学校教員

世界一多忙な日本の先生が一番負担に感じていること-本務の子どもの指導に集中できない原因とは?

学校教員

2014年6月に発表されたOECD・国際教員指導環境調査から、日本の教員の勤務時間は34の国と地域の中で最も長いことが明らかになり、(日本53.9時間、参加国平均38.3時間)各メディアでも教員の多忙ぶりが報道されるようになりました。

この調査を受けて行われた文部科学省の平成26年度「教職員の業務実態調査」では、全国の公立小中学校の教諭の1日平均在校時間は、小学校で11時間35分、中学校で12時間6分に上り、副校長・教頭の平均在校時間は小学校が12時間50分、中学校が12時間53分で、小中学校とも校長や教諭より1時間前後長くなっていました。

一方で、先述のOECD調査では、「教職は社会的に、高く評価されていると思う」と答えた割合で、日本は参加国平均(30.9%)を下回る28.1%であり、世界一多忙だが社会的に評価されていないと考える教員の現状も明らかになりました。

では、学校の先生は、実際にどのようなことに時間がかかり、負担を感じているのでしょうか?

OECD・国際教員指導環境調査

教員の仕事時間の内訳

OECD国際教員指導環境調査では、参加国平均の約1.4倍の勤務時間となっている日本だが、教員の仕事時間の内訳はどのようになっているのでしょうか?

同調査では、上記のグラフのような結果が示されています。「課外活動の指導に使った時間」は、日本は参加国平均の3倍以上の時間を費やしており、「一般事務業務に使った時間」や「学校運営業務に使った時間」も日本は参加国平均の約2倍の時間を費やしています。

一方で「指導(授業)に使った時間」や「生徒の課題の採点や添削に使った時間」などは、参加国平均を下回る結果となっています。部活動などの課外活動や事務処理など他国に比べて教員の職域がとても広いのが日本の教員の特徴です。

教員が負担に感じていることとは?

教員自身は、業務内容に関してどのように感じているのでしょうか?

文部科学省の平成26年度「教職員の業務実態調査」では、管理職(副校長・教頭)と現場の教諭と分けて負担感を調査しています。

「従事率」は、従事状況に係る設問に関して、「主担当として従事している」「一部従事している」と回答した数の和の全有効回答数に対する割合です。従事率が50%以上というのは、過半数を超える多くの職員が行っている業務だということです。

「負担感率」は、負担感に係る設問に関して、「負担である」「どちらかと言えば負担である」と回答した数の和の全有効回答数に対する割合となります。負担感の割合が高いほど多くの職員が負担に感じているということになります。

平成26年度「教職員の業務実態調査」

上記のグラフは、管理職(副校長・教頭)の負担感を示すグラフとなります。

「国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応」が第一位となっています。この文部科学省の調査で「国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応」が負担となっていることが明らかになっていることがとても皮肉にも感じます。

定期的な調査に加え、何か事件などがあるたびに調査も入るため、年間を通じての量も多くなるのかもしれません。また、「また同じような調査か」「回答して何になるのか」というような徒労感があるのかもしれません。

二番目には、保護者や地域への対応がそれぞれ挙げられています。集金に関する対応については、管理職(副校長・教頭)以外の人が十分に対応できる業務であり、効率化を図れる部分だとも思います。

平成26年度「教職員の業務実態調査」

上記のグラフは、現場の教諭の負担感を示すグラフとなります。

こちらでも「国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応」が第一位となっています。

それ以降として「保護者・地域からの要望・苦情等へ対応」「児童・生徒、保護者アンケートの実施・集計」「研修会や教育研究の事前レポートや報告書の作成」などが続いています。

全体を見ても「本当に教員がやらなきゃいけないことなの?」と思う項目が散見されます。OECD・国際教員指導環境調査で「一般事務業務に使った時間」や「学校運営業務に使った時間」も日本は参加国平均の約2倍の時間を費やしていたのも納得がいきます。

教員のやるべきことを再定義する必要がある

調査より幅広い業務を求められ、子どもたちの指導に集中できていな現状が浮き彫りになっています。また、教員の自己効力感の低さが顕著であることも指摘されており、国際教員指導環境調査の日本版要約では、下記のように述べられています。

調査では、教員に対し、自分の指導において、学級運営、教科指導、生徒の主体的学習参加の促進に関連する各項目がどの程度できているか(自己効力感)を質問している。

日本では、いずれの側面においても、自己効力感の高い教員(「非常に良くてきている」「かなりできている」と回答した教員)の割合が参加国平均(70~92%)を大きく下回る(16~54%。日本は「ある程度できている」と回答した割合が多い)。

各項目別にみると、学級運営と教科指導については、自己効力感の高い教員の割合が相対的に高い(一つの項目を除き、43~54%)が、生徒の主体的学習参加を促進することについては特に少ない(16~26%)。

ただし、例えば学級運営の秩序に関する客観的な状況を問う他の質問では、日本は参加国平均よりも良好な結果となっており、自己効力感が低いことは客観的な達成度とは別の要因(謙虚な自己評価を下す傾向、目標水準が高い等)による可能性がある。

では、どうすれば教員が自信をもって子どもたちの指導を行い、やりがいを感じられる仕事となるのでしょうか?

教員を専門職として業務を限定し、子どもたちの指導に関する計画準備や新しい能力開発に力を入れられるようにすることです。

教員以外でも対応できる一般事務的な業務の切り出し、ITでの業務の効率化を進めることは不可欠です。また、問題が複雑なケースに対して、他の福祉や心理、医療の専門スタッフが積極的に介入して子どもをサポートできる体制が不可欠です。

文部科学省・チーム学校関連資料

上記のグラフ(文部科学省・チーム学校関連資料)を見れば、いかに日本が教員のみでの対応となっているかよくわかります。国際的に見ればなんでもかんでも教員にやらせている日本の方が特殊なのです。

子どもと向き合い、実際に広義な学力を身につけさせていくことができれば、教員の自己効力感も自然と高まっていくと考えられます。生徒の主体的学習参加の促進について重要性を感じながら、そこに時間をかけられない状況は教員として辛い状況です。

教員の質を高めていくためには、本人の努力だけでなく、制度や枠組みそのものを変えていくことが求められています。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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