子育て・育児

大人気の子どものしつけアプリが百害あって一利なしの理由-手軽で便利なしつけの代償は後で高くつく

スマートフォンを操作する

言うことを聞くように子どもを脅すアプリが大人気!

2012年9月に公開されて「子どもが一瞬で良い子になる」とメディアなどでも紹介され、200万ダウンロードを超える大人気の子どものしつけアプリがあります。「効果が絶大!」、「子どもが言うことを聞く!」とアプリを使用した方の評価はとても高いようです。

どのようなアプリかというと子どもが言うことを聞かない時に、あらかじめ設定していた鬼やおばけ、魔女など子どもが怖がるキャラクターから電話がかかってきて、「コラッ!言うことを聞かないと、食べちゃうぞ!」と子どもを脅すというアプリです。秋田県のなまはげからヒントを得て開発したそうです。一部サンタクロースや妖精など優しいキャラクターがいるようですが、子どもの嫌いな注射を打とうとする医者などのキャラクターも登場します。

キャラクターとの着信画面・通話画面がよく出来ていて、その怖いイラストに子ども達も影響を受けるようです。言うことを聞かない場面も「寝ない時」、「片付けをしない時」、「歯磨きをしない時」など色々と用意されていて、その状況に応じたものを選択できるようになっています。このアプリを使った際の子どもの様子を撮影した動画もあり、脅し文句のように言うことを聞かないと電話がかかってくるよという養育者の姿がとても印象的でした。

使っている養育者にとって実に手軽で便利なアプリなんだと思うのですが、これは子どもの成長にとって悪いことばかりで良いことがひとつもないアプリだと断言できます。

このアプリを喜んで使うような家庭は、子どもが段々と大きくなってきた時に間違いなく大きな代償を払うことになります。その理由をご説明します。(※育児や教育に有害なアプリのため、ダウンロードされることがないようにアプリ名やURLは記載しません)

恐怖で態度を変えさせることは難しい

鬼のお面

心理学では、こういった恐怖喚起による説得が相手の態度にどのような影響を与えるのかかなり昔から研究されています。その中では、弱い恐怖を喚起する場合は概ね効果があると言われていますが、喚起される恐怖が強すぎると、説得者に対する反発やそのメッセージ自体に対する拒絶などから説得の効果が減じてしまうことが明らかにされています。

具体的には、①示される危険を不快と感じ(例.癌になって死にたくない)、②それが実際に自分に生じる可能性が高く(例.タバコを吸うと癌になる確率が高い)、③特定の行動を取れば確実にそれを回避できると信じ(例.タバコをやめれば癌になる確率は低下する)、④その行動を自分が実際に行うことができるとした時(例.実際に禁煙する)のみ態度が変化するのです。

このアプリでは、子どもは何が悪かったのか全くわからないうえに、具体的にどのような行動をすれば良いのかもわからず、同じ行為をまた繰り返します。

わかるのは親の機嫌を損ねると、怖いキャラクターが出てきて不快な気持ちになるということだけです。脅して恐怖を煽るという点では、体罰にも通ずるものがあります。繰り返し同じ方法を用いたり、年齢を重ねれば、その効果も減少するため、単純に養育者が子どもと向き合うことを先延ばしにしていることに過ぎないのです。

しつけは、信頼関係を築くためのコミュニケーション

子育て

しつけというのは、大人の都合や意図に合わせて外圧を与え、子どもをコントロールすることではありません。しつけを含む育児や教育の目的は、子ども自身が社会の中で自立した生活を送れるようになることです。子ども自身が自分で判断することができるように、繰り返しどうしてそれがダメなのか、どのような行動を取っていけば良いか考える基軸を育んでいくものです。

しつけは、養育者と子どもとの信頼関係を築いていくための一つのコミュニケーションであり、楽しい・嬉しいというポジティブな場面だけでその信頼関係ができるわけではありません。むしろ、子どもを叱らなくてはならないようなネガティブな場面でどのような対応を取るのかが信頼関係の構築には大きく関わってくるのです。(※なお、筆者は、「怒る」と「叱る」は全く違う行為だと考えています。)

何度も何度も繰り返し、どうしてその行為が良くないのか理由を伝え、どのような行動を取れば良いのか一緒に考えることが重要なのです。

幼児期の重要な時期に養育者がネガティブな場面で子どもと向き合うことを避け、ネガティブな状況に何度も直面する第二反抗期を伴う思春期になってから関係を構築しようと思っても何十倍もの労力がかかります。その頃には、アプリに頼ってもそんな子ども騙しは全く通用しなくなっているでしょう。

子どもが悪いことをしたり、危険な行為をした時などの重要な場面で養育者自身が向き合わず、先生などの第三者に責任転嫁する場面を見ることが少なくありません。自分がその場にいても子どもの様子を見て見ぬふりをして、「先生に怒られちゃったね」と子どもに言う養育者を見ることがあります。子どもに嫌われたくないということなのでしょうか?それとも、子どもと向き合うことが面倒なのでしょうか?

いずれにしても、大切な信頼関係を構築する機会を逸していることは間違いありません。手軽で便利なインスタントなしつけが好まれ、こんなにどうしようもないアプリが流行して毎日何万人も使用していることに強い危機感を感じます。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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