アウトリーチ

コロナ禍における子ども・若者のソーシャルワークとは?(前編)-居場所を失うことは、ライフラインが途切れること

新型コロナウイルスのような災害時、非常事態における活動判断は、全ての団体、個人が頭を悩ませたことと思います。中高生が中心にボランティアとして活動するNPOはどのように感染症拡大と向き合ってきたのか、全国こども福祉センターの代表である荒井和樹さんに、コロナ禍におけるソーシャルワークについてご紹介していただきました。

私は「NPO全国こども福祉センター」(以下、全国こども福祉センター)において、”繁華街やSNSで子どもたちに声をかける”という活動を毎週行なっています。

東日本大震災の直後から活動をスタートさせており、具体的には繁華街での街頭パトロールやSNSでの声かけ、ミーティング、オンラインアプリ、スポーツを通した交流活動などを行なっています。

平日は複数の大学で講義を担当しているため、毎週100名以上の子ども・若者と直接コミュニケーションを図っていることになります。

全国こども福祉センター:コロナ禍以前の繁華街での街頭パトロールの様子(全国こども福祉センター:コロナ禍以前の繁華街での街頭パトロールの様子)

繁華街での声かけや相談活動(※アウトリーチ)から繋がった中高生がボランティアとして参加、所属しており、毎週参加する子どもたちもいるため、居場所づくりとしての機能が強い活動です。

中には不登校や家族の問題を抱える子ども、施設入所経験がある若者も出入りしていますが、特別扱いをすることはありません。

中高生も大学生も社会人も、ひとりのボランティアとして活動をします。活動に医師や弁護士、ソーシャルワーカー等の専門職が参加することはありますが、特別扱いはしてもらえません。活動頻度の多いメンバー・中高生が活動を「する」「しない」を決めています。

しかし、今回のような災害時、非常事態における活動判断は、子どもたちだけに限らず、全ての団体、個人が頭を悩ませたことでしょう。

そこで本稿では、中高生が中心にボランティアとして活動するNPOが、どのように新型コロナウィルス感染症拡大と向き合ってきたのか、コロナ禍におけるソーシャルワークについてお話ししていきたいと思います。

※本記事では専門職以外の読者にもわかりやすくお伝えするため、専門用語はできる限り使用しないようにしています。

全国こども福祉センター:コロナ禍以前の事務所でのミーティングの様子(全国こども福祉センター:コロナ禍以前の事務所でのミーティングの様子)

失われる一時避難先と居場所

休校措置や公共施設の閉鎖、移動や外出自粛要請は、子ども・若者の生活環境に多大な影響を与えました。2月下旬から、名古屋市内でも学校の臨時休校、児童館や図書館、支援施設が続々と休館・閉館していきました。

コロナ禍で利用できる新しい制度や助成金、設置された相談窓口の案内が盛んに行われていましたが、ほとんどが正規労働者や事業者向けのものでした。

上記の施設を利用していたメンバーに今の気持ちを尋ねると、

「こういうときに閉館したら意味ないじゃん」
「行く場所ないんだけど…」

と、ため息交じりに訴えます。

家族と距離を置きたい、一時的に避難したいと考える子ども・若者にとって、一時避難先の確保は死活問題です。

ところが緊急事態宣言により、上記の支援機関や施設も例外なく閉鎖しました。

一時避難先としての機能をもつ全国こども福祉センターでも、「非常事態も変わらず活動を続けよう」「いや、活動を自粛すべきだ」と活動の是非をめぐり意見が分かれますが、必要な居場所であるという考えのもと、3月半ばまでは通常通りの活動が続きました。

私は今後のことを活動メンバーに考えてもらう機会として、見守りの立場を続けることにしました。

緊急事態宣言時の人気がなくなった名古屋駅前の様子(緊急事態宣言時の人気がなくなった名古屋駅前の様子)

多数決と同調圧力で奪われるライフライン

あるOB・OGメンバーから「私は自粛する」「活動休止をした方がよい」と意見が挙がると、年齢の高いメンバーからも「団体の評判が落ちる」「周囲に迷惑がかかる」「(子どもたちが感染したら)責任がとれない」という意見が挙がっていきます。

多数決と同調圧力が働き、3月下旬、活動休止の流れへと進み出すこととなりました。活動を楽しみにしていた中高生や一時避難先として利用していた若者にとって、苦しい時期に入ることとなります。

私のもとにも中高生や活動メンバーから相談が寄せられましたが、最も多かったものは「コロナ災害時に活動することに対しての、世間や周囲のメンバーからの批判について」でした。

そしてついには、3月下旬から5月半ばまでは個別対応を除く対面活動が休止となりました。

全国こども福祉センター:コロナ禍以前に行っていたスポーツを通した交流活動(全国こども福祉センター:コロナ禍以前に行っていたスポーツを通した交流活動)

新型コロナウィルスに直接感染しなくても、子どもや若者にとって活動休止は、友人と直接会えなくなるということ、居場所を失うこと、ライフラインが途切れることを意味しており、様々な困難が発生していきました。

「家族間のトラブルが増えた」
「からだの調子がおかしい」
「友人がつくれない」
「何のために生きているのか、分からない」

など、対人関係に関する悩みや心身に異常が生じていることがわかりました。

子ども・若者の権利擁護を目的とする団体ですら、個人の意思が尊重されず、メンバー同士で、攻撃や批判をしてしまう。このような現象は、個々の課題意識と対応の違いから生じるものです。

