インドネシア

なぜ、日本の教育は不幸せな子を生み出すのか?-日本とインドネシアの子どもの幸福度調査からわかったこと

インドネシアのgreen schoolの様子(インドネシアのgreen schoolの様子)

NPO法人cobonでは、これまで関西を中心とした多くの地域で小学生~高校生向けの教育活動を行ってきました。しかし、そのような活動をやればやるほど感じることは、果たしてこのままの教育アプローチで良いのかという疑問です。

例えば、ニートフリーター問題が多くなる。だから、幼少期からのキャリア教育が必要。携帯裏サイトや未成年の携帯ゲームなどでの課金が増えている。だから、ICT教育が必要。

日本市場が少子高齢化しているため、大手製造系企業の顧客が、海外の市場に増えている。これからの社会を国内市場だけで生きる人にはなると納税できる人材が少ない。だから、グローバル人材教育が必要。

つい最近のニュースだが、大阪府ではがん検診受診率が低いため、がん教育というものも来年度行うそうです。

教育はいつから、将来起きうるリスクを避けるためのものになったのでしょうか?

大人はなぜ子どもたちにそれらを良かれと思って教育の名のもとで提供しはじめたのでしょうか?

そこで、まったく文脈の違う海外、それもアジアに飛んでみようと思ったのは、まさにそのような教育をしている中で、弊社の経営環境も厳しくなった時でした。

食育の一環で SD HIKMAH で屠殺した牛を生徒と一緒にさばいているところ(食育の一環で SD HIKMAH で屠殺した牛を生徒と一緒にさばいているところ)

インドネシアだからこそ生まれる新しいオルタナティブ教育のカタチ

2011年5月にインドネシアに飛び出して行きました。当時は円高が進んでいて1ドル80円の時代。インドネシアのルピアもその値段に対応しているため、現地の価格も安かったことを覚えています。(感覚的には2014年10月の約2/3)

私を受け入れてくれた Romy Chayadi は、当時、provisi education という教育団体の共同代表を行っていました。(現在はunltd Indonesiaのdirector) 彼はよく私に言ってくれた Indonesia has no good education しかし、私が彼に対して聞きたかったのは、インドネシアだからこそ生まれる新しいオルタナティブ教育のカタチ。

たとえば、その1つであるSekolah Alam Cikeas インドネシアでは、バリにあるgreen school がすべて竹でできていてその自然環境から様々なことを学べるとして有名ですが、類似の学校は他にもたくさんあります。Sekolah Alam Cikeasはその1つ。

代表は、言う。「大人や学校が変化をすることをこわがっている。だから、私たちは子どもたちから変えていきたい。もし、教室の中でたいくつを感じている子どもたちがいれば、どこへ行ってもよい。なぜなら、教室の外には彼らが学ぶものがいっぱいあるから。」

SD HIKMAH TELADANはイスラミックスクールであるものの、その新しいカリキュラムが有名です。ここではインクルーシブ教育も、学びあい教育も当然のように行われていました。そして、イスラム教のタブーでもある豚というキャラクターについて考えるような授業もあります。その授業の中では、教員から豚が英雄であるというストーリーをあえて紹介することで、生徒たちは豚はタブー=悪者であるという固定概念をはずすことが可能になります。

また、それ以外のキャラクターが持つ役割を生徒1人ひとりが考えることで、意見や想像力を大切にするという話を聞かせてもらいました。ちなみに、ここの学校の教育コンサルタントの家に泊まらせてもらいましたが、マルチプルインテリジェンスやホリスティック教育などの本が当然のように並んでいました。

KKCCでワークショップをしている様子(KKCCでワークショップをしている様子)

日本とインドネシアの子どもたちの幸福度調査

インドネシアに行き、2013年から弊社が行っている事業にKapuk Kids Creative Cityというプログラムがあります。弊社のKidsCity!を中心にして事業を行ったプログラムで今年で2年目。今年は、READY FORのサポートを受けて行うことになりました。

そこでも、今年いくつか実験的な取り組みを行いました。そのうちの1つが、日本とインドネシアの子どもたちの幸福度調査です。Satisfaction With Life Scale (SWLS)というテストの英語版をインドネシア語に翻訳し調査を行いました。(出典:Ed Diener, Robert A. Emmons, Randy J. Larsen and Sharon Griffin as noted in the 1985 article in the Journal of Personality Assessment.)また、日本人の平均値などは、幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書)を参考にしました。

その結果として、インドネシアKapuk SMPN122の中学1年生~2年生51名にとった結果、SWLS のスコアは、35点中26.1点となりました。(日本の平均は18.9点、日本の大学生の平均は20.2点である。)

