ホームスクール

日本で広がるか?家庭で学習するホームスクールとは(後編)-不登校は時代遅れの教育を察知した子どもの脱出現象

子どもたちの多様な学びのあり方について考えるため、学校と学校外の学びを組み合わせた教育を実践している松浦真さん、智子さんが実施されている「ハイブリッドスクーリング報告会」にお伺いしました。今回は、北本貴子さん(NPO法人日本ホームスクール支援協会・理事)、竹内薫さん(YES International School・学校長)が登壇されました。

前編では、北本さんより日本やアメリカでのホームスクールの現状、竹内さんの新たな取り組みに至るまでの経緯を伺いました。後編では、ホームスクールをサポートする「アンブレラスクール」(Umbrella school)の必要性、これからの時代に必要な教育のあり方についてお伺いしました。

北本貴子さん(NPO法人日本ホームスクール支援協会・理事)、竹内薫さん(YES International School・学校長)

北本貴子さん:ラナンキュラス(株)代表、みらいの学校・代表、NPO法人日本ホームスクール支援協会・理事、デザイナー。3人の子どもの子育て中。現在、長男と次女がホームスクールに取り組んでいる。

竹内薫さん:サイエンス作家。理学博士。物理学の解説書や科学評論を中心に100冊あまりの著作物を発刊。長年、テレビやラジオでも司会やコメンテーターを務める。2016年4月に、日本語、英語、そしてプログラミング言語で教えるトライリンガル教育のフリースクール「YES International School」をはじめる。

ホームスクールには第三者機関が必要

北本さん
「YES Homeschool×PRO」のように第三者が「うちに来ていますよ!」と学校に言ってもらえることは、とても大切です。

学校の先生も子どもたちが安心・安全に過ごしているのかをチェックしなければなりません。親が「ホームスクーリングです、学校には行かせません」と言うと、「家で何をしているか、子どもに何をされているかわからない」となってしまい、「とりあえず、子どもに会わせてください」と家に詰めかけてくる先生もいます。

ホームスクーリングをしている身としては、こういう第三者機関は絶対に必要だと思います。

北本貴子さん(NPO法人日本ホームスクール支援協会・理事)

竹内さん
インターナショナルスクールに来る子どもは、地元の学校には行かないわけです。

ではそういう時にどうするのかということです。地域によって異なりますが、横浜の場合は、はじめに市役所でどこに通っているのか届ける形になっています。インターナショナルスクールに電話がかかってきて、対応することもあります。そうすると、学校側としても安心ができます。

「アンブレラスクール」(Umbrella school)があれば、ホームスクーラーの方もこういった場で勉強していますとお伝えすることができます。学校とのやりとりは、一つの交渉事なので、こういった場があれば、親御さんの負担も減ると思います。特に精神的な部分で大きいと思います。

北本さん
ホームスクーリングは、校長先生によって判断が異なるため、親は学校の先生以上に法律なども勉強して、たびたび交渉をしなくてはならないのでとても大変です。

特に「アンスクーリング」(Unschooling)の場合は、勉強しているという評価を出し難い状況があります。本人は勉強する意欲はあるのですが、とびとびで学んでいるとことがあります。6年生で習う漢字も出来て、中学生で習う漢字も出来るけれど、1年生で習う一部の漢字がわからないということがあります。

試験も受けにくく、遊んでいるだけじゃんと言われてしまうので、アンブレラスクールのような第三者機関がサポートしてくれることは、とても有り難いことだと思います。

不登校とホームスクールの違い

竹内さん
世界的には、ホームスクーラーの方が普通の学校に行っている人よりも学力が高いという数値は出ており、ホームスクーラーの方が勉強出来ないということはないわけです。

何が起きているかというと、日本の学校システムが遅れているだけの話です。文部科学省は、海外の状況を視察して知っているので、ホームスクールについても舵取りしたいと考えていると思います。

しかしながら、教育にかかわる議員の一部は、考え方が古く、上手く進まない状態になっています。新しく変わっていくまでに時間がかかるので、アンブレラスクールのようなものがあるとトラブルの解決に役立つのかもしれません。

北本貴子さん(NPO法人日本ホームスクール支援協会・理事)、竹内薫さん(YES International School・学校長)

北本さん
ホームスクーラーの家庭って本当に多様な形や考えがあることがわかりました。

不登校からホームスクーラーになる方もいらっしゃいますし、不登校のままホームスクールに進めない方もいらっしゃいました。日本の場合は、最後の最後で親がそこから抜けきらないということが多いです。義務教育で親も育ってきたので、ホームスクールをするというのは、どうしても忍耐が続かないのです。

ホームスクーラーの家庭同士でも、子どものコミュニティを作ろうとつながろうとするのですが、ホームスクーリングのやり方の違いについてトラブルになることもありました。そいういったことを払拭するために、現在の理事でホームスクールの三原則を作ったりもしました。

人工知能の時代に生き残れる人材とは?

