災害・復興支援居場所

4年目に入る被災地。子ども「だけ」の支援では子どもを救えない。-NPOが使命を果たすためにすべきただ一つのこと

宮城県石巻市・TEDICの学習支援の様子(宮城県石巻市・TEDICの学習支援の様子)

深刻な子どもを取り巻く環境

ある男の子がこんなことをつぶやきました。「親が精神疾患、アルコール依存症を煩っている。」通院はしているものの、時々、家の中で大声を上げたり、物を投げたり、自分の感情をコントロールできなくなることがあるそうです。

仮設住宅に済んでいる彼には、逃げ場がない。彼自身に向けられた暴力や暴言だったりするわけではありませんが、その場に居合わせざるを得ない、その心のうちは、想像しても想像しきれない重いものが渦巻いています。

彼がTEDICに繋がったのは、この親自身の精神疾患について、別のNPOが支援にあたっているうちに、子どもがいること、また困難な状況に置かれていることがわかったという経緯です。彼自身は、以前の学校を辞め、現在は通信制の学校に通っています。

子ども「だけ」の支援では解決できない大きな根っこ

TEDICは震災直後の1年間こそ、学校代わりとしての学習支援を掲げて、活動をしてきたものの、現在は「社会的な繋がりを失いそうな子どもたち」への居場所作りを行っています。

TEDICが運営する放課後教室の様子(TEDICが運営する放課後教室の様子)

震災が教えてくれた教訓の1つとして、「今日の当たり前が、明日の当たり前とは限らない」ということがあります。学校や家庭での繋がりのみでも、頼れる人がいて生きていける子どもでも、どんなタイミングで、その繋がりを遮断されてしまうかわかりません。

そこでTEDICでは、学校と家庭以外での社会との繋がりを生む場所として、自習サポートをコンテンツにした放課後教室という事業を実施しています。

したがって、集まってくる子どもたちは、特に何の問題もなく学校に通っている子どもから、様々な困難を抱えている子どもまで様々です。だが、結局のところ、後者の子どもたちが多く集まってきています。学校での対人関係の悩み、学力不振に始まり、家庭での親子関係、経済的困窮、時にはネグレクトや虐待が疑わしいケースにも遭遇することがあります。

ある中学生の男の子は、家の借金のことで責任を負わされそうになっていて、そのことに悩んでいたりする。ある高校生は、時には車の中で一晩を明かすような家庭環境だったりします。ある小学生は、親に甘えられた事がありません。「お金あげるからあっちにいって!」と親がコミュニケーションをすべてお金で解決してしまうからです。(背景には、親の精神疾患があったり、仮設住宅での生活があったりなどするが、ここでは割愛します。)

そんな子どもたちがTEDICのチューター(スタッフ)に悩みを打ち明け、不安を吐露し、時には悔しそうな表情で憤りをつぶやく。個別での対応を迫られることもしばしばです。チューターに出来る事は彼らの気持ちを受け止めること、一緒に悩むこと、考えること、「助けて」のサインに気付くこと。チューター自身が、問題の大きさに無力感に苛まれることがないように、事務局でもサポートをしなければならなりません。

例えば、こんな調査結果があります。

東北大学東北メディカル・メガバンク機構調査
被災した宮城県の住民のうち、27%がうつ傾向を示しているといいます。実に、4人に1人がうつ傾向にあるというこの結果は、子どもはもちろん、その保護者が精神疾患を抱えたり、その予備軍である可能性を示唆しています。

例えば、こんな調査結果があります。

出展河北新報社アンケート

被災地域の学校長のうち、69.2%が子どもたちに震災の影響があると回答しています。そして、その具体的な問題として挙げられたものが、家計が苦しい(63.2%)、家庭学習の場を確保できない(52.3%)、家庭内の問題で精神的ストレス (42.4%)などです。

何が伝えたいかというと、子ども支援を突き詰めていけば突き詰めるほど、子どもへの支援「だけ」では解決できない大きな根っこが見えてくるということです。とてもじゃないありませんが、1つのNPOの専門性でどうこうできる問題ではありません。

シンプルで、唯一の解決策、”連携・協働”

TEDICではケース会議(チューター同士で子どものケースを整理する)、ケースカンファレンス(関係機関と整理されたケースを切り分け、役割分担で課題解決にあたる)を行っていますが、1つ1つのケース、それぞれに専門性が求められる場合が多いのです。

TEDICのケース会議の様子(TEDICのケース会議の様子)

例えば借金については債務整理のために弁護士が必要だし、親の精神疾患については精神保健福祉士、時には精神科医が必要だったりします。復学ではなく就労を目指すとなった場合には、キャリアカウンセラーが必要だったりもします。(あくまで例示であり、全てがこの通りではありません。)

TEDICのような子ども支援のNPOが使命を果たすためには、1つのNPOで全てを解決するというスタンスではなく、様々な社会資源を巻き込む覚悟が必要だと思います。

AというNPOが○○というミッションを掲げていたとします。大切な事は、○○をA「が」達成することではありません。誰が達成しようとも、○○というミッション「が」達成されることです。実際、○○というミッションを達成するために、あらゆる手段を1つのNPOで行うことは現実的ではないと思います。

具体的に言えば、従来に見られるNPOと行政、NPOと企業の連携・協働だけでなく、NPOとNPOとの連携・協働が必要になってくるのではないかと思います。この連携・協働の発想こそが、震災が”始まって”3年の今、正に被災地の未来を描く上での鍵になってくると考えています。そして、この発想が必要なのは被災地に限った話ではありません。

次回は、具体的にこの連携・協働には、どのような形があるのかについて触れたいと思います。

Author:門馬優
1989年生まれ、宮城県石巻市出身。石巻圏域子ども・若者総合相談センターセンター長。早稲田大学大学院教職研究科修士課程修了。東日本大震災で故郷が被災、2011年5月にTEDICを設立(2014年にNPO法人格取得)。貧困、虐待、ネグレクト、不登校、ひきこもりなど様々な困難におかれる子ども・若者に伴走しながら、官・民の垣根を超えて、地域で育んでいく支援・仕組みづくりに取り組み、主に困難ケースへのアウトリーチを中心に子ども・若者に関わる。
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