感染リスクを課題と感じる人もいれば、社会関係が途絶え、日常生活が困窮することを課題と感じる人もいます。もちろん、それぞれの課題に優劣はつけることは出来ません。人びとが共存を目指すならば、話し合いを重ね、折り合いをつけていく必要があります。

全国こども福祉センター:緊急事態宣言解除後の6月初旬の事務所の様子(全国こども福祉センター:緊急事態宣言解除後の6月初旬の事務所の様子)

災害前からの調査と信頼関係の構築

私は普段から、声かけ活動やフットサルなどの対面での活動に参加しながら、ボランティアや参加者である子どもたちの行動を観察しています。

一緒に遊んだり、見守りの立場をとったりと、活動を通して子ども・若者の心身状態を把握するように努めるようにしています。

何か特別な支援をするわけではありませんが、調子の悪そうなメンバーがいたら直接声をかけたり、SNSから「久しぶり!元気にしてる?」と安否確認のメッセージを入れるようにしています。災害前からの関係性の構築が重要と考えるからです。

ところが、新型コロナウィルス感染拡大により、従来のように対面で直接的なコミュニケーションを図ることが出来なくなりました。そこで、私は2月から3月にかけてオンラインでの活動事例を調査することにしました。

東海地方で活動事例がなければ、国内、海外の事例も探しました。すると、ある大学教員が呼びかけるオンライン・イベントが目に留まります。たくさんの学生や団体が参加予定ということがわかり、あらためて「交流機会」のニーズを確認しました。

その後、私はすぐに、オンライン・イベントの存在を活動メンバーに共有しました。活動メンバーは、さっそくオンライン・イベントにエントリー。

イベント終了後、活動メンバーに「どうだった?」と尋ねると、「友だちが出来た」「全国の学生団体と交流できた」「自分たちでも出来るかも」と報告してくれました。

全国こども福祉センター:アウトリーチ・カフェの様子(全国こども福祉センター:アウトリーチ・カフェの様子)

自分の問題に自分が取り組めるように、近くで支えること

活動メンバーが参加するミーティングでは「いま、何が起きているのか」と、「自分たちに出来ることは何か」について、何度も意見を出し合い、共有を行いました。

活動メンバーからは、「孤立する子どもがいるかもしれない」「息抜きの場所が必要だと思う」「新入生は友達がつくれないかも」「虐待や家出が増えるかも」などの仮説が挙がっていきました。

そして具体的なアクションとして、オンライン新歓(3月~)やオンラインによる居場所づくり(4月~アウトリーチ・カフェ&バー)がスタートしました。5月には中高生ボランティアが大学生のサポートを受けながら、オンラインイベントの運営を行うようになりました。

全国こども福祉センター:アウトリーチ・カフェの様子(全国こども福祉センター:アウトリーチ・カフェの様子)

私が活動メンバーに、オンライン・イベントを共有することにとどめたのは、大学教員やソーシャルワーカーが主導で活動をつくりあげるよりも、コロナ禍で発生する課題に活動メンバー自らが考え、その行動に対して伴走していくことが重要と考えたからです。

よって安易に「こうしたらよいのに」「こういう方法があるよ」と教えたり、自分が良いと思ったことを押しつけたりはしませんでした。

非常事態に向き合っているのは、政府や自治体、一部の専門家だけではありません。全ての人が、個別の事情を抱え、非常事態と向き合っています。

その問題の解決は、本人以外の代わりがやってくれるわけではありません。

最終的に災害(問題)と向き合うのは誰なのか。
ソーシャルワーカーはどのように人々や災害と向き合っていけばよいのか。

記事の後半は、コロナ禍におけるソーシャルワークの具体的な方法や内容について紹介していきたいと思います。

Author:荒井和樹
NPO法人全国こども福祉センター理事長、中京学院大学専任講師、椙山女学園大学兼任講師、保育士・社会福祉士(ソーシャルワーカー)
1982年、北海道生まれ。日本福祉大学大学院卒。児童養護施設職員として在職中、教育や公的福祉の枠組みから外れる子どもたちと出会い、支援の重複や機会の不平等に直面する。子どもたちを支援や保護の対象(客体)として捉えるのではなく、課題解決の主体として迎え、2012年に全国こども福祉センターを組織、2013年に法人化。繁華街やSNSで子ども・若者とフィールドワークを重ね、10年間で1万8千人以上の子ども・若者に活動できる環境を提供。著書に『子ども・若者が創るアウトリーチ 支援を前提としない新しい子ども家庭福祉』(アイ・エスエヌ)。主な論文に「若年被害女性等支援モデル事業におけるアウトリーチの方法」『日本の科学者』(本の泉社)がある。

子ども・若者が創るアウトリーチ 支援を前提としない新しい子ども家庭福祉

子ども・若者が創るアウトリーチ/支援を前提としない新しい子ども家庭福祉

アウトリーチとは「手をのばす」という意味です。
全国こども福祉センターは、名古屋駅前の繁華街やSNSなどで、子ども・若者に対して声をかけたり、スポーツや社会活動に誘って、つながりをつくる活動をしています。
際立った特徴は、団体のメンバーである子ども・若者自身が、子ども・若者に対して声をかけている点です。
本書では、この新しいスタイルの児童福祉(子ども家庭福祉)の理念や活動内容を紹介しています。

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