日本の学校教育をより良くしていくために教員養成のあり方は、議論の欠かせないテーマの一つです。
学校で教える内容・方法が徐々に変わりつつある中、教師を育てていくための内容・方法も変化を求められています。教員の不祥事や批判などもたびたび報道される中、日本の2014年度公立学校教員採用選考試験の競争倍率は、1994年度以降で最低を記録し、教員になろうという人も少なくなっているようです。
では、他国の教員養成はどのようになっているのでしょうか?
カナダで留学支援と教育システムの研究・広報活動を行っている細越美和さんよりカナダの教員養成についてご紹介を頂きました。
(photo:Prepare for Canada)
「Education is not just a vendor of information, it is a vendor of inspiration!」(教育はただ情報を伝えるだけではありません。学生の好奇心を湧せることです。)
こちらは、主人がとても尊敬している理科の恩師であるマックビカー先生のお言葉です。主人は先生との出会いから教師になることを決めました。マックビカー先生の授業は、夜中に光る微生物を見学しに行ったり、サーモンの稚魚の放流をしたり、 豊富な知識とたくさんの体験学習を盛り込んでいて、大自然と学生をつなげるような素晴らしい授業だったそうです。
私もカナダで留学生のサポート業務をさせて頂く中で100校以上の学校を訪問し、多くの素敵な先生にお会いしました。今回はカナダで先生になるまでのステップをお話します。
教育学部に入学するための条件
カナダは、年齢、人種、身体能力、性別などで差別をしてはいけないという法律があり、社会経験をとても重要視しています。経験豊富な方が転職して先生にな ることも多く、年齢も様々です。
日本とカナダの教育学部の大きな違いは、カナダでは4年制大学を卒業して、青少年に関わる仕事やボランテイア経験を積んで から教育学部に申し込み、合格した人のみ入学出来ることです。カナダの教育学部は、大学によって多少期間は異なりますが、1年から16ヶ月のプログラムで 卒業と同時に日本の教員免許と同等の資格を取得することが出来ます。
教育学部に入学するには、
• 通常指導可能教科で4年制の学位を持っていること
• 小論文テストによる各自の教育に対しての姿勢や自己アピール
• 教育に携わったボランテイア経験や職務経験(夏の自然体験学習の引率や科学博物館での勤務、子どものアートクラスなど)
• 恩師や勤務先の上司からの推薦状
• 大学の成績
教育学部で学ぶことは、クラス管理、カリキュラムの組み方、テストの実施、 個人の能力にあわせた教授法、問題解決方法、特別支援教育など実践的なことから、 教育哲学や、教育者としての心得、 多国籍の文化理解、学生一人一人の資質を大切にする指導 、社会を築いていくために大切な人材の育成など、教育者としての責任や人間教育も含まれています。
Reflectionという英語の表現がありますが、 日々の活動を振り返り、経験から教師自身が成長することの大切さも学びます。
(photo:Ottawa University)
教師の裁量が大きい指導方法
カナダでは 指導要領は各州政府で用意されています。
資料をもとに先生が独自の教材を準備します。カナダでは幅広い学問の知識を習得すること、考える力、想像する力、チームワークやリーダーシップ、問題解決 能力を伸ばすことが重要視されています。
指導方法も丸暗記させるだけでなく、五感を使って学ぶように様々な方法を取り入れています。課題発表、グループプ ロジェクト、小論文、体験学習など指導方法はさまざまです。
教育実習で教育者の資質を確かめる
教育実習は、教育学部を開講している大学によって、構成やスケジュールは異なりますが大きく分けて2回あります。
最初は約6週間、その後は約13週 間の期間行われ、最初の実習は主に先生の授業の見学を行います。担当の先生の授業のみでなく、より多くの先生の授業を見学して学びます。長期の実習では、 授業を最高で3教科受け持ち、授業を行います。実施授業の前後で担当の教師の指導を受けながらスキルを伸ばします。教育学部の教授も実際の授業を見学し、 教育者の資質を確かめます。
カナダでは、教育学部の学生が全員卒業出来るわけではなく、教育学部の授業や実習をすべてこなし、複数の指導官、実習担当の教員の判断に合格した人 のみ卒業することが出来ます。たとえ勉強が出来たとしても、教育者としての人間性や適正が不足している場合は卒業することが出来ません。
(photo:Action Schools BC)
優秀な人材が集まる待遇と福利厚生
カナダで先生として正規雇用をすぐに探すのは難しいです。通常、教育学部を卒業したあと、非常勤として各教育委員会に登録し、お休みする先生の代わ りに授業を行い、経験を積みます。
朝、電話がかかってきていきなりクラスを持つのでかなり柔軟に取り組むことが要求されます。各教育委員会がそれぞれ正規 雇用の公募を出すので、応募して受かってはじめて正規雇用の先生になります。
カナダでは先生になってからの待遇は良いです。給与も教育委員会に よって異なりますが、平均的に初任給が年間300万から400万で勤務年数があがり、学歴もあがると年収が900万から1100万になります。夏休みも 2ヶ月あり、学校に出勤しないといけない日はありません。
カナダで先生になるのは大変ですが、学生にとっては知識も経験も豊富な優秀な教師が多いことはいいことです。また、待遇や福利厚生がいいので優秀な人材が教師というキャリアを選ぶことも良い流れになっていると思います。
カナダの教育は全員に成功してほしいという理念があります。企業も含め社会全体が協力して教育に力をいれています。成功の定義も一人一人が個人の才能を活 かして社会で自立することを目的としています。その結果、近年、カナダの公立の義務教育の質が世界トップクラスになりました。
優秀な教師を育てていることがこのような素晴らしい結果につながったと考えます。社会を良くするのも悪くするのも人です。経験も知識も豊富な先生方の活躍を社会全体でサポートしていくことが将来の社会を担う大事な人材の育成につながると考えます。
Westcoast International Education Consulting in Canada Ltd. 代表。
2004年にカナダ・バンクーバーにカナダ留学を支援するウエストコーストインターナショナルを設立。質の高い英語教育、多文化理解、才能教育に力を入れ、これまでに4,000人以上の留学生をサポート。15年間に渡り、発達障害や視覚障害を持つ留学生もカナダのインクルーシブな教育環境で支援経験あり。
さらに、カナダの教育システムの研究・広報活動として、カナダ州立教育機関の正式な日本窓口としてカナダと日本の教育機関の提携業務や日本の教育者向けのカナダ教育機関見学ツアー、カナダ大使館フェアでの州立教育機関のサポート等を行っている。