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映画「ゆめパのじかん」重江良樹監督インタビュー(前編)-第三の居場所や大人の存在がすごく重要な役割を果たしている

神奈川県川崎市にある「川崎市子ども夢パーク」、通称「ゆめパ」を舞台にしたドキュメンタリー映画『ゆめパのじかん』が、2022年7月9日より東京・ポレポレ東中野ほか全国にて順次公開されます。「ゆめパ」は「川崎市子どもの権利に関する条例」をもとに作られた、子どものための居場所です。

本映画を製作した重江良樹監督に、映画製作の経緯や「ゆめパ」での子どもたちの様子、映画を通して伝えたいことなどについてインタビューしました。前編、後編の2つの記事でご紹介します。

映画「ゆめパのじかん」(監督:重江良樹)

重江 良樹(しげえ よしき)
大阪府出身。映像制作・企画「ガーラフィルム」の屋号で活動中。大阪市西成区・釜ヶ崎を拠点に、映画やウェブにてドキュメンタリー作品を発表すると共に、VPやネット動画など、幅広く映像制作を行う。子ども、若者、非正規労働、福祉などが主なテーマ。2016年公開のドキュメンタリー映画『さとにきたらええやん』では全国で約7万人が鑑賞、平成28年度文化庁映画賞・文化記録映画部門 優秀賞、第90回キネマ旬報ベストテン・文化映画第7位。

すべての子どもたちに「居場所」が必要

―本映画を製作した経緯をお伺いしてもいいでしょうか。

前作で「さとにきたらええやん」という映画を製作したのですが、見てくれた人から「私にはこんな居場所はなかった」「こういう大人が周りにいなかった」「小さいときにこんな場所が近くにあったら違ったのにな」という声をいただいたんですね。

その声を聞いて、居場所”や信頼できる他者との出会い”が必要としている人に届いていないことをすごく感じました。なので今回も「子どもの居場所」というテーマで映画を作りたいと考えていました。

いくつか撮影場所の候補はあったのですが、「川崎市子ども夢パーク」や元所長の西野さんとは以前からご縁があり、見学したり話を聞く中で、この場所は本当にすごいところだなと感じまして。「ゆめパ」1本に絞り、撮影を決めましたね。

西野博之氏・認定NPO法人フリースペースたまりば理事長
(西野博之氏・認定NPO法人フリースペースたまりば理事長)

―前作を通して、「居場所」が子どもにとって重要な場所であると感じていたのですね。

前作の舞台である「こどもの里」には、家庭環境が不安定だったり、アイデンティティや障がいなどに悩んでいたりする子どももいたのですが、そういう悩みって、家庭や学校だとなかなか言いにくいと感じることもあると思うんです。

何か悩みを抱えた際に、第三の居場所や大人の存在が、その子にとってすごく重要な役割を果たしているなと感じて。それで、居場所というものを意識するようになりました。

安心安全と感じられる場所で、子どもはぐんぐんと育つ

―撮影を通して、特に印象的だったことは何でしょうか。

私が撮影を始めた時期に「ゆめパ」に来たお子さんがいたのですが、初めはお母さんと一緒にちょこんと座っているだけだったのが、大阪から週2回、撮影で行くたびに、どんどん周りとなじんでいって、自分のやりたいことも見つけていって…と大きく変化したことが印象に残っています。

子ども自身が安心安全と感じられる場で、あれこれと口を出されず見守ってもらえる。そのような環境の中で過ごすと、子どもたちはぐんぐん育っていくんですよね。

子どもはすごい。”
子どもには力がある。”

それを感じると同時に、その力をつぶしてしまうのが大人なんだろうな、とも思いました。

「子どもは未熟な存在だから大人が逐一教えてあげないといけない」とか「何かをやってあげなきゃいけない」という子ども観は、社会の中にまだまだ多くあると思うんです。その子ども観が少しずつ変わっていけば、子どもたちがのびのびと過ごせて、自らの力で育っていけるような場がもっと増えるんじゃないかなと思います。

―「ゆめパ」にいる子どもたちは、みんな表情がいきいきとしていますよね。

大人が思っている以上に、子どもたちは本当にいろんなことを感じて考えていると思います。大人からすると、何しているかわからなくて、ただ遊んでいるだけに見えても、その中でいろんなことを考えて、経験しているんですよね。

映画「ゆめパのじかん」
(映画「ゆめパのじかん」の一場面より掲載)

ー「ゆめパ」にいる大人(スタッフ)は、子どもにどのように関わっていましたか。

どこまでもフラットでしたね。スタッフは子どもたちを下に見ていないし、子どもたちもスタッフを上に見ていない。大人がどうしたいか”じゃなく、子どもがどうしたいか”を一番に考えてる。

いつも子どもが真ん中なんです。まさに、子どもの最善の利益ですよね。その理念が浸透している場所であることが、私の撮影動機にもつながっています。

「ゆめパ」ができたときから今に至るまで、”子どもの声を聞く”という姿勢がずっと続いているんです。映画の中に、「ゆめパ」のおまつり「こどもゆめ横丁」のシーンがあったと思いますが、どんな横丁にするのか、テーマは何にするのか、子どもたちが主体的に話し合って進めていました。

大人と子どもが対等に話し合うという空気感が、いつもあたりまえにありました。

子どもたちの感情も含めて見守り、内包してくれるのが「ゆめパ」

―映画の中では印象的なシーンがたくさんありましたが、3年間の撮影を1時間半の映像にする作業はとても大変だったんじゃないかと思います。どのように映像にしていったのですか。

子どもの姿を通じて「ゆめパ」という居場所が浮かび上がるようにしたい”という思いはずっとありました。

撮影の中で、子どもたちがすごく輝いているところはもちろん、揺れているところや悩んでいるところなども撮らせてもらえました。喜怒哀楽の部分ですね。映画にも登場しますが、”もう6年生なのに、まだ4年生の勉強しているなんてダメじゃん”という、揺れる感情を吐露してくれた子もいました。

「ゆめパ」にはいろんな年代の子どもがいます。揺れて悩んでいる子もいれば、悩む時期を経て、好きなことを見つけてチャレンジしていく子もいる。子どもたちの感情も含めて見守り、内包してくれるのが「ゆめパ」なんですよね。

そんな世代間のつながりや、映画としての構成のつながりを意識しながら、一つの映像にしていきました。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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