性の健康教育を広げるNPOとして、若い世代や保護者を対象に性教育やライフプランニングを学ぶ講座を行っているNPO法人ピルコン理事長の染矢明日香さん。
今回初の著作として『マンガでわかるオトコの子の「性 」―思春期男子へ13のレッスン』を刊行。本書出版のきっかけや背景についてお伺いしました。
今回の書籍を発行しようと思った経緯を教えてください。これまでにも性教育に関する本もあるかと思いますが、なぜ、あえて思春期の男の子を対象として書籍を書こうと思ったのでしょうか?
ピルコンで中高生向けの性教育講演を行っていく中で、思春期の男子たちが人知れず性について悩んだり、ネットやメディアの性情報を鵜呑みにしてゆがんだ性のイメージをもっていることを実感しました。
マスターベーションをやり過ぎると死んでしまうという通称「テクノブレイク」や、「炭酸水で膣を洗えば避妊できる」といった避妊の都市伝説を信じている子も少なからずいるんです。ほんと、こちらがびっくりするくらいで。もちろんこれらは誤った情報なのですが。
一方で、女の子の方からも「男性から無理やり性行為をされて嫌な思いをした」「相手に嫌われたくないから断れない」という声もあり、たとえ女性が知識を持っていたとしても、男性側が人権意識を持っていないと性的な暴力は起こりうるんですよね。性は自分のアイデンティティにも関わるし、時にはパートナーを含め、一生を左右する問題になりますよね。
学校の保健体育の授業はマジメで最低限な科学的な知識しか扱っていない。一方で、ネットやメディアではいろんな情報であふれていて、正しくない情報もたくさんある。そんな中で、当事者にとってとっつきやすく読めて、かつ身近なエピソードとして感じられるマンガ形式で、きちんとした性の知識を届けられれば、ということで出版に至りました。
ありがたいことに発売直後からご好評をいただき、発売から1週間でamazonの保健・学校生活カテゴリでベストセラー1位を獲得しました!
(左:漫画家のみすこそさん、右:著者の染矢さん)
それはスゴイ!おめでとうございます!それにしても、ストレートな表紙のタイトルと帯ですね。
思春期男子にとって、まともな性の情報がないために「性」に嫌悪感を覚えたり、自分のコンプレックスに関わるデリケートなテーマということもあり、今回「性」という言葉もタイトルに使うか正直悩みました。
ただ、もうここまできたら分かりやすく直球で勝負をしよう! と(笑)。こんな明るくマジメに性を語っていいんだよ、ということも発信できたらと思います。もちろん恥ずかしい方はカバーと帯を外してご覧いただけたらと!
染矢さんがこれまで活動に取り組まれてきた中で、思春期男子の性の悩みとして、どんなことが多いのでしょうか?
女子の場合は母親やお姉さん、同性の友達、保健室の先生など、悩みを相談しやすい同性の人が周りにいるのに対して、男子の場合は性の話を真面目にできる人が少なく、人知れず悩む状況になりがちです。全国各地に開設されている子どものための電話相談では、実は男の子の悩みの相談が女の子よりも圧倒的に多いといいます。
ちなみに本書でも紹介していますが、性の悩みの定番ベスト3は、1位包茎、2位射精・マスターベーション・性欲、3位性器の形や大きさについてだそうです。これらの悩みが大人になってもコンプレックスとして残り、自分に自信が持てなかったり、パートナーシップや夫婦生活がうまくいかないケースにつながることもあるので、やはり思春期から性について知っておくのは大切なことです。
(出版記念シンポジウムには、注目の高さから大変多くの方が来場されていた)
本書は「オトコの子の性」がテーマですが、女性のからだやLGBT、リストカット、スマホのトラブルなど、様々なテーマも取り扱っていますね。それはなぜでしょうか?
「性」といっても、性器や性交に関わる話だけではなくて、セクシュアリティというか、豊かな人生を送るための生と性のあり方をテーマに考えました。
恋愛するかどうかは別にして、女性と関わって生きていくのに女性のからだやメカニズムについて知っていることで、相互理解が深まりますよね。同じように、この本は思春期男子だけではなく、女子や保護者の方にもおすすめしています。
また、最近の国内の調査では約7.6%がLGBT(同性愛者、性同一性障害などセクシュアル・マイノリティ、性的少数者)であるとも報告されている(*電通ダイバーシティ・ラボ2015年調査より)一方で、学校の教育課程では「思春期になると異性に関心を持つようになります」と教えているところがまだまだ一般的です。
学校の講演でも同性愛の話になると、笑いが起こることもあり、同性愛やオネエが笑いの対象というメディアの刷り込みも大きいと感じています。特に、「自分はおかしいのではないか?」と感じている男子に「自分らしくあっていい」と伝えられたらと思います。
最後に、思春期男子に関わる大人たちがおさえるべきポイントや本書の活用方法を教えてください。
先ほどもいったように、性的なことに悩んでいたとしても、子どもたちからSOSを出すのが難しい空気感があります。
まず、子どもに関わる大人たちが、当事者たちが今どんなことについて悩みがあるのかを知ってほしいと思います。また、思春期男子に関わる大人の方から子どもたちに本書を届けていただくことで、相談しやすい関係づくりのきっかけにしていただけたらと思います。
思春期男子に面と向かって渡すのが難しい関係性の方は、本棚にそっと入れておくのもおすすめです。性について話すのが得意な方もいれば、そうでない方もいるので、私たちのような外部講師を招いての講演もよい機会になると思います。
そして、本書の巻末に困った時の相談先リストをまとめていますので、自分たちだけでは解決が難しい問題が起こった場合は是非つながってもらえたらと思っています。
NPO法人ピルコン理事長。慶應義塾大学環境情報学部卒業。民間企業のマーケティング職を経て、性の健康啓発を行うNPO法人「ピルコン」を2013年に起業・現職。若者向けのセクシュアルセミナーやイベントの企画・出展の他、中高生向け、保護者向けの性教育講演や性教育コンテンツの開発・普及を行う。大学生ボランティアを中心に身近な目線で性の健康を伝えるLILYプログラムをのべ200回以上、2万名以上の中高生に届け、思春期からの正しい性知識の向上と対等なパートナーシップの意識醸成に貢献している。
著書:マンガでわかるオトコの子の「性 」、はじめてまなぶ「こころ」・「からだ」・「性」のだいじ ここからかるた
監修:10代の不安・悩みにこたえる「性」の本