2020年9月。高校生を対象とする進路・就職LINE相談「ユキサキチャット」は登録者が2,000名を超えました。登録者が増えるたびに、周囲に相談できない10代が多いことに気づきます。
内閣府が発表した子供・若者の意識に関する調査 (令和元年度/P.41)の家族・親族との関わり方の項目では「何でも悩みを相談できる人がいる」という問いに対し、そう思うと回答した15~19歳は、58.9%。よって41.1%の人は、家族や親族といった身近な人のなかに“相談できる人がいない”と感じています。
ユキサキチャットを運営するのは、大阪を拠点に2012年から通信制・定時制高校で高校生と関わる認定NPO法人D×P(ディーピー)です。
わたしたちのビジョンは「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」。困難な状況が訪れたときにも「話してみようかな」と思える“人とのつながり”をつくる活動を学校内の“オフライン”とLINE相談の“オンライン”で展開しています。
ユキサキチャットでは、全国の10代と出会い、進路や就職を通じてわたしたち以外にもつながりをつくるサポートを行なっています。今回は、相談員をする二人にユキサキチャットでのやりとりから見えることを聞きました。
困難な状況が重なってくると、10代がひとりでどうにかするのは難しい
-進路・就職といっても、様々な相談が寄せられていますね。具体的な相談内容はどんなものが多いですか?
相談員A(以下A):8月末から目立ってきたのは「学校が始まったけど、行きたくない(行けない)」「転学を考えている」という不登校の相談ですね。
他には、「無職なので仕事を探しています」という相談もあります。進路未決定で卒業した人もいるし、仕事内容や環境に合わず短期間で辞めた人もいます。進路未決定だった人からは「在学中に相談できなくて、気がついたら卒業の時期を迎えていた」という声も聞きましたね。
(8月末時点での相談種別の集計を元に作成。多様な相談が寄せられています。)
相談員S(以下S):仕事を探している相談の中で「高校を中退した」という話も聞きます。詳しく聞くなかで「家族との関係性も良くなくて」といった家庭環境に課題がある場合も。困難な状況が重なってくると、10代がひとりでどうにかするのは難しいと思います。
ほかには、19歳までの中高生が対象ですが「専門学校、短大などを辞めたい」という相談もきています。こういった相談は他の相談先を紹介することになるのですが、高校生の段階で自分の希望を周囲の大人に伝えることができたら、入学後のイメージを持てる機会があれば違っていたかもしれないと感じます。
「否定せず関わる」相談者に寄り添うことは、相談内容や緊急性に関わらず大切なこと
-ひとつの相談でもそれぞれ背景は違いますね。込み入った事情も話せる関係性をつくるために大切にしていることはありますか?
A:D×Pが大切にしている「否定せず関わる」ですね。相談者は、周囲の人に相談できなくて、ユキサキチャットにきています。だから、まずは受け止める。相談者に寄り添うことは、相談内容や緊急性に関わらず大切なことだと思います。
その上で、相談者が求めることとわたしたちが提供できることに大きなズレがないかを確認しています。
(D×Pが創業当時から、大切にしている姿勢「否定せず関わる」。相手や自分の考え方、価値観、在り方を否定せずに、背景に思いを馳せながら関わることを意味します。)
-相談者が求めるものがわからないまま一方的に押し付けても信頼関係できないし、できないことを言わずに話を続けていても相談者はよい結果を得られないですよね。
S:LINE相談は手軽に相談できますが、やりとりが途切れてしまうこともあって。相談をする時は、“いま”困っているので役立つ情報を提供するスピード感も必要です。とはいえ、相談者の状況や希望を聞かないと適切な情報を伝えられないこともあるので、バランスは難しいですね。
-相談者とは、どんなやりとりをしていますか?
A:雑談を交えることが多いです。相談者の趣味や好きなこと、普段の生活、周囲の人との関係性などは、悩みについて書かれた文章だと見えにくい場合もあります。雑談の延長で「この先どんな生活してみたい?」と、一緒に考えてみたりとか。
相談者と相談員ではなく、人と人だから生まれる関わり
-D×Pは、通信制・定時制高校の学校でも活動していて、相談員も高校生と直接関わる経験がありますよね。ユキサキチャットと直接の関わりに違いはありますか?
A:継続してやりとりする相談者との会話は、高校で生徒と直接話しているような感覚ですね。「今日何してたんー?」「晩ご飯食べた?」とか。
(定時制高校の教室で週1回、始業前や放課後に開く『居場所事業』。生徒が学年やクラスを超えたつながりをつくるきっかけをつくります。スタッフは日々の会話から困りごとを拾いサポートにつなげます。)
A:このあいだ、相談者との会話の中で「わたしも落ち込むことがあるよ」と話をしたんです。そしたら「いつもいろんな相談を聞いていて、強い人だと思います」とメッセージがきて、励まされました。定時制高校で直接会った生徒からも同じように励まされることがあるんですが、うれしいですね。支援する・されるではない不思議な関係性だと思います。
S:ユキサキチャットでも、学校での活動と同様に人と人との会話だという意識があるかもしれません。「人とのつながりをつくる」ことがD×Pの活動のベースなので。
A:相談員もそれぞれ個性や強みがあって。相談者の気持ちに強く共感して自己開示しながら話を聞く人もいますし、教員の経験がある相談員は進学に関する進路相談への情報提供が早いです。相談者と共通の趣味についての話をすることもあります。
-その人だからできる関わりがある、と。
S:そう考えると、対面とユキサキチャットでのやりとりに差はあんまりないですね。
(現在7名の相談員がいます。相談員を指名することはできませんが、相談内容を見て相談員のもつ専門性や雰囲気が合いそうな人が担当します。)
『情報提供をする』『つながりを持ち続ける』ユキサキチャットが相談者にできること
-相談者の悩みの解決やその人の“ユキサキ”を決めていくために必要なことは何ですか?
