保育・幼児教育

世界と比べて日本の若手保育者は働きすぎ?-「子どもと接しない仕事時間」が特に長い傾向

2020年12月に「OECD国際幼児教育・保育従事者調査」の結果公表が報じられました。他国との比較、若手とベテランとの比較、などの観点において、日本の保育者の勤務実態の特徴が浮かび上がってきます。これまであまりスポットが当たってこなかった保育者の勤務実態について、調査をもとにしながらお伝えします。

幼児と保育者

「日本の“保育者”は仕事時間が最も長い―」

このような見出しの報道を多く目にしたのは、昨年12月初旬のこと。「OECD国際幼児教育・保育従事者調査」の結果公表を報じたものでした。(今回の公表はポイントのみ、詳細公表は2021年を予定とのこと)

小学校、中学校教員の勤務実態については、数年前からスポットがあたっていますが、保育者についてはあまり注目されることはなかったように記憶しています。

筆者はもともと幼稚園教諭でした。当時は、「子どもが帰ったら何してるの?休憩?」と、周囲からよく聞かれたものです。

そのつど苦い顔をしていましたが、今となっては確かに、外からはその勤務実態が見えにくいことも頷けます。

だからこそ、今回保育者にスポットをあてた調査が実施されたことについて、まず感慨深く思いました。できれば多くの人に知ってもらいたい。そういった気持ちで、この記事を書いています。

本記事では園長・所長ではなく「保育者」に焦点を当てます。前編の記事では、仕事時間を含むいくつかの項目の結果をピックアップし、整理していきます。

後編の記事では、幼稚園教諭としての経験を踏まえながら調査結果を読み解いていきたいと思います。

※本調査の概要
・国立教育政策研究所が2018年に実施し、保育者及び園長・所長の園での実践、勤務環境、研修、管理運営等に焦点を当てた初めての国際調査。
・調査対象は、全国の国公私立幼稚園・保育所・認定こども園から無作為に選ばれた園の園長・所長と、通常業務として3~5歳児の保育を担当する保育者。(保育者は、非常勤、パートタイム、嘱託、短時間勤務、再任用などの保育者を含む)。

「フルタイムの保育者の仕事時間」は、参加国の中で最長

まず、「常勤の保育者の仕事時間」についてです。直近の「通常の一週間」において、園での仕事に関連した業務に従事した時間の合計を尋ねています。

日本の常勤の保育者は、1週間当たりの仕事時間が50.4時間でした。これは、参加国中で最長です。最も短いのはアイスランドで、33.5時間でした。日本とは17時間程度の開きがあります。

OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018国立教育政策研究所:OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018

またこの時間は、勤務年数別で差が生まれます。通常勤務年数3年以上の常勤の保育者(以下、3年以上常勤保育者)は49.3時間ですが、勤務年数3年以下の常勤の保育者(以下、3年以下常勤保育者)は54.0時間と、4.7時間の差が生まれています。

他国の結果を見ると、3年以下常勤保育者の方が仕事時間が長いのは日本、韓国、トルコのみで、差が最も顕著なのは日本でした。

参加国中、仕事時間が最も短いアイスランドで勤務年数別に見ると、3年以下常勤保育者は29.5時間でした。日本の3年以下常勤保育者の、約半分程度の時間になります。

OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018国立教育政策研究所:OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018

仕事時間の中で、「子どもと接しない時間」も長い傾向

さらに、興味深い調査結果があります。仕事時間の中で「子どもと接しない時間」がどのくらいか、尋ねている項目があります。その結果、日本の常勤の保育者が子どもと接しない時間は、参加国中2番目に高い16.9時間でした。

また、トータルの仕事時間で差があったように、こちらも勤務年数別で差があります。3年以上常勤保育者が15.8時間に対し、3年以下常勤保育者は20.7時間でした。勤務年数別で他国と比べると、最長です。

OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018国立教育政策研究所:OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018

保育者同士のフィードバックは少ない傾向

次に、保育者間の協働についてです。

「他の保育者とともに、子供の育ちや生活の評価について話し合う」ことが毎日行われている割合は38.6%で、参加国中2番目の高さ(※1)でした。

また、「特定の子どもの発達やニーズについて話し合う」「子供の育ちや学び、生活の充実のための働きかけについて話し合う」の割合も参加国中3番目(※2)と、比較的上位です。

一方で「他の保育者の実践についてのフィードバックを与える」ことが毎日行われている割合は9.5%、週に1回でも17.2%と、参加国中最も低い割合(※3)でした。

※1,2,3:他国の数値は「結果のポイント」には未記載のため、記述より引用。

保育者同士で相談し合うことはあるものの、実際にお互いの保育を見合ってフィードバックする機会は少ないという傾向が明らかになりました。

OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018国立教育政策研究所:OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018

給与には不満、しかし仕事そのものへは概ね満足

次に、「給与に満足している日本の保育者の割合」です。

これは「職務に対して支払われる給与に満足しているか」の問いに、「非常によく当てはまる」「当てはまる」「当てはまらない」「全く当てはまらない」の4つのうち、「非常によく当てはまる」「当てはまる」と回答した割合になります。

日本は22.6%で、参加国中2番目に低い結果となりました。最も低いのはアイスランドで、9.7%となります。しかし参加国全てが40%未満という結果で、全体的に給与への満足は低い傾向であると言えます。

OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018国立教育政策研究所:OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018

では、保育の仕事そのものへの満足度はどうでしょうか。

「全体としてこの仕事に満足している」に対して「非常によく当てはまる」「当てはまる」と回答した割合は、日本は80.7%でした。決して低くはない数字ですが、韓国を除く他国が90%を超えていることに比べると、やや低い傾向にあるようです。

また、この項目についても勤務年数別で差があります。勤務年数3年以上の保育者では82.4%ですが、3年以下の保育者では73.8%と、10%程度の開きがありました。若い保育者の方が、仕事への満足度が低くなっています。

OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018国立教育政策研究所:OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018

上記の結果において、他国との差も気になりますが、勤務年数3年以上の保育者と、3年以下の保育者との間で差が生まれていた点が気になりました。

勤務年数によって差が生まれているのは、どのような背景があるのか。

後編の記事では、筆者の幼稚園教諭としての経験を踏まえて考察していきたいと思います。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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