性教育・性の健康

緊急避妊薬・アフターピルが購入し難い日本の現状を変えるべき!-「思いがけない妊娠」を防ぐことで女性の健康や人生を守る

緊急避妊薬・アフターピルが購入し難い日本の現状を変えるべき!

筆者が代表を務めているNPOでは、性教育や若者への性の健康啓発に取り組んでいます。性に関する様々な悩みについて、とても多くのメール相談が寄せられています。

現在の教育システムの中では、若者はそもそも避妊に関する正しい知識を得る機会が極めて少なく、「避妊を失敗してしまった」「どうしたらいいかわからない」という相談メールが多く届きます。今回の記事では、多くの妊娠相談でハードルとなっているアフターピルの課題について取り上げたいと思います。

必要なのに、知られていないアフターピル

アフターピルは、緊急避妊薬やモーニングアフターピルとも言われ、「避妊に失敗した」「レイプされた」などの緊急時に72時間以内に服用する(服用は早い方がより効果的)ことで、高い確率で妊娠を防ぐことができます。

アフターピル

しかし、100%の避妊効果があるわけではなく、国内で認可されているノルレボ錠の避妊阻止率は81%。WHOのガイドラインでは、妊娠の可能性を95%下げられるとされています。

アフターピルにかかわる状況として、20~30代女性の12.3%が「アフターピルを使いたい状況」に直面した経験があると言う(※1)一方で、高校生のアフターピルの認知度は21%(※2)。筆者の手元にある大修館書店の高校の保健体育の教科書にはアフターピルの記載はありません。

(※1)オーキッドクラブ 2012年「避妊薬ピルに関する意識調査」
(※2)NPO法人ピルコン2017年「高校生の性知識・性意識・性の悩みに関する調査」

アフターピルにかかわる状況

避妊にはコンドームが基本、という人もいるかもしれませんが、コンドームは破れたり外れたりする失敗も多いのです。コンドームの年間失敗率は理想的な使用で2%ですが、一般的な使用で18%という調査(※3)もあります。

そもそもコンドームの正しいつけ方は学校でも家庭でもしっかり教えられてはいません。避妊には低用量ピルやIUD(子宮内避妊具)・IUS(子宮内避妊システム)などの選択肢もありますが、コンドームを避妊の基本に考えるほど、アフターピルも必要なのです。

(※3)Contraceptive Technology, 20 ed,. Ardent Media, 2011

アフターピルの「産婦人科に行く」「価格が高い」というハードル

たとえアフターピルの選択肢を知っていたとしても、「人目も気になり、産婦人科には行きづらい(特に地方だと顕著)」「学校や仕事があって平日の日中は病院に行けない」「土日や祝日(連休中)で病院がやっていない」「親に絶対知られたくない」(なお、緊急避妊は保険適用外なので、保険証は不要ですし、保護者に通知が行くことはありません。)など、アクセスのハードルの高さに悩む声を多く聞いてきました。

やっとのことでたどり着いた病院で、「医者から高圧的に説教をされ傷ついた」「もう病院には行きたくない」と思ったという声も聞きます。

そして、国内で認可されているアフターピル「ノルレボ」の原価は1回分で1万円程、医療機関での診察料も含めると2〜3万円にもなります。いくら妊娠が心配でも、買うのをためらってしまうのは若い女性であればなおさらでしょう。

日本の避妊の現状、世界から見て明らかに遅れている

一方、他の国の状況を見てみると、アメリカやEU圏内の44カ国で、アフターピルは既に安全性が確認されたとして市販化され、多くの場合、薬局で買うことができるようになっています(2018年1月日本家族計画協会より)。価格帯も5千円未満が相場で、更には若者には無料で提供する国も少なくない状況にあります。

アフターピルに関する国際比較#なんでないの。プロジェクトHPより。2018年1月調べ。レートによる変動あり)

実は、日本でも市民の要望を受け、2017年にアフターピルのOTC(医師による処方箋が必要なく、薬局・ドラッグストアで買える一般用医薬品)化が厚労省によって検討されました。しかし、パブリックコメントは348件中、賛成が320件、反対はわずか28件という圧倒的な世論を受けたにも関わらずOTC化は不可になったのです。

検討委員のメンバーは「薬局で薬剤師が説明するのが困難」や、「安易な使用が広がる」などの懸念を示し、パブリックコメントを募集する以前の段階で、市販化は全会一致で否決されたそうです。

なぜ、日本の女性はアフターピルを薬局で買うことができず、完全に価格の桁が違うのでしょうか?これは不平等とは言えないでしょうか?

アフターピルのアクセス改善は当然の権利

WHO(2017年)の緊急避妊に関する勧告では、「意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性および少女には、緊急避妊にアクセスする権利があり、緊急避妊の複数の手段は国内のあらゆる家族計画プログラムに常に含まれねばならない」と述べられています。

性や子どもを産むことに関わるすべてにおいて、本人の意思が尊重され、自分らしく生きられることや、そのために必要な情報を得られ、自分にあった選択肢にアクセスできることは、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」として提唱されている当然の権利です。

腹痛

アフターピルへのアクセスを、ハイリスクの女性とつながる機会に

一方で、「性教育がきちんとされていない状況で、アフターピルが入手しやすいようになれば、男性側が悪用する」という声を聞くこともあります。コンドームなしのセックスを助長したり、性感染症が広がることを懸念する人もいるでしょう。

しかし、だからといって、アフターピルのアクセスを制限したり、高価な値段を改めないことは、結局、妊娠する当事者に責任を押し付けているのではないでしょうか? コンドームが産婦人科でしか売られておらずもっと高価なら、妊娠を望んでいない人がセックスをしないかと言えば、そうではないですよね。

そして、日本における虐待死の4割は0歳児であり、その理由の多くは、「思いがけない妊娠」です。思いがけない妊娠の背景には、先述の避妊へのアクセスの問題だけではなく、避妊の知識の無さや様々な生きづらさからくる社会的な孤立も背景にあるでしょう。

性暴力やデートDV・DVに遭っている、もしくは避妊や性感染症についての知識に乏しいハイリスクな状況下にある女性が、アフターピルへのアクセスを通して、社会資源とつながったり、避妊についての正確な知識を得る機会として活用していくことが今後必要ではないでしょうか?

困っている人が放置されたり叱責されるのではなく、安心してSOSを出せる社会にしていくべきではないでしょうか?

Author:染矢明日香
NPO法人ピルコン理事長。慶應義塾大学環境情報学部卒業。民間企業のマーケティング職を経て、性の健康啓発を行うNPO法人「ピルコン」を2013年に起業・現職。若者向けのセクシュアルセミナーやイベントの企画・出展の他、中高生向け、保護者向けの性教育講演や性教育コンテンツの開発・普及を行う。大学生ボランティアを中心に身近な目線で性の健康を伝えるLILYプログラムをのべ200回以上、2万名以上の中高生に届け、思春期からの正しい性知識の向上と対等なパートナーシップの意識醸成に貢献している。
著書:マンガでわかるオトコの子の「性 」はじめてまなぶ「こころ」・「からだ」・「性」のだいじ ここからかるた
監修:10代の不安・悩みにこたえる「性」の本
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