竹内さん
私は、全国各地の企業から呼ばれて講演に行きます。その中での最も多い話は、「人工知能」についてです。今、AI社会が到来しつつあるので、全国の企業ではそれに対してどう対処すれば良いか考えています。どのように変わっていくのか、人材教育はどうあるべきかという話をしています。

講演をしていく中で気がついたのは、今、不登校の子どもたちが増えているという統計がありますが、それは子どもたちの脱出現象がはじまっていることなのではないかと考えています。

大枠で考えた時に何が起きているか考えてみると、今の教育システムは、第一次から第三次の産業革命までの会社に入って仕事ができる人材を育てるという暗記学習が中心でした。そのシステムがずっと続いてきたわけですが、今はもうそのシステムは必要ないわけです。

竹内薫さん(YES International School・学校長)

人工知能が一番得意なのは、暗記です。彼らは、物凄いスピードで機械学習を行い、過去問などをどんどん勉強していきます。過去のパターンを学習することは、人工知能の方がずっと適しているので、人間がそれをやっても勝てないわけです。

ですから、これからの時代で必要とされる人材は、プロジェクトをきちんと仕上げていくことができる人。そうしないと生き残れません。

たとえば、アメリカでは、会計士の失業が始まっています。会計書類の作成は、パターン化されています。パターン化は、AIの得意分野であり、一生懸命に勉強して資格をとっても、仕事がなくなってしまいます。

とはいえ、会計士が全員消えるわけではありません。会計士の中で生き残るのは、コンサルタントができる人だけです。それは、人間のコミュニケーションの話になるので、臨機応変に会社の状況に応じて銀行を紹介したりできるソフトスキルが非常に重要になってきます。

ホームスクーラーは、時代の状況をいち早く察知して外に飛び出している

自分の仕事がなくなったときにも、プロジェクトだと考えて、「この仕事はなくなったんだ。だから次のプロジェクトにいこう!」と方向を変えます。「違う仕事を探す」ではなく、「違うプロジェクトに取り組む時が来たんだ!」という考え方です。それには、学校に行っている子どもの時から、プロジェクトをちゃんと仕上げていくクセがつかないとダメなんです。

これまでは、主に暗記をしました。そして、テストがありました。テストで漢字を全部書きました。1年生、2年生、3年生と決まっている。計算もできました。ドリルをやりました。これらは、すべて考えなくてよいことで、考えなくてよい練習をしているわけです。

そういったことをずっとやってきて、社会に出ました。「学歴が高くても、あの人使えないね」という人は今までもいました。それでも今までは、会社に居残れました。しかし、これからは、人工知能が取って代わるんで、そのような人は首にしていきます。

今、大変な時代が来ており、そのようなことがアメリカでは実際に起こってきています。良い学歴を得るために、有名大学にローンを組んで通った方の収入がどんどん下がってきており、恐るべき数字が出てきています。

「日本は10年遅れている」とよく言われますが、「10年後にはそうなる」ということです。間違いなく人工知能の時代が来ます。その状況の中で、日本のホームスクーラーの人は、時代の変化をいち早く察知して外に飛び出しています。それは、進化であり、生き残っていくためにはそれしかないのです。

問題なのは、進化できていない既存の学校はどうするのかということです。これは国家規模の大変な問題です。アメリカも民間レベルで動いており、イギリスやドイツ、北欧は国家レベルで取り組んでいます。

日本は、第四次産業革命に完全に乗り遅れています。日本の大手企業も強い危機感を持っており、自分たちが10年遅れていることもわかっており、自分たちが持っていないから海外の研究所を買収するわけです。そういった状況が教育の現場へおりてきていないのは、大変な問題だと感じています。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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