はじめまして、NPO法人cobonの松浦です。
つい先日、地下鉄に乗っていると、「その国には英語だけが足りない」というキャッチコピーがある英会話学校の車内ポスターを見かけました。商品宣伝としては、とても秀逸なコピーだなと思う一方で、日本の社会人は、みな英語を使って海外で戦えるグローバル人材になろうというような雰囲気を感じました。
そして、その英会話学校だけでなく、海外で勝負できる人材になっていこうというその流れは、ビジネスや教育に与える影響としてもはや無視できないレベルにまで増えてきているように感じます。
今回から数回に渡り、このようなグローバル社会が教育に現在与えている・今後与えていく影響をこれまで10年ほど様々な実践が生まれてきた教育現場におけるキャリア教育と交えながら私が感じていることを書いていきます。
この記事がこれからの教育を一人ひとりが考えていく上での材料になればと思います。
キャリア教育が歩んできた経緯
私は過去6年間で大阪府内を中心に70校、10,000人を超える小学生~高校生の子どもたちにキャリア教育プログラムを提供してきました。このキャリア教育は、現在すべての小学校~高校で実施することと指導要領に書かれています。
キャリア教育が導入される前のいわゆる「進路指導」では、次の段階、小学校であれば中学校、中学校であれば高校、高校であれば専門学校、大学もしくは就職など卒業後のステップをベースにした進路先の指導をメインに行ってきました。
しかしながら、昨今の日本経済では、サービス業などに就く割合が増え、これまでの進路指導だけではなく、学校在学時には名前さえ存在しないような自分自身の未来の仕事(ソーシャル・ネットワークゲームは10年前にはありませんでした)をどのように考えていくのか、そこに大人がどのように関わるのかが常に問われてきました。
今、存在しない未来に生み出されるような職業に就くためには、どのようにしたら良いのか?
そこで、より勉学の中でも、これからの社会をたくましく生きる力を獲得することが大事だという流れになってきました。
このような流れの中で、キャリア教育は、より勉学と実学を連携させ、学ぶ意欲を育む手段とし現在ではすべての小学校でキャリア教育を実施することと指導要領にも書かれています。
※キャリア教育についての詳しい説明は、文部科学省の下記サイトを御覧ください
ストレーター信仰を生み出す背景
キャリア教育はこれまでの価値観と社会の要請に答えるカタチで作られてきました。そこで発生するのが、私達大人が考える良いキャリアとは何かということです。
高校生が100人いるむらという動画があります。
高校を卒業し、大学や専門学校を出て就職し、その後も会社を辞めずに働き続ける人(これをストレーターと呼びます)は、100人のうち、半数以下の44人。つまり実際の社会では、ストレーターではない人の方が多いというストーリーです。
しかし、私達が学校で行うキャリア教育は、そのストレーターを生み出すためのアプローチとして機能することが多いため、キャリア教育自体が、ストレーターになれない人に
心に後ろめたさを与える効果を持つものになっているのではないかというのです。
確かに、小学校~大学までの学校の先生自体がストレーターをまさに体現する職業でもあります。
みなさんは、この状況をどのように考えますか?
日本の社会は今の状況を考えて、もっとストレーター以外の生き方(働き方)を増やす必要があるのか。
それとも、
日本の社会を支えてきたのは、ストレーターのように企業戦士として生きてきた先人たちなのだから、その生き方(働き方)に学ぶ必要があるのか。
参考に、ノマドという言葉や、社会起業家という言葉が生まれてきたのもここ5年ほどです。
彼らは、1つの会社で一生の仕事を終えるのではなく、自分の生き方をもっと表現するかのように、仕事をたくさん選んでいき、自分のやりたい仕事がな ければ、自ら仕事を創って行きます。また、時にはプロジェクト型で生まれた組織はその役割を終えると解散していくことさえあります。そして、そのキャリア を実践するロールモデルも同時に多く生まれていきました。
現在、17~18歳の子ども達に話を聞くと、SMAPの「世界に1つだけの花」がとても印象的であったという話を共通して聞きます。
「小さい花や大きな花 一つとして同じものはないから No.1にならなくてもいい もともと特別な Only one」
この歌は200万枚を超えるヒットとなりました。このような歌詞が若者たちの心をとらえた時期とそれを聞いて育った子ども達が社会に出て行く中で、「もともと特別な Only one」である、自分らしさをより探していくというプロセスが生じてきたのではないでしょうか。
全員が同じ道を選べた過去の進路指導から現在のように自分らしく自立するためのキャリア教育への変遷。
ストレーターだけを社会として受け入れていくのではなく、多様な生き方があるということを社会に提示するノマドや社会起業家という言葉など社会側の変容。
このように、一人ひとりが考えて自分らしさを求める流れがあり、ストレーターではなく、よりタフな職業選択ができる大学生、社会人に多くの人がなるためのプログラムとして、
今はじまろうとしているのが、多様性を前提としたグローバル人材教育であるのかもしれません。
このようなグローバル人材育成の中で起きている現象や課題などについては、次回以降詳しく記載します。
Author:松浦真
大阪府出身。2007年にNPO法人cobonを設立し、関西を中心に「こどものまち」事業やアーティストの交流事業を展開。2016年4月に2人の子どもと共に五城目町に移住し、合同会社G-experienceを設立。2020年4月より、秋田県五城目町議会議員。