国立社会保障・人口問題研究所の日本の将来推計人口(H29年推計)によると、2017年の6歳の子どもの人数は、101万人になります。2045年の6歳の子どもの人数は、75万人になるそうです。
今後、一世代の約30年進むと、6歳の子どもの人口が25万人減ります。それに伴い、小学校の数も減っていきます。また、2045年は、人工知能が人間の脳を超えていくと言われている年でもあります。
2018年4月に小学1年生になる子どもは、2045年に33歳となります。今の平均寿命から考えても、まだ人生の半分にも達していない年齢です。
これから人生100年時代となり、もっと平均寿命が伸びる中、予想ができない時代がやってきます。今年、小学1年生になる子どもたちは、未曾有の2045年を一番働き盛りの年齢で通り過ぎていくことになります。「よくわからない時代を生きていく力」こそが、これから必要な力となってきます。
これからの時代について、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字からVUCA(ブーカ)という言葉が使われるようになりました。VUCAの時代においては、一元的な学校教育ではなく、多元的な学びが必要だということが分かります。
そこで、私達の家庭では、学校だけではない学び方を、暮らしの中に取り入れることで、VUCAの時代でも変わらない、人とコミュニケーションをする、知的好奇心を持ち続ける、興味を持ったことを調べ探求するなどの要素を取り入れた、ハイブリッドな学び方を考えようとしました。
そこで生まれたのが、ハイブリッドスクーリングです。
ハイブリッドスクーリングとは、「年間30日以上、学校に通わずに、家庭学習や地域学習で学ぶ」という学校と学校外の学びを組み合わせた教育方法です。筆者が代表を務める組織で、2016年につくった新しい言葉です。
(このルーフテント付きの電気自動車で全国を旅しながら学んでいます)
これまで、不登校支援やオルタナティブスクールという文脈で語られてきた「学校的な学び」と「反学校的な学び」の二項対立型の学び方を超えて、学校を巻き込みつつ、子どもたち一人ひとりの学び方を拡張していきたいという試みから生まれました。
子どもに向けた一つの選択肢として普及を目指しています。昨今、メディアでも報じられるようになり、大きな反響がありました。
ハイブリットスクーリングをはじめた理由とは?
実際にハイブリットスクールを実践している家庭の話を伺ってみると、はじめた理由も様々でした。私の知っている事例から下記の5つのタイプに類型化してみました。私の家族の場合は、「出張勢」と「ヒッピー勢」に近い理由でスタートさせました。
では、上記のニーズをまとめていくとどうなるかをグラフにまとめてみました。これまでのハイブリッドスクーリングがない時代の状況では、学校文化に合わない場合は、地元のフリースクールもしくは、ホームスクーリングなどが一般的でした。
ただ、働き方改革(複業の認可)などの動きの中で、親の仕事が場所と時間に拘束されないケースも多くなってきました。結果として、下記のような位置づけが一例として挙げられるようになりました。
すると、親子で学び合う探究学習+リカレント教育(※)のような仕組みがハイブリッドスクーリングとマッチングしていきます。
※リカレント教育:社会に出た者(社会人)が教育機関に入り直して改めて教育を受けるということ、および、そうした活動を支援する制度や取り組み、考え方
(秋田県五城目町にある「ただのあそび場」で探究学習をしています)
どんな家庭がハイブリットスクーリングに向いているのか?
実際にハイブリッドスクーリングを実践してみて、下記の3つの要素を持った家庭には、特に向いていると思っています。
1.子どもが学校に行きたがらない
子どもが行きたくないなら行かなくても良いと思います。一方で、学校に通うポジティブな理由が本人にあるなら行けば良いと思います。大事なのは学校に行くにしろ、行かないにしろ親が勝手に決めないことです。
2.親の仕事に子どもを連れていける
子どもを職場や事業に連れて行くことで、オフィス環境やそこで仕事をする大人のふるまいが子どもの知的好奇心を刺激し、新しい興味関心が湧いてきます。家庭や学校という閉じた環境だけでなく、多様な人々がいる開かれた環境で、子ども自身が主体的に学び続けられるようになることはハイブリッドスクーリングに重要な要素だと思います。
3.これまで外部委託してきた教育を自分たちで担う覚悟を持っている
学校に行かない場合、お昼ご飯もつくらないといけませんし、本人が自分で学ぶ習慣が身に着くまでは一緒にテーマ探しをする必要もあります。時には旅行に行って、自然体験プログラムを取り入れたほうが良い場合もあります。スクラッチやラズベリーパイなどのプログラミングも分からないところは一緒に進めないといけません。
「これ全部やるのは大変だな」と思った人はふと思い出してください。これら全部を無償でそれぞれ担任の先生が教えていく学校という素晴らしい外部委託ができる場所があるのです。だからこそ、みんなそこに子どもを預けるのです。
でも一方で、親はその教育機会を外部に委託することで、その子どもと一緒に学ぶ機会がなくなり、子どもと共に分からないことを探究する力を奪われているとも感じるのです。
だから、自分たちで担うことはある程度大変なことは覚悟の上で、自分の手元に学びと暮らしの実感を持ちたい方はハイブリッドスクーリングに向いていると感じます。
親自身が子どもと一緒に学ぶということ
(親の仕事に付き添い、色々な企業に遊びに行くのもハイブリッドスクーリングの大切な学びの1つです)
この1~3の全ての要素を満たしている家庭が日本にどれだけいるのかというと、まだまだ少ないのかもしれません。ただ、私の身の回りでは、「子どものために」という理由だけでハイブリッドスクーリングをしている人はほぼいません。
親自身が子どもと一緒に学ぶこと、子どもの個性にあった学び方を一緒にデザインしながら、親自身も学んでいる。そして、それを自分の仕事に活かしている人が数多くいます。ハイブリッドスクーリングを通じて、子どもとともに世の中にない新しい発見や気付きを楽しんでいるのです。
これまでの教育観の中で語られてきた「学び=しんどい」それでも「子どものために」という文脈よりは、「学び=発見」だからこそ「子どもと共に」という文脈で学び続ける一人の人として姿勢が磨かれていくという感覚を持っています。
まだまだはじまったばかりのハイブリッドスクーリングですから、実践者から具体的な事例を学びつつ、自分の家庭らしい方法を実践していくことが大事だと考えています。
Author:松浦真
大阪府出身。2007年にNPO法人cobonを設立し、関西を中心に「こどものまち」事業やアーティストの交流事業を展開。2016年4月に2人の子どもと共に五城目町に移住し、合同会社G-experienceを設立。2020年4月より、秋田県五城目町議会議員。