こんにちは、NPO法人ピルコンの染矢明日香です。皆さんは、これまでにどのような性教育を受けてきましたか?それは、実生活の中でも役立ったものでしょうか?
私たちは性の健康教育の開発・普及を行う非営利団体なのですが、性に関する問題はプライベートなため見えづらく、なかなか現状を知る機会がなかったり、当事者意識を持つことにハードルがあるように思います。私自身も学校での性教育を受けたものの、当事者意識を持てない一人でした。
「遠い世界の話ではない」と気付いたのは、自分がいざ困ってから
私は地方にある進学校を卒業後、関東の大学に入学し、一人暮らしを始めました。自分で言うのもなんですが、当時の私は親の期待に応えたいという思いが強く、マジメで素直な子でした。そんな私が大学3年生の時、当時付き合っていた彼との妊娠が発覚。「働いて自立したい」という思いと、「彼との結婚は考えられない」という理由で、泣く泣く中絶を選択した過去があります。
学校で受けた性教育では「精子と卵子が出会うのは天文学的な確率」というくだりに「妊娠はそう簡単にしないもの」という都合のいい解釈をしており、HIVなどの性感染症も遊んでいる人がかかるもので、普通に生活していれば縁がない病気と思っていました。まわりの友達も恋人がいれば泊まりのデートは当たり前で、避妊は「彼は大丈夫と言うし、きっと大丈夫なのだろう」という完全に受身モード。
いざ当事者になって初めて、あわててネットで調べ、自分が性に関するリスクや避妊についていかに無知だったのかを知るような状況でした。ただ、そのような困った事態に陥ってしまうのは、私だけではなかったのです。
草食化を嘆く前に知っておきたい若者の性の現状
メディアでは、若者の恋愛や性に対する消極性ばかりが取り沙汰されがちですが、日本性教育協会の調査(※1)によると、「性行動の分極化」とも呼ぶべき減少が起こっていると指摘されています。
コミュニケーションが活発な層と不活発な層で性行動も活発化・不活発化で分かれているとの分析がされており、若者の性についてのトラブルは依然として大きな問題として存在しています。
若者の性の現状を見ていくと、性経験のある人の割合は、女子中学生は20人に1人、男子中学生は25人に1人、女子高校生は4人に1人、男子高校生は7人に1人、大学生ともなると2人に1人となっています。
実際に起こっている性のトラブルとして、日本の人工妊娠中絶件数は微減傾向にあるものの、年間約19万件。出生数の約5分の1にも及ぶ命が、「産まない」選択をされています。その内、10代の中絶はその1割強を占め、一日に換算すると約53件にも及びます(※2)。
そして、性経験をもつ高校生のおよそ10人に1人が性感染症(クラミジア)に感染している(※3)というデータもあり、性のトラブルは一部の「進んでいる」子だけの問題ではなく、とても身近なものなのです。
実際に、性教育の活動を始めてから「あの子が?」という子から相談や過去の失敗談を聞いたり、講演先の高校生から「生でしてしまって妊娠したかもしれない」「性器に異常があるが、親に性行為をしたことがあると言えないので病院に行けなくて困っている」「ピルを飲みたいが身体への影響が心配」という相談を受けることは多々あります。
そのような状況の中、今の大学生が初めて性的メディアに接した時期は、「小学5年生未満」が男子54%、女子30%といずれもトップ(※4)という調査結果もあり、子どもたちが性的メディアで性を学ぶ前に、科学的な知識と判断力を身につけ、対等な関係性を学ぶ機会が必要だと言えます。
「性教育」が次世代の未来を守る
そして、このような現状の打開策のヒントは実は既にあります。
日本における先進的な事例として、秋田県では秋田県教育庁・秋田県教育委員会が地元の医師会と連携し、医師による性教育講座を県内の高校・中学で行っています。
県内すべての中高生が在学中に一度は妊娠・出産や避妊、性感染症などについて話を聞く機会を設けています。10代の人工妊娠中絶率が全国平均を大きく上回った2000年度からスタートし、2011年度には、その1/3にまで中絶率が減少。全国平均を下回るようになりました(※5)。
「性教育によって逆に性行動が活発化するのでは?」と心配する方もいるかもしれませんが、国連の調査においても、適切な性教育を受けた子どもは性行動に慎重になるということがわかっています。
ちなみに大学生になっても親から外泊を禁止されている友人もいましたが、その子は日中こっそりホテルや恋人の家で愛を育んでおり、ただ単に遠ざけようとするのはあまりよい対策ではないようです。
同様に、教育と医療が連携し、学校や自治体の要請を受け専門家よる性教育講演を行う動きが徐々に広まってきており、産婦人科医の組織である避妊教育ネットワークや、助産師会など精力的に活動している機関もあります。
一方で、性的無関心や嫌悪感を抱く子どもへどのようなケアをしていくかという問題や、複雑な家庭環境、貧困、虐待など、ハイリスクな状況にある子どもは、リストカットや不登校などの問題行動と同様に依存や防御反応として性行動が現れている傾向があり、知識の提供のみに留まらない包括的なケアが必要な課題もあります(※6)。
そして、性教育では同世代によるピア・エデュケーション(仲間教育)が対象者の関心を高め、有効であることも分かってきています。
NPOピルコンでは、医療従事者の監修を受けながら、中高生向けに性教育の出張講座を行う大学生・若手社会人のボランティアスタッフの育成・派遣を行っている他、性の問題に関する一般向けの勉強会を開催しています。
まずは子どもたちの現状を知り、そして自分からも伝える事で次世代の未来を守っていくことにつなげていきませんか?
(※1)2011年日本性教育協会調査報告
(※2)平成25年度厚生労働省「衛生行政報告例の概要」
(※3)平成18年国立保健医療科学院調査
(※4)渡辺真由子著『性情報リテラシー』
(※5)秋田県教育庁・秋田県健康福祉部子育て支援課
(※6)2013年 種部恭子『困難な背景を持つ妊娠、妊娠中に観察されるハイリスク要因』
NPO法人ピルコン理事長。慶應義塾大学環境情報学部卒業。民間企業のマーケティング職を経て、性の健康啓発を行うNPO法人「ピルコン」を2013年に起業・現職。若者向けのセクシュアルセミナーやイベントの企画・出展の他、中高生向け、保護者向けの性教育講演や性教育コンテンツの開発・普及を行う。大学生ボランティアを中心に身近な目線で性の健康を伝えるLILYプログラムをのべ200回以上、2万名以上の中高生に届け、思春期からの正しい性知識の向上と対等なパートナーシップの意識醸成に貢献している。
著書:マンガでわかるオトコの子の「性 」、はじめてまなぶ「こころ」・「からだ」・「性」のだいじ ここからかるた
監修:10代の不安・悩みにこたえる「性」の本