2015年2月23日、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社東京本社にて「被災地・子ども教育調査」報告セミナーが開催されました。
セミナーでは、東日本大震災で被災した子ども1,987名、保護者2,338名を調査対象とした「被災地・子ども教育調査」の分析結果の中間報告を行いました。本記事では、本セミナーで三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の喜多下研究員から発表されたアンケート調査結果をレポートします。
※この調査結果の分析については、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社様が主催している「ソーシャルビジネス支援プログラム」の一環で、同社のプロボノ社員の方々にご協力いただいています。
※調査は、CFC「教育クーポン」応募者、東日本大震災復興支援財団「まなべる基金」奨学生を対象に実施。調査方法の詳細、回答者の属性等はこちら(P4~10)をご覧ください。
調査結果1:被災家庭の経済状況はまだ十分に回復していない
被災を発端とする親の雇用状況の変化等により、震災後4年が経とうとする現在においても、家庭の経済状況は十分に回復しているとは言えません。
▼震災前後の雇用形態の変化
父親の正規就業割合(正規雇用職員、自営業または家族従業員の割合)は、震災前後で9.4ポイント減少し、非正規就業(派遣社員・契約社員・嘱託、パート・アルバイト)又は無職の割合は、震災前後で7.0ポイント増加しました。
▼震災前後の世帯収入の変化
東日本大震災前後の世帯収入を比較すると、全体として震災後に収入が減少していました。特に、世帯収入250万円未満の低所得家庭は、8.3ポイント増加(28.4%→36.7%)していました。
調査結果2:所得の格差が教育機会の格差につながっている
調査では、家庭の経済状況の悪化が、アルバイト就業による家庭学習時間の減少や、学習塾・習い事等に通うことを断念するという形で、子どもの教育機会の格差につながっている可能性が示唆されています。
特に今回の調査では、学習意欲が高い子どもが多いにもかかわらず、経済的な理由によって学校外教育を受ける機会が失なわれている状況がみられました。
▼所得と学習時間の相関
放課後に「宿題以外の学習を全くしない」と答えた子どもは、相対的貧困世帯(※)の子どもの方が7.9ポイント多く、相対的貧困世帯の子どもと、そうでない世帯の子どもでは、放課後の学習時間に差が見られました。
※内閣府が実施した「親と子の生活意識に関する調査」と同様に、世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得の中央値の半分を貧困線と定義し、それに満たない人を「相対的貧困層」と定義しました。(詳細はこちら)
▼所得とアルバイトの相関
相対的貧困世帯で定期的にアルバイトをしている子どもの割合は16.0%で、そうでない世帯の子どもと比較して、6.1ポイント多いことが分かりました。
▼アルバイトと学習時間の相関
定期的にアルバイトをしている子どものうち、宿題以外の学習時間をとっていない子どもの割合は49.7%(アルバイトをしていない子どもの約2倍)に上ることがわかりました。
▼子どもの通塾・習い事の状況
相対的貧困家庭の子どもの通塾率は27.4%、学習塾以外の習い事や学校外のクラブ活動をしている子どもの割合は14.2%で、相対的貧困でない子どもと比較して、それぞれ9.1ポイント、7.1ポイント低いことが分かりました。
なお、子どもが学習塾や習い事に行くことができない理由を「経済的に余裕がないから」と答えた保護者は、内閣府実施「親と子の生活意識に関する調査」(以下、「全国調査」)では38.8%だったのに対し、今回のアンケート調査では、75.0%に上りました。
一方、子どもが学習塾や習い事に行くことができない理由を「子どもがやりたがらないから」と答えた保護者は16.7%に留まり、全国調査と比較しても、今回調査対象となった被災家庭の子どもたちの方が学習意欲のある子どもが多いことが分かりました。
※「全国調査」は中学3年生及び中学3年生の子どもを持つ保護者が対象。そのため全国調査との比較の際は、アンケート調査の分析対象も中学3年生及び中学3年生の子どもを持つ保護者に限定。
調査結果3:所得の格差は希望の格差にもつながっている
今回の調査では、全国調査と比較して子ども・保護者ともに、現実的な進学先を理想よりも低く見積もる傾向がありました。
現実的な進学先を低く見積もるのは「家庭に経済的な余裕がない」から、という理由が、保護者のみならず、子どもに対しても広く浸透している実態が明らかとなりました。所得の格差によって、子どもたちが自ら希望を押さえこんでしまっていることが懸念されます。
▼子どもの進学の理想と現実
子どもたちは現実的な進学先(教育段階)を理想より低く見積もる傾向があり、高等教育機関までの進学希望者の割合は、理想よりも現実の方が12.0ポイント(理想80.4%、現実68.4%)低い結果でした。
子どもたちは、なぜ現実的な進学先を理想より低く見積もるのでしょうか。今回のアンケート調査では、その理由として、「経済的な余裕がないから」と答える子どもの割合は43.3%に上りました。
▼保護者の進学先の理想と現実
子どもと同様、保護者の間でも、経済的な理由で現実的な進学先を理想よりも低く見積もる傾向がありました。特に、今回の調査対象者は、全国調査と比較しても子どもの進学に対する理想が高いものの、現実的に考えて大学等への進学を断念している保護者の割合が高いことがわかりました。
保護者が現実的な子どもの進学先を選択した理由について、「経済的な余裕がないから」と答えた保護者の割合は、今回の調査対象者では36.8%(全国調査では12.2%)と、今回調査対象となった家庭の方が24.6ポイント高いことがわかりました。
※中学3年生の子どもを持つ保護者を対象とした調査結果
以上が、今回のセミナーで報告された調査結果です。
なお、本調査については、取得したデータをより詳細に分析し、最終的に本年春~夏ごろに調査結果全体をまとめた白書を発行する予定です。
今後も、私たちCFCは、東日本大震災で被災した子どもたちが置かれている状況を定量的に社会に発信し、ひとりひとりの子どもたちにより適切な支援を届けられるよう全力を尽くしていきたいと思います。
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事。大学在学中に、不登校児童等の支援に携わる。卒業後、株式会社公文教育研究会(KUMON)に入社し、子どもの学習指導や学習教室のコンサルティング業務に従事。東日本大震災後、チャンス・フォー・チルドレンを設立し、代表理事に就任。子どもの貧困対策センター・公益財団法人あすのば アドバイザー、学校法人軽井沢風越学園評議員。著書「体験格差」、共著「東日本大震災被災地・子ども教育白書2015」。
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