A:相談者自身が「自分は何がしたいか」を決められるように、こうするべきとは言わない。「進学を選ぶならこうなるね、就職ならこうだね」と別の角度から情報を提供をして、相談者の要件と希望に合う方法を探ってます。時間がかかる人もいるので、早く解決させなきゃと焦らないことかな。
S:進路は自分で決めると本人が理解することが大事だと思います。周囲の大人の意見を聞きすぎて、自分の意見が分からないということもあります。進学や就職の方法や選択肢だけでなく「最終的にはあなたが決めることだよ」と伝えることも相談者にとって必要な情報です。
決められない場合の大きな要因に、支えてくれる人がいないことが多いです。そういう場合は、何かあったときにもわたしたちが頼れる存在でいることが必要です。なので、『情報提供をする』『つながりを持ち続ける』の2点を大事にしています。
-相談者に提供する情報は、どんなものがありますか?
A:たとえば、「家庭に居づらいから、行ける場所がほしい」という声がよくあります。進路・就職に直結する話ではないですが、相談の中からぽろっとでてくる本人の希望です。都市部であれば、D×PとつながりのあるNPOなどを案内することが多いですね。案内できる場所がない場合は、地域のNPOや子ども食堂などを検索し連絡をとって、相談者に案内します。
緊急性の高い相談に関しては、専門機関を紹介することもあります。進路・就職面はユキサキチャットでサポートし、虐待や自立支援については専門機関がサポートするなど、それぞれの角度から相談者を支えます。
ただ、地方は都市部に比べるとつなぎ先となる場所は少ないですし、相談者が自力で行ける距離にないなどのハードルもあります。
-頼れる人や行ける場所という存在ということであれば、企業とかお店とかでもいいのでしょうか?
S:「将来どうすればいいのかわからない」という相談者にある飲食店の経営をされている方を紹介したこともあります。相談者はその人と話したあと、「話ができてすっきりしました」と言っていましたね。
その飲食店の方は過去に引きこもりを経験した人を雇っていたこともあったそうで、ニュースを見て「何かできませんか?」とD×Pに連絡してくださいました。相談者の事情を受け入れ「否定せず関わる」を大切にしてくださる方であれば、支援や進路の専門でなくても相談者にとって価値のある出会いになると思います。
まずは受け入れる姿勢。子どもたちが、周囲の誰かに相談するという選択肢を持てるように
-頼れる人がいない10代も多いのですね。
S:周囲に頼れる人がいない場合もあるのですが、そもそも相談できていないことも多くて。わたしたちが、「担任の先生以外に話せそうな人いる?」など少し視野を広げると相談者自身で解決できることもあるんですよね。
-何かしらの要因で、周囲の人が見えづらくなってしまうことがある?
A:不登校を経験した相談者の場合だと、「学校にいきたくない」と話をしたときに怒られた、取り合ってもらえなかったとか。否定されたと感じる経験があって、話すのやめよう、頼るのをやめようと思ったとよく聞きます。
-10代が「頼ってもいい」と思えるためにも、わたしたち大人ができることはありますか?
S:周囲の人への相談方法として、感情的にならないコミュニケーションを提案することもありますね。たとえば、手紙にして伝えるとか。建設的な話し合いができる方法を選ぶことは、子どもも大人もできることですね。
A:子どもから話を持ちかけられたり、内面を打ち明ける様子があったりしたら、もし「それは違うんじゃない?」と思っても、まずは受け入れる姿勢でいることでしょうか。そうすると子どもたちが、周囲の誰かに相談するという選択肢を持てるようになるかもしれないですね。
卒業に伴い、進路・就職など選択する機会が訪れるのが10代の時期。読んでくださっている方の中にも周囲と比べて焦ったり、落ち込んだりしたことを思い出す人もいるかもしれません。
10代が何度でも無料で相談でき、長くつながり続けることができるのは、D×Pの取り組みに共感し寄付をしてくださる方がいるから。
進学や就職、支援機関や公的な制度などあらゆる可能性を提案できるユキサキチャットに、新しい10代のセーフティネットの可能性を感じてくださっています。
寄付すること、つなぎ先となること、そして周囲の10代にとって「頼れる人」になること。人とのつながりが得づらいコロナ時代に、わたしたちと一緒にセーフティネットを広げてくださるとうれしいです。
大阪を拠点に通信・定時制高校とオンラインの両方で、生きづらさを抱えた10代に「つながる場」を届けるNPO法人。不登校/中退経験や経済的困難などさまざまな事情をもった10代とつながり、仕事など次のステップにつながるようにサポートしています。LINE利用した「ユキサキチャット」では、全国の10代を対象に相談事業を実施。在宅ワークなどの情報提供も進めています。本記事の執筆は、D×Pで広報を担当する磯みずほが担当。