高等教育

大学に友達がいない「ぼっち」対策に力を入れる大学の今-誰とも会話を一日せず、4年間で友達ゼロの大学生も

大学

「大学4年間、一人も友だちができなかった」そういう大学生がいることを、皆さんはご存知でしょうか?

私は大学の中退予防の仕事で、中退リスクの高い学生(単位がほとんど取れていない、出席率が著しく低いなど)にヒアリングを行い、大学生活がうまくいっていない要因を聞くことがあります。その中で出てきたのが、前述のような学生です。

「友だちもいないし、大学生活がつまらない。だから辞めます。」

そんな大学生は、少なくありません。「そんなことで!」と思われるかもしれませんが、大学内に友だちがいないということは、「家を出てから帰るまで、誰とも話すことなく一日を終えることがある」ということです。それでいて授業にもあまり興味が持てない、将来やりたいことも見つかりそうにない・・・。

友だちがいないことだけを理由に辞めることはありませんが、中退というのは様々な要因が複合的に作用して起きますので、十分な影響を与えるのです。

すでに大学では、入学直後に新入生合宿をして交流させたり、初年次ゼミという高校までで言うクラスルームのような授業を作ったり、「友だち作り支援」の取り組みが行われています。

「高校での友だちとの関わりは学校の中だけ」と割り切る高校生たち

「大学がそんなことまでする必要はないのでは?」と感じる方も多いと思いますが、大学に入学する層は広がっており、そうは言っていられないのが現状です。

私が関わっている、ある大学の初年次ゼミには、不登校経験のある学生が多くいます。そういう学生が、大学という自ら話しかけないと友だちが作りにくい環境でゼロから友だちを作るのはハードルの高いことです。

不登校経験者に限らず、全般的に新しい人間関係を築く力が弱まっているのでは、と感じることがあります。

以前、仕事の一環で高校生にヒアリング調査をしたときのことです。放課後や土日をどう過ごしているか質問すると、地元の友達(幼少期からの仲の良い友だち)と遊ぶ、という声が多く、すでに高校生で学校の中での人間関係とプライベートを分けている姿勢が垣間見えました。

SNSの発達により、既存の友人関係の維持が容易になり、新しい友だちをつくる必要性が下がっているのでしょう。

高校にはクラスがありますので、休み時間の話し相手くらいは簡単に作れるでしょうが、土日に遊ぶとなるともう一歩関係を深める必要がありますので、その経験が不足していれば大学でつまずくのも無理はありません。

学校の教室

多様化する消費活動の中で、共通点を見出すのが難しくなっている

社会環境の変化の中で、友だちの作りやすさも大きく変化しているように感じます。私が特に難しさを感じるのは、メディアやコンテンツが溢れ、多様化した趣味嗜好に対応できるようになった一方で、「みんなが知っている」「みんなが好き」なものがないという現状です。

前述の高校生へのヒアリング調査でも、テレビ番組も音楽も自分が好きなものだけをyoutubeなどの動画サイトで検索してみており、「みんなに支持されているもの」が見えてきませんでした。「共通点」は友だち作りの基本ですが、その共通点が存在しないとなると、きっかけをつかむことすらできません。

過去20年間のミリオン認定数の推移

よく出される例ですが、音楽のミリオンヒットが急激に減っていることも、この現状を表しているように思います。これではカラオケに行ってもみんなで盛り上がれる曲がありません。消費者ニーズが多様化しているせいなのか、コンテンツの魅力が落ちているからなのかは議論の分かれるところですが、いずれにしても共通体験を持ちにくい時代にあることは確かです。

「人と関係を築く力」として、みんなで育む

大学に関わらず、小中高校まででも、卒業して社会に出てからでも、複数のコミュニティを持ち、多様な人と関係を築くことは、コミュニケーションの力を伸ばす上でも、視野を広げ将来を考える上でもとても重要です。大学だけでなく、様々なものからのドロップアウトが防げるかもしれませんし、ドロップアウトしても、やり直すセーフティネットになるかもしれません。

これまで述べてきた通り、友だちが作れるかどうかは本人の心がけだけの問題ではありません。

「人と関係を築く力」として学校や家庭などで育まれるものだと思いますし、その機会に恵まれずに大学に来てしまえば、大学でも支援をしなければなりません。「この年齢には、こんなこと出来て当たり前」というのは、その力を身に着ける機会や支援に恵まれた側の意見です。

この力を育む手段については、すでに高校までを対象にした形で様々な方法論が提案されていますので、ここでは述べません。

ただ、こうして大学教育に関わっていて感じるのは、「友だち作り」に限らず、年齢と共に自然と成熟すると誤解されていることによるしわ寄せが、高校を卒業してしまった彼らに来ているということです。大学がどうあるべきなのか、様々なご意見があると思いますが、目の前にいる学生がどういう状態なのかにも目を向けて今後も大学教育と向き合っていきたいと思います。

Author:羽田野祥子
教育・研修プランナー。1987年、熊本県八代市に生まれる。東京の大学に進学し、卒業後は企業の新卒採用を支援する会社で営業職に就く。その後、研修企画会社を経て教育関係のNPO法人で新規事業の立ち上げやマネジメントを経験し、2018年10月に宮崎県日南市へ移住。現在は「地方と都市部の教育格差を解消する」をミッションに掲げ、フリーランスとして中高生のキャリア教育や企業の社員研修などに取り組む。

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