤樫亮二
学校法人藤樫学園矢切幼稚園理事。玉川大学文学部外国語学科英語専攻卒業。米国ニューハンプシャー州 Plymouth State University K-12 Education、Adventure Education 修士課程修了。大学卒業後は米国に留学し、アドベンチャー教育を専門に学ぶ。帰国後、玉川大学学術研究所「心の教育実践センター」で、 大学助手として、体験学習プログラムの実践・開発・研究に携わる。学校教育プログラム、社会教育プログラム、企業研修、教員研修など様々な領域をフィールドとし活動。現在は、矢切幼稚園で主事を務める傍ら、アドベンチャー教育のファシリテーターとして、チームビルディングやリーダーシップ研修などの活動を行っている。
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