子どもの頃、児童館で遊んだことはありますか?
小学校の放課後に近所の児童館へ遊びに行って、室内で漫画を読んだり、ボードゲームや卓球をしたり、外で友達と一輪車やボール遊びをした記憶が筆者にもあります。読み聞かせや体操、工作など乳幼児向けの活動も盛んに行われ、近年は、中高生を対象とした児童館も見られるようになっています。
一方で、近年、児童館が多く設置されていた東京でも廃止・再編の議論がたびたび見られるようになりました。
豊島区では児童館を全て廃止し、杉並区でも廃止の議論が行われ、他区でも類似事業との統合・再編の議論が行われています。児童館の設置状況は、平成13年前後から現在まで微減微増を繰り返してほぼ横ばいの状況となっています。
今後、児童館の数は、減少していく可能性が高いと筆者は推測しています。なぜ、今、児童館の廃止・再編が進んでいるのでしょうか?調査データを用いながら、児童館の廃止・再編が行われる理由を整理しました。
全国の児童館の現状
児童館は、児童福祉法の第四十条に規定されている「児童厚生施設」の一つです。0歳~18歳未満を対象とし、「児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、又は情操をゆたかにする」児童福祉施設です。小型児童館、児童センター、大型児童館など規模や用途に応じて種類があります。民営・公営を含めて、全国に約4,600カ所(平成26年)が設置されています。
(第1回調布市児童館のあり方検討委員会会議結果:資料5-3)
都道府県や市区町村の任意設置の施設であり、市区町村における児童館設置率には、都道府県によって大きな差があります。「児童館を知っていますか?」と聞いてみると、子どもの頃に育った地域によって「児童館って何?」「誰でも児童館は知っているでしょ!」という正反対の答えが返ってきます。
平成27年の児童館の実態調査によれば、市区町村における児童館の設置状況は、62.2%となっています。子どもの頃に設置率の高い地域(石川・香川、大分、東京、愛知、福井)に住んでいた方にはよく知られていますが、低い地域(北海道、長野、福島、神奈川、岡山、千葉、茨城、青森、福岡、大阪、島根)に住んでいた方にはあまり知られていません。
(平成27年度子ども・子育て支援推進調査研究事業:一般財団法人児童健全育成推進財団)
施設の老朽化をきっかけに、児童館の必要性が検討される
平成27年全国児童館実態調査によれば、児童館の休館・廃止の主な理由は、施設の老朽化、少子化による児童数の減少、放課後子ども教室などの類似事業との統合の3つ挙げられています。
(平成27年度子ども・子育て支援推進調査研究事業:一般財団法人児童健全育成推進財団)
児童館の多くは、昭和または平成の早い時期に多く設置されており、現在、建物の老朽化による補修や建て替えなどの必要が出てきます。
財政が潤沢であれば問題ないのでしょうが、多くの自治体ではそうでなく、少子化の流れと共に「この機会に児童館を見直そう」という話になることは想像に難くありません。
同じ児童福祉の分野でだけでも、待機児童問題などを抱える保育所のニーズは切迫しており、他にも「虐待・要保護」、「障害」、「貧困」などの対応が必要な問題は増えています。他にも学校などで行っている放課後事業と統合して予算削減・合理化を図り、他の事業へ予算をまわしたいと考える流れは必然だと考えます。
児童館には、福祉施設としての施設規模等の設置基準が設けられており、そういった制約を受けないようにするため、独自の条例を設けて別の部署(地域振興など)で管轄するようなケースも多く見られます。児童館という形をやめて、「機能」を移すという考えでもあります。
児童館=子どもの「無料室内娯楽・余暇施設」という見方
問題は、児童館の「機能」とは何かということです。概ねの世間一般の見方は、子どもの娯楽・余暇の施設であり、あってもなくても良い場所として捉えられています。
遊びの価値を低く見ている日本では、「遊び=子どもの成長・発達に不可欠なもの」という認識が低い状況もあります。
保育所や学童クラブは、子どもを預かる場所だと認知されていますが、児童館にはそういった機能もなく、行きたい子が行く無料の「室内遊び場」として、認知されています。
残念ながら本来の地域の児童福祉・ソーシャルワークの最前線拠点という認識は、ほとんどされていないのではないでしょうか?
これからの児童館の方向性を示す「児童館ガイドライン」
これからの児童館運営の望ましい方向性が示された「児童館ガイドライン」が平成23年に厚生労働省から出されました。
(第1回調布市児童館のあり方検討委員会会議結果:資料5-3)
これまでも各地域の実情に合わせて児童館では多様な活動が行われていました。一方で多様がゆえに、児童館の活動内容や方向性にバラツキが出てきます。「児童館ガイドライン」によって、これからの児童館の方向性について考え方が示されたことは、非常に大きいと思います。
児童館の起源ともなっているセツルメント(貧困など社会的課題を抱えた地域に、教育・医療・福祉・法律などの専門家が常駐し、住民と共に、地域環境や社会制度の改善をはかる活動)にも通じ、現在の日本の児童福祉が取り組むべき内容が反映されています。
非常に残念なのは、平成27年全国児童館実態調査によれば、「児童館ガイドライン」を担当部局に周知している市区町村は、児童館を設置している市区町村のうち、55%にとどまっていることです。実際に担当部局に周知している市区町村の87.1%が職員研修、運営の点検・見直し、マニュアルの改善、業務仕様書の改善などの児童館運営に反映しています。
「児童館ガイドライン」が絵に描いた餅にならないように、いかに現場に浸透させていくかが、これからの課題になっていくと思います。
地域の子どもの状況に応じて「変化する児童館」が必要とされる
児童館廃止に対する反対の声は、住民ではなく児童館職員からあがっている場合が多いように感じます。
「コップの中の嵐」という言葉をご存じでしょうか?当事者にとっては大きな事柄であっても、他にあまり影響せずに終わってしまうもめごとのことを指します。
児童館の場合、その当事者が児童館職員で、周囲の市民からの声がなかなか広がりません。「利用者が子どもなんだから当たり前でしょ!」と言われそうですが、本当にそうなのでしょうか?
本当に必要性の高い場であれば、居場所として利用している子どもの親、活動場所として利用している支援者(ボランティアや児童福祉関係者など)から声があがるはずです。地域の子どもの課題に積極的に取り組むことが出来ていれば、政策的にも重要な福祉拠点として政治的な声もあがるはずです。
ダーウィンの進化論では、「変化する者が生き残る」という有名な一節があります。地域の子ども達の状況を適格に読み取り、児童福祉の側面から課題に対応していくために、「変化する児童館」のみが、今こそ必要な施設として残っていくのではないでしょうか?
地域に根付いた児童館だからこそ、子どものソーシャルワークができ、子どもたちの多様化する問題に対応できる可能性を持っていると思います。私は、児童館という看板にこだわる必要はないと考えていますが、子どもに関する問題が山積している今、地域の実情を知る児童福祉の専門職員(児童厚生員)がいなくなり、重要な子どもの支援機能がなくなることを危惧しています。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。