いじめは日本だけの問題でなく、しばし「幸せな国」として名高いここ北欧のスウェーデンでも起きています。いじめ防止に取り組むスウェーデンの非営利団体「Friends」の統計によると、スウェーデンでは毎年6万人もの子ども・若者がいじめの被害を受けているということです。
スウェーデンでは、国が定めた法律の中で、子どもたちが受ける差別的行為や嫌がらせに対して、どのように対処していくかについて、各学校で計画を立てることが義務付けられています。Friendsは、その計画作りのサポートをしている団体です。
以前に、日本のとある若者支援団体とFriendsを訪問し、とても感動したのでご紹介します。
(Friends program ヒアリング時の様子)
自分自身がいじめにあった経験から19歳で団体を設立
Friendsは、「幼稚園・学校・スポーツクラブで起こるいじめを撲滅する」というミッションのもと 1997年にサラ・ダンバー (女性)によって設立された非営利組織です。研究・教育・提言の3つの柱を掲げながら、スウェーデンの主要都市で活動をしています。
彼女自身も中学生の時にいじめに遭い、クラスのリーダー的存在であった一人の男子生徒に助けられた経験があったのでした。その後、いじめの経験を伝えるために講演会を開くようになり、19 歳のころに当団体を設立したのでした。
財源は、3 分の 1 が学校やスポーツクラブからの依頼費で、残りは銀行などの民間や個人からの寄付金で運営しています。視察期間中には、セブン・イレブンでシナモンロールを買うと、売り上げの一部が Friends に寄付されるキャンペーンが実施されていました。
スウェーデン最大規模の電波会社や銀行など、多くのスポンサーがFriendsをサポートしています。ストックホルムの隣の市であるソルナ市にある「Friends Arena」という巨大なスタジアムは、Swedebankという銀行会社が所有していますが、このアリーナの命名権をFriendsに寄付して「Friends Arena」という名前なりました。
ちなみに世界で大企業が所有するスタジアムの名前を非営利に寄付した団体はこれまでにないとのことです。Friendsの事務所は、このスタジアムのすぐ脇にあります。
(Photographs by Frankie Fouganthin)
当事者がいじめ撲滅プランを作れるように支援する
Friendsは、毎年、46,000 人以上の教員や保護者、子どもたちにいじめについて知ることができる機会を提供しています。そのような啓発事業も行っていますが、基本的にはFriends自体は、いじめを解決を行うプロジェクトを行うわけではありません。主体は、学校やスポーツクラブなどの子ども若者のいる場所に関わる全ての人とその組織です。
Friendsは、いじめ撲滅プランを当事者の子ども若者、教員、職員が適切にプランを作れるように支援するということです。そのためにいじめが起きる原因などについて啓発をしています。
このリュックサック(カンケンバッグ)の中には、15,000人の若者にいじめについて答えてもらったFriendsが実施した調査報告書が入っている。これを「首相や教育担当大臣などの政治家に送ります!」とInstagramで投稿しています。
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いじめを撲滅するカギは周囲の大人
いじめを撲滅するために、カギとなるのはもちろん教員や指導者、保護者である、大人です。しかし、どんな大人でもいじめ問題をうまく対処できるわけではありません。Friendsは、いじめ問題を解決するには、経験則に基づいたあらゆる偏見と主観を無くすことが大事だと考えています。
例えば、子どもが自分がいじめられないよう自分を守るためのコミュニケーションをしていたとしても、「あの子はこういう子だから」「これがこの子の性格だ」といった偏見で判断してしまうことを大人はついやりがちです。
また、大人はたいていの場合、経験則に基づいて判断してしまうために、実際にはいじめが起きているのにいじめだと認識ができないということあります。あらゆる人が差別、いじめ問題に対してこのような経験則を取り除き、いじめが起きる原因や構造に対して、組織レベルで平等的に対処すれば解決出来るとFriendsは信じています。
(YEC(若者エンパワメント委員会)スウェーデン視察報告書2015)
いじめは、様々なレベルでの「規範意識」がその根源的な理由の一つとしています。
例えば、クラスの中で起きるいじめでも、クラス内の特定のグループでの権力争いが起きていたり、グループをまとめるために誰かを笑い者にしたりするという「団体レベル」から、男らしい女の子が他の女の子と少し違うからという理由でいじめが起きる社会での「ジェンダーの規範意識」のレベルまで多種多様でです。
これが時には、教室、サッカーチーム、職場など場所を変え、規模を変え、長く続く時もあれば短く続くこともあります。そのようにいじめは、複雑な諸事情が絡み合って起きる問題なので、万能薬的な一つの解決策を提示することは難しいのです。
そのため、いじめ解決のプランを作るのは、現場で事情を最も知っている教員、学校職員、保護者、そして、子どもや若者たち本人ということになるのです。
Friendsのいじめを無くす方法
(YEC(若者エンパワメント委員会)スウェーデン視察報告書2015)
いじめ撲滅のプランをつくるためには、まず、各クラスの代表の生徒、教師、学校運営者らの3つのグループに分かれて、いじめ対策のための3カ年計画をそれぞれのグループで企画し、実践します。
企画の前には、Friendsがアンケート調査を実施し、その分析結果をそれぞれのグループごとに伝えます。これを基にそれぞれのグループは、対策の計画を立て、実施します。実施して一年が経った時点でグループが集まり、方法について評価をします。
88年、長野県出身。研究者。ストックホルム大学院教育学研究科 (国際比較教育専攻)修士。国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター (研究員)、文教大学・駒澤大学・東京女子大学(非常勤講師)、静岡県立大学国際関係学研究科 CEGLOS客員共同研究員。2012年からスウェーデンの首都ストックホルムに留学。以降、視察コーディネートや翻訳、記事執筆、独自調査に携わる。ヨーロッパで訪問した団体の数は100以上。新卒でドイツの若者政策の国際NGO Youth Policy Press(ベルリン)に勤務。その後ストックホルム大学教育学部 (国際比較教育専攻)修士課程を修了。現在は、関東の研究機関と大学で勤めながら、通訳、講演、執筆活動などにも従事。著書に「若者からはじまる民主主義-スウェーデンの若者政策」。