もちろん、この結果だけでインドネシアが日本より幸福であるなどという短絡的な結果を出すつもりなど毛頭ありません。しかし、SWLSの質問項目をよく見ていくと

1.「ほとんどの面で私の人生は私の理想に近い」
2.「私の人生はとてもすばらしい状態だ」
3.「私は自分の人生に満足している」
4.「私はこれまで自分の人生に求める大切なものを得て来た」
5.「もう一度人生をやり直せるとしてもほとんど何も変えないだろう」

1~5の多くで共通している部分があります。それは、”過去”と”現在”に注目する質問が、幸福度調査に多いということです。

1の質問であれば、理想をイメージするには”過去”の積み重ねからイメージすることが重要であるでしょう。2、3の質問では、”現在”にフォーカスしています。4の質問でも、”過去”の人生を振り返っています。5の質問では、一見”未来”を考えているようでありますが、文脈からこれまでの人生の経験値から得られる達成度合を図るものであると考えられるため、これも”過去”に紐付きます。

そこで、「”過去や現在”ではなく、”未来”にフォーカスしている状態では、幸福度はやってこないのではないだろうか?」という仮説をたててみました。

KKCCでマルチプルインテリジェンスを確認している様子(KKCCでマルチプルインテリジェンスを確認している様子)

教育が不幸せを生み出す

(参与観察をしながら)インドネシアKapukの家に2週間ホームステイをしながらプログラムをつくってきました。そこで彼らはイスラム教ということもあり、日々をとても丁寧に生きていました。

毎朝4時に起きお祈りをして、お酒を飲まず、暴飲暴食を避けて暮らしています。もちろんゴミを捨てたり、運転が荒っぽいなどありますが、それは文化的な要素が大きいのです。そのような荒っぽいジャカルタの交通渋滞を乗り越える文化性を除けば、彼らは日々の生活やリズムの中で、”現在”や”身の回りの家族”や”地域”を大切にして生きています。

最近では、マインドフルネス(「マインドフルネス」は、「意図的に、今この瞬間に注意を向けること」を意味する英語。)がgoogleなどの企業でも取り入れられて話題になっています。

もう一度、冒頭の日本の教育の在り方に戻りたい。

キャリア教育、グローバル教育、がん教育などそれらは”現在”に注目しているのでしょうか?

“過去”の良い部分に注目しているのでしょうか?

もし、”未来”に注目していたとしても、その”未来の良い可能性”に注目しているのでしょうか?

改めて考えたい。

教育はいつから、将来起きうるリスクを避けるためのものになったのでしょうか?

大人はなぜ子どもたちにそれらを良かれと思って教育の名のもとで提供しはじめたのでしょうか?

Sekolah Alam Cikeasのディレクターは、こう言っていました。

「大人や学校が変化をすることを怖がっています。だから、私たちは子どもたちから変えていきたい。」

大人が、”現在”に注目できない結果、変わることや将来起きるリスクを避けるために行わるものが、教育だとすれば、その教育が不幸せを生み出しているという結果になってもおかしくはありません。

問題なのは大人が暮らす環境システム

2013年8月にJapan Foundation Jakartaで講演をしたときに約50名ぐらいのインドネシアの教育関係者や大学生が集まる場をつくりました。そこで、ある質問を会場の参加者に投げかけた ”Education makes us unhappy?” と質問してみました。

会場全員から「No!」(そんなはずない!)という答えが返ってきました。一方で、日本のFacebookで同じ質問をしてみました。日本の場合は、短時間であり、筆者の友人からのコメントが多かったのですが、”Education makes us unhappy?”の答えは、「あると思う:38人」、「時々ある:20人」、「ない:2人」でした。

ここまで説明してくると分かると思うのですが、私の主張は、”日本の教育が問題”なのではなく、”日本の教育を取り巻く大人が暮らす環境システム”が問題だと感じるようになりました。

重要なことは、自分たちがこのシステムをつくっている一部であると実感することです。”私たち大人が暮らす環境システム”を変えるために必要なことは、日本がどこに行こうとしているのかを、未来に生じるリスクを避けるための動きからではなく、過去と現在のあるべき姿から、学問をし続けながら再び取り戻すアプローチだと思います。

Author:松浦真
大阪府出身。2007年にNPO法人cobonを設立し、関西を中心に「こどものまち」事業やアーティストの交流事業を展開。2016年4月に2人の子どもと共に五城目町に移住し、合同会社G-experienceを設立。2020年4月より、秋田県五城目町議会議